真夏の蜃気楼
43
「本気でついてくるの?」
戦闘用の装備を身にまとっているジュリアスにスザクは問いかけた。
「当然だろう? キングが動かなければ部下はついてこない」
それに、と彼が続ける。
「俺以外に誰も出来ないことだからな」
彼の瞳は、今カラーコンタクトで紫に変えられていた。それはルルーシュの色だ。そうすると彼とルルーシュを区別するのは難しいのではないかと思われる。
もちろん自分にはわかるが、とスザクは心の中だけでつぶやく。
「……影武者……」
ぼそり、とそう告げればジュリアスが満足げな笑みを浮かべた。
「でも、気ミニ何かあってもナナリーは悲しむと思うよ」
とりあえず無茶をしないように釘を刺しておこう。そう考えてこう告げる。
「ルルーシュ様が戻っていらっしゃるのに?」
何を言っているんだ、と言う様にジュリアスは瞬きをした。
「それとこれは別問題だよ」
本当にこいつはと思うものの、そういえばブーメランだろうと考えて別の方面からアプローチをすることにする。
「確かに君はブリタニア軍の軍師だ。勝利のために最適な作戦を立案し、実行する。たとえ自分を駒にしてもね。でも、ナナリーにとってはただ一人の従兄だ。今まで彼女を支えてきたのは君だろう?」
スザクにしては長く説明をしたつもりだ。そして、その言葉はジュリアスに事実を突きつけたらしい。
「君に万が一のことがあっても、僕はナナリーに恨まれるだろうね」
戦場に絶対はないと知っていても、だ。
この言葉に彼は気まずそうに視線をそらす。
なまじルルーシュによく似ているがためにジュリアスだとはわかっていても罪悪感がわいてくる。
「とりあえず、お前はルルーシュ様を逃がすことを最優先に考えろ。その後で余裕があったならば俺を助けに来てくれればいい」
奴らは自分を殺すことはないだろう。そう告げる。
「側にいるのは大公殿下の手の者だ。何も心配はいらない」
「顔を見たこともない方を信用しろと?」
「あぁ。あの方はルルーシュとナナリーをことさら気に入っておられるからな」
陛下の双子の兄上だ。そう言われても信用していい物か判断が出来ない。
「それが作戦だというのなら……従う」
ジュリアスが信用しているならば、それでいい。スザクはそう割り切ることにした。
「個人的には一度お目にかかりたい所だけどね」
「まぁ、当然の要求だな」
一応聞いておく、とジュリアスが言い返してくる。
「とりあえず準備は終わったな」
スザクは彼の姿を確認してこう言う。
「あぁ……では、行くか?」
ルルーシュを奪還しに、とジュリアスが笑う。それにスザクはうなずいて見せた。
この抜け道は次は使えないだろうな、とジュリアスは心の中でつぶやく。どう考えても侵入経路はすぐにばれる。
だが、今はルルーシュを奪還できればいい。
自分の身の安全はその次だ、と心の中で付け加えた。自分は生まれたときから彼の影武者だったのだし、と続ける。
この髪の色を持って生まれたときから母は自分を気味悪がっていた。マリアンヌを見ればわかるように、家の一族には日本の血が入っていると知っていたのに、だ。そして、最終的に自分をマリアンヌに売りつけた。
幸か不幸か、自分は母よりもマリアンヌに似ていた──だからルルーシュの影武者でいられたのだが──追い出されることはなかった。逆に同情されたほどだ。
事実、大学まで進ませてもらったし、軍での足場も固めることが出来たし……と心の中で付け加える。もっとも、そのせいで必要なときに二人の側にいられなかったが。
ナナリーには代わりにスザクがいた。
しかし、ルルーシュには誰がいたのだろう。
常に味方がいるとは言えないところで一人きりで過ごしてきた。そんな彼の心が変わっていないとどうして言えるだろうか。
それでもナナリーへの気持ちは変わっていないはずだ。それだけがルルーシュにとっての絶対だと言えるからだ。
そんなことを考えながら進んでいく。
不意に先に進んでいたスザクが足を止める。
「どうした?」
「……警備兵かな……この先に誰かがいる」
「なんとかなるか?」
スザクが一瞬首をかしげた。そして小さくうなずく。
「三十秒待って」
そういうと音を立てずに移動していった。そのまま音を立てずに制圧していく。
「本当……いい奴を引き当てよ、あいつは」
圧倒的な強さにジュリアスは思わずこうつぶやいてしまった。
22.06.10 up