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真夏の蜃気楼

40



 最近、どうも騒がしい。麗華から押しつけられた猫をなでながらルルーシュは眉を寄せる。
「何かあったのか?」
 そう問いかけても答えが返ってくることはない。その事実がルルーシュに『何かがあったのだ』と教えてくれる。
「新しい天子が決まったか?」
 それとも、と心の中だけで付け加えた。ブリタニアに宣戦布告をしたか、だ。
 可能性としては後者の方が高い。しかし、新しい天子が必要だと言うことも否定できないのだ。
「確か、次の天子は麗華様だったはず」
 ブリタニアが負けるはずがない。このままでは間違いなく彼女が責任をとらされることになる。もちろん、父や兄たちならば状況を理解してくれるだろうが他の貴族の中には彼女を殺せという者達もいるだろう。
 ナナリーと引き離された自分をかろうじて現実にとどめてくれたのは、妹よりも年下の彼女の存在だ。出来れば殺したくない。
「やはり連れて行くか」
 それも早急に、とつぶやく。
「問題は順応できるか、だな」
 膝の上にいる猫をなでながらそう付け加える。
 そして誰にあずけるか、だ。
 脳内で素早く人選をする。あずける相手はすぐに決まるが迎えに来る人間が決まらない。あの男の関係者ではすぐに居場所が特定されるだろう。
 そうなれば関係のない人間でなければならない。
 では誰がいいのか。
 脳裏に浮かんだのは七年前の姿だ。
 彼らならば大丈夫だろう。きっとすでに動いているはずだ。
「なんとかなるか……」
 だが、すぐにそうつぶやく。
「そう思うだろう?」
 お前も、とルルーシュは膝の上の猫に問いかけた。それに猫は煩わしそうにしっぽを振る。
「昼寝が出来ればどうでもいいのか」
 ため息をつきながらルルーシュはそう口にした。

 日本人である自分はここでは目立たない。
 むしろブリタニア人であるジュリアス達の方が人目を集めるだろう。それは中華連邦軍の人間に目をつけられてしまうと言うことだ。
 その結果、今回の作戦が失敗するのは困る。
「面倒くさい」
 ため息とともにつぶやきを漏らす。だが、作戦を指示する彼がいなければ功を焦るものが出てきかねない。
「妥協するしかないんだろうな」
 外で動く仕事は彼の指示に従って自分がすればいい。多少のタイムラグが出来るかもしれないがそこは我慢するしかないだろう。ため息とともにスザクは民家のドアをくぐる。
「ただいま」
 無意識のうちにこう声を出す。
「お帰りなさいませ、お従兄様」
 しかし、帰ってきたのはジュリアスの声ではない。聞き覚えはあるがここで聞くとは思っていなかった声だ。
 無意識のうちに懐から銃を引き抜く。
「なぜ、お前がここにいる!」
 自分でも信じられないような低い声で問いかけた。
「俺のことを捨てて自分達だけ逃げたくせに!」
 そう告げれば、目の前の相手は驚いたように目を丸くする。
「お従兄様が言い出されたのではないのですか?」
 自分は早期化されていたが、と彼女はつぶやく。
「十歳の子供にそんなことが言えると思っていたのか、神楽耶!」
 しかも父親が死んだばかりの、とスザクは言い返す。
 そのときようやくジュリアスが顔を見せた。
「残念ですがスザクの言っていることは本当ですよ。一人牢の中で呆然としているところをナナリー様の命令で私が迎えに行きましたから」
 真顔で彼はそう告げる。それに神楽耶はなんとも言えない表情を作った。



22.04.20 up
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