真夏の蜃気楼
39
屋上近くにある静かな空間。そこはここの総督が住まう場所だった。
だが、今はクロヴィスとナナリーという二人の皇族が居を構えている。その中の一室へとジュリアスとスザクは足を運んでいた。
「ジュリアスお従兄様! スザクさん」
足音が聞こえたのだろう。ナナリーが笑顔で出迎えてくれる。
「なにか騒ぎがあったようだけど?」
クロヴィスがそい問いかけてきた。
「お耳が早いですね」
ジュリアスが苦笑と共にこう言い返す。
「バカが出てきただけです。まぁ、撃退しましたけど」
「随分と優しかったよね」
「そうか?」
「ルルーシュだったら、間違いなくあいつらの矜持を粉々になるまで打ち砕いていたと思うよ」
「確かに……それくらいは平然とするだろうな」
スザクとジュリアスがそう言ってうなずき合う。
「お兄さまならやりかねません」
ナナリーも納得だというようにうなずいて見せた。
「まぁ、ルルーシュだからね」
否定できないか、とクロヴィスもうなずく。
「いい加減、あの子には帰ってきてもらわないとね」
彼はそう続けた。
「お兄さまは戻ってきてくださいますでしょうか」
ナナリーがどこか不安げに告げる。
「あちらで良い方が出来たのではないでしょうか」
その言葉を聞いた瞬間、クロヴィスとジュリアスが吹き出す。
「お兄さま方?」
「大丈夫だよ、ナナリー」
そんな彼女をなだめようとスザクは口を開く。
「どんなときだって、ルルーシュの一番はナナリーだから」
だから、そんな心配はいらない。そう言って彼は笑う。
「たぶんだけど、ルルーシュが誰かを好きなったとしてもナナリーの一番は変わらないと思うよ。同率一位が増えるだけだから」
そう付け加えればナナリーはようやく安心したらしい。ほっとしたように笑みを浮かべる。
「と言うわけで、それを確認するためにも迎えに行かないとね」
ジュリアスが口を開いた。
「作戦は八割方進んでいる。後は俺たちがあちらに乗り込むだけだ」
そうすればすぐに終わる。彼はそう続ける。
「危険ではないのですか?」
「安全なことなんて何もないさ」
皆危険と隣り合わせだ、とジュリアスは笑う。それを安全と言える水準まで持って行くのが自分のような軍師の役目だ。彼はそう続ける。
「今回のことに関して言えば……九割方安全だろうとは思う」
だが、百パーセント安全だとは言えない。彼はそう言いきった。
「……それでも、私は『無事に戻ってきてほしい』としか言えません」
ナナリーがぽつりと口にする。
「君はそれでいい。俺としては『最善を尽くす』としか言い返せないがな」
恨まれるのも自分だけでいい。ジュリアスが苦笑を浮かべながらそう言いきる。
「ナナリー。そのあたりで納得しておきなさい」
クロヴィスがそう言いながら彼女の髪に手を伸ばした。
「だだをこねなくても、彼らはちゃんと戻ってくるよ。ルルーシュを連れてね」
優しい手つきで髪をなでるクロヴィスにナナリーは小さくうなずいてみせる。
「当然だよ。俺が指揮を執ってこいつが動くのだから」
失敗するはずがない。ジュリアスが胸を張ってこう言い切った。
22.04.10 up