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真夏の蜃気楼

29



 ようやくマリーベルとアリエスの襲撃事件の後始末が終わった。  主犯は第七皇子とその側近。それにスザクの処遇が気に入らない貴族が乗っかったらしい。
 結果として、第七皇子は廃嫡の上、母方の領地から遠い場所に幽閉。側近をはじめとしたものは平民へと身分を落としその実家は爵位を下げた。
 もっとも今後行われるルルーシュの奪還作戦で手柄を立てれば元の爵位に戻れるという救済処置はあるのだ。後は本人達のやる気だけだろう。
 特に第七皇子の母の実家に関してはルルーシュ達の母であるマリアンヌに憎悪に近い感情を抱いている。それを押し殺して手柄を得るか、それとも没落するか。そのどちらを選ぶかは彼ら次第だ。
 だが、スザクには関係のないことである。
「とりあえずこれでナナリーの安全は確保できた、と言うことでいいんですよね?」
 そうコーネリアに問いかけた。
「あぁ。少なくとも一、二年は大丈夫だろう」
 あれだけのことをやって一、二年しか持たないのか。スザクは心の中でそうつぶやく。それでもルルーシュを取り戻しに行く時間が出来たのは事実だ。
「では、その間にルルーシュを助け出さないといけませんね」
 その後のことはそのときに考えればいい。スザクはそうつぶやく。
「確かにな」
 今一番に考えなければいけないのはルルーシュを取り戻すことだ。コーネリアもそう言ってうなずく。
「手の者は放っているが……芳しい情報は入ってきておらぬ」
「そうですか」
 自分で調べられればいいのだが、と思う。ブリタニア人である彼らよりも日本人の自分の方がなじみやすいと思うのだ。
 でも、とすぐに思い直す。
 ナナリーをおいてはいけない。
 そう考えればおとなしく情報が集まるのを待つべきだろう。
「大丈夫だ。居場所はつかめている。問題はその場のどこにいるかだ」
 詳細がつかめない以上、うかつに動くことは出来ない。コーネリアはそう告げるとため息をつく。
「その間に君は士官学校を卒業しなさい」
 背後からいきなり声がかけられる。誰かが近づいてくる気配は感じていたがコーネリアが動かない以上、自分達に害をなす人間だとは思っていなかったが、とスザクは小さくため息をつく。
「シュナイゼル殿下。脅かさないでください」
 そして振り向くとこう告げる。
「脅かすも何も、君は気づいていただろう?」
「気づいてはいましたが、てっきりコーネリア殿下にご用があるのだと」
「まぁ、コゥにも用事があるのだがね。今は君の方が優先だよ」
 にっこりと微笑みながら彼はそう言う。
 とりあえず立たせておく訳に浮かないと判断してコーネリアの隣の席を勧めた。
「ありがとう」
 そういうと彼は平然と腰を下ろす。それを確認して視線を控えている侍女に向ければ即座に行動を開始した。お茶を入れるとシュナイゼルの前に差し出す。
「毒味をしますか?」
「いや、大丈夫だよ。ここの女官は信用できるからね」
 そういうと彼は紅茶に口をつける。それだけで侍女が天にも上るような表情を作った。まぁ、それだけ信用されているとわかったからだろうと勝手に判断しておく。
「さて」
 かすかな音とともにカップをソーサーに戻すとシュナイゼルがスザクを見つめる。
「陛下からのご許可はいただいた。君は騎士侯に任命される」
「僕はイレヴンですが?」
「かまわないよ。ナナリーの騎士、と言うことになるね、今は」
 ルルーシュのことは彼が帰ってきてから話し合おう。シュナイゼルは笑みを深めつつそう告げる。
「もし、他の貴族を気にしているならそれこそ無用だ。ブリタニアの臣民である以上、陛下のご意思が最優先だからね」
 異を唱えればそれは陛下の決断に反対すると言うことだ。それがどういう結果をもたらすか。高位の貴族であればあるほどよく知っている。そう続ける。
「ナナリーもかまわないね?」
 静かに座っていたナナリーへとシュナイゼルは問いかけた。
「はい」
 ナナリーが小さくうなずく。
「でも、スザクさんが私の騎士でいられるのはほんのわずかな期間だと思います。お兄さまが戻られたらお兄さまの騎士になられるはずですから」
「ナナリー!」
 いきなり何を、とスザクは問いかける。
「私には咲世子さんがいますから。それよりもお兄さまの側にいてください」
 ナナリーは微笑みながらそう言う。
「そう言う点も含めて『話し合いなさい』と言ったのだがね」
「いいではないですか。しかし、そうなるとすると叙任式はルルーシュが戻ってきてからの方がいいかもしれません」
「そうだね。陛下にはそうお話ししておくよ」
 どのみち、とシュナイゼルは微笑む。
「マリーとジヴォン嬢の就任式の方が先だろうしね」
「言われてみればそうですね。マリーも卒業してからと言っていましたし」
 同じ時期に二組はいろいろと大変だろう。ただ、そうすると横やりを入れかねない人間が出てくる可能性があるが、とコーネリアがため息をつく。
「だから、先に陛下からお話をいただくのだよ」
 式は遅れるがすでにその任についている。そう公表してしまえばいい。シュナイゼルのその言葉にコーネリアもうなずく。
「……わかりました」
 皇族二人にこう言われては仕方がない。こう答えるしかないスザクだった。



21.10.20 up
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