真夏の蜃気楼
27
『アリエスは使えるがあちらこちら不具合があると聞いたよ。ナナリーは不自由をするならこちらにおいで』
シュナイゼルから連絡があったのはロイドが帰ってすぐのことだった。
「……よろしいのですか?」
「もちろんだよ。目の届くところにいてもらった方が安心できるからね」
微笑みながら彼は告げる。
『うちはうるさい親族はいないしね。君もゆっくりと出来るよ』
シュナイゼルはさらに言葉を重ねた。実はその言葉の裏に『処分しちゃったからね』と言うセリフが隠されているような気がしてならない。だが、藪をつついて蛇を出すようなまねはしたくないのだ。
「お言葉に甘えたら?」
スザクはそう告げる。
「スザクさん」
「こっちは僕とジェレミア卿がいれば大丈夫だろうし……ナナリーは咲世子さんと一緒にシュナイゼル殿下の所に行っておいでよ」
「スザクさんは一緒に来てくださらないんですか?」
「僕はここでやることがあるから」
にっこりと微笑んでそう告げる。
『あぁ、そうだね。彼らにはやっておくべきことがあるだろう』
どうやらシュナイゼルにはスザクがやりたいことがわかったようだ。にこやかにそう告げる。
「お兄さま……」
『君が気にすることはないよ。彼に勝てるのは陛下直属の騎士達だけだろうね』
生身であれば、とシュナイゼルは続けた。
『相手がナイトメアフレームだと……勝負にならないかな?』
それはナイト・オブ・ワンでも同じだろうが、とそう付け加える。
「……スザクさんもナイトメアフレームの操縦が出来た方がいいのでしょうか」
「ナナリー?」
何を言っているのか、とスザクは問いかけた。自分は名誉ブリタニア人だから本来なら銃も持てないのだが、とそう付け加える。
それがナナリーの護衛だと言うことで許可されている。それ以上は難しいのではないか、と続けた。
『そのあたりのことは彼に任せておきなさい。ついでに君はしばらくはあれの好奇心を満たしてくれればそれでいい』
自分が許可を出したと言えば文句を言えるものは少ないだろう。シュナイゼルはそう言って笑う。
『では、カノンを迎えを行かせるからね。他の誰に何を言われても耳を貸さなくていい』
「わかりました、お兄さま」
ナナリーがうなずいてくれたことでとりあえず安心をする。だが、シュナイゼルが自分の副官をよこすと言うことはあまり状況が良くないと言うことでもある。それだけが気がかりと言えば気がかりだろう。スザクは心の中でそうつぶやいた。
カノンにナナリーを任せるとスザクはアリエスの中へと引き返す。
「行かれたか?」
そこには戦闘準備を終わらせたジェレミアが待っている。
「はい」
「では、こちらも終わらせなければな」
ジェレミアはどう猛な笑みを浮かべながら言葉を綴っていく。
「ルルーシュ様の不在が明らかになった瞬間、マリアンヌ様の思い出を怖そうとするものは許されん」
「そんなバカをお仕置きしてルルーシュを迎えに行きましょう」
ようやく居場所がわかったのだから、とスザクも笑う。
「確かに。六年近くも行方をつかむことが出来なかったのは我らの不徳のいたすところ」
少しでも早く本国でお休みいただかなければ、とジェレミアは拳を振りながら告げた。
問題は、とスザクがつぶやく。
「……誘いに乗ってくれるでしょうか」
シュナイゼルの方に行かないか、と言外に告げる。
「乗るだろう。あいつらにあの方を襲う勇気はないだろうしな」
「ならいいのですが」
自分がいないところでナナリーに危険が及ぶのは一度だけでいい。そう思ってしまうのだ。
「本当にお前はナナリー様が心配なのだな」
「ルルーシュに頼まれましたし……それが俺の存在意義ですから」
ルルーシュに代わってナナリーを守るのが、とスザクは言い切る。
「……ルルーシュ様が戻られたらどうするのだ?」
「ナナリーだけではなくルルーシュも守るだけです」
そう告げればジェレミアの目に優しい光が混じった。
「そうか」
さらに彼が言葉を綴ろうとする。だが、それは警報に遮られた。
「来たようだな」
ジェレミアがそう言うと歩き出す。
「準備は終わっているな? 迎撃するぞ」
集まってきた部下に向かって彼はこう叫ぶ。
「了解しました」
そういうと彼らは自分のナイトメアフレームに向かって張りし出す。乗る機体のないスザクにしてみれば少しうらやましい。でも、ナナリーの立場を悪くするわけにはいかない以上我慢するしかないのだ。
「クルルギ……グラスゴーに乗っておけ」
ふっと思い出したようにジェレミアが振り向くとこう告げる。
「ですが」
「かまわん。シュナイゼル殿下の許可は得ている。使えるな?」
「……はい」
「では、そうしろ。ただし無茶はするな」
ナナリー様が悲しまれる、と続けるジェレミアにスザクはうなずいて見せた。
21.9.20 up