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真夏の蜃気楼

28



 もうじき就寝の時間だ。それを知っているはずなのに、なぜ、この男はここにいるのか。
 ルルーシュはいらだちを隠そうともせずに澤崎をにらみつける。
「それで? 話とは何なのか」
 自分の睡眠時間を削るほどの内容なのか、と付け加えた。
「ブリタニアが殿下の生存とこの国にとらわれていることを発表しました」
「本当のことだろう? 何がまずい」
 おそらく、自分を救出するための下準備が整ったのだろう。ルルーシュはそう心の中でつぶやく。
「殿下がとらわれたのは先日の戦いと言うことですが……」
 事実と違うが、と澤崎は問いかけてくる。
「貴殿は戦略をご存じないと見える」
 呆れたような声音でルルーシュは言い返した。
「私が貴殿らにとらわれていること。それを明かす時期も父上にしてみれば戦略の一つだと言うことだ」
 そう続ければ澤崎は悔しげに唇をかむ。
「もっとも、何がどこまで終わっているのかまではわからないな。あちらの状況を私は知らない」
 それでもあの父や兄姉達が自分を見捨てるとはみじんも考えられない。
 何よりもブリタニアにはスザクがいる。
 あいつであれば自分の居場所をつかめれば何があろうと助けに来るはずだ。
「どちらにしろ、麗華様だけはお守りしますが……それ以上のことは無理ですね」
「殿下!」
「私に力を持たせないよう、そして麗華様に好意を抱くようにさせたのはあなた方でしょう?」
 自分は自分に出来ることしか出来ない。一人では麗華を守るのが精一杯だ。ルルーシュは澤崎をにらみながらそう告げる。
「せいぜいうまいとおっしゃる根回しを頑張ってください」
 うまくいけば戦争を回避できるかもしれませんよ、と唇だけで微笑んで見せた。
「……殿下……」
「そろそろ就寝の時間なのだが?」
 言外に『帰れ』と告げる。
「今日の所は失礼いたします」
 これ以上話をしていてもルルーシュから自分が望む反応を引き出すのは難しいと判断したのだろう。澤崎は素直に引き下がる。
 パタンと音を立ててドアが閉まり彼の姿を隠す。
「これで諦めるとは思えないが……睡眠時間を削るのはやめてほしいな」
 わざとらしくルルーシュはそうつぶやく。その声が聞こえていることは間違いないだろう。
 だから信用できないのだ。
 ルルーシュは心の中でそうつぶやいていた。

 グラスゴーのコクピットの上に立ちながらスザクは目の前の光景を見つめている。
 そこではアリエスを襲ってきた騎士達がジェレミア達に縛り上げられていた。
「何者の命令なのか、しっかりと聞き出せ」
 ジェレミアが他のもの達に向かってこう命じている。
 その様子を見るとはなしに見ていれば襲撃犯の中に士官学校の同級生の姿を見つけた。
「……どうしてナナリーを狙うんだ?」
 あいつが、とスザクは首をかしげる。あいつとナナリーに直接関わり合いはなかったはずなのに、と付け加えた。
 可能性があるとすれば、自分に対する嫌がらせだろうか。
「その可能性の方が高いな」
 そんなことでナナリーを傷つけようとするとは呆れるにもほどがある。同時にそのせいで彼女に迷惑をかけてしまった自分が許せない。
「どうすれば、その意識を変えられる?」
 考えても答えが出ないのはわかっている。それでもそう思わずにいられない。
 そうでなければ、自分はナナリーの側にいられないのだ。
「クルルギ」
 今の自分の実力不足に思わず唇をかむ。そのとき、ジェレミアが彼の名を呼んだ。
「はい」
 何でしょうか、と彼を見下ろす。
「降りてこい」
 いったい何が起きたのか。そう思いながらスザクは身軽にグラスゴーの上から飛び降りる。そしてまっすぐにジェレミアの元へと向かった。
「こいつがお前の知り合いだと言っているが、本当か?」
「知り合いなのは事実ですが、関係がいいとは言えません」
 言外にいじめられていると告げる。
「マリーベル殿下の前ではおとなしいですが、それ以外の時は遠慮なく手を出してきます」
 そう付け加えれば彼はかすかに眉根を寄せた。
「そうか」
 ジェレミアが難しい表情で考え込む。そのとき、スザクはあることを思い出した。
「マリーベル殿下の襲撃事件の時、姿が見えなかったが……どこにいたんだ?」
 まさか襲撃犯の中にいなかっただろうな、とそう付け加えるようにつぶやく。
「それもついても調べよう。おい、連れて行け」
 どうやら確認のために呼ばれたらしい。クラスメートは引きずられるように連行されていく。
「……詳しいことはオズが知っていると思いますよ」
「オズというと……」
「ジヴォン家のオルドリン嬢のことです。マリーベル皇女の筆頭騎士になる予定の……」
「あぁ。わかった。巻き込んで申し訳ないが、お話を聞かせてもらおう」
 とりあえずすべてを終わらせて寝よう。そう告げるジェレミアにスザクは思いきりうなずいてしまった。



21.10.11 up
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