真夏の蜃気楼
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「騒がしいな」
ルルーシュはそうつぶやく。
「心配するな。バカが慌てているだけだ」
そう言ったのは女官の姿をした母の友人だ。その周囲を固めている女性達は伯父の手のものである。
「何があった?」
「ブリタニアが宣戦布告をしてきた。回避したければお前を返せと言ってな」
返す返さないでもめている、と彼女は嗤う。
「まったく、お前の意思は無視だな」
呆れた連中だ、と彼女は付け加えた。
「……だが、逆に言えばこれで処分される可能性が上がったか?」
ルルーシュはため息をつきながら告げる。
「その心配はいらないと思うぞ」
彼女が笑いながら中庭の方を指さす。そこに何があるのかと視線を向けたときだ。
「スザク……?」
どこか見覚えがある、だが、もっと成長した青年がブリタニアのパイロットスーツに身を包んで姿を見せた。その背後には従兄の姿もある。
「ルルーシュ!」
思わず名前を呼んだ瞬間、彼の瞳に涙が盛り上がった。それが決壊するかと思った瞬間、スザクが距離を詰めてくる。その勢いのまま抱きつかれた。
「……温かい……夢、じゃない……」
ぎゅうぎゅうに締め付けられたと思った瞬間、ルルーシュの耳に彼のこんなつぶやきが届く。
「バカ、だな」
自然と口元に苦笑が浮かぶ。
「勝算があったから捕まったんだ」
殺さないという確信があったし、と口にしながら彼の背中をなでた。
「ともかく時間がない。ルルーシュ様はさっさと服を脱いでください。あぁ、下着はいいですから」
そんな俺たちを邪魔するようにジュリアスがこんなセリフを口にする。
「なぜだ?」
「入れ替わるためです」
自分とルルーシュとが、と彼は言い返してきた。
「ルルーシュ様はスザクと脱出してください。俺はこちらの方々と脱出します」
ジュリアスは当然のようにこう言葉を返してくる。
「何を言っている。危険だぞ?」
「わかっております。ですが、ルルーシュ様がすでに避難できていると知られることを遅らせるためには仕方がありません」
それに、とジュリアスが続ける。
「それが大公殿下のご指示でもあります」
「伯父上の?」
「えぇ。ですからお早く」
しかし、とルルーシュは思う。本当に大丈夫なのだろうかという不安が消えないのだ。
「お前がここに残るよりは生存率が格段に上がるな」
彼女が口を挟んでくる。
「……何が言いたい……」
「お前は運動神経をマリアンヌの腹の中に忘れてきただろう?」
「そんなことはない……と思うが……」
しかし、とルルーシュは反論しようとした。
「とりあえず、そのあたりのことは安全を確保してからにしてくれるかな?」
だが、ジュリアスの言葉が割って入ってくる。それだけではなく現実まで突きつけてくれた。
「そちらが明いている。さっさと着替えてくればいい」
彼女はそう言い返す。
「ルルーシュ……ナナリーが待っているから」
スザクのこのセリフでルルーシュは意を決する。
「わかった」
そういうと服を取り替えるためについたての後ろへと移動した。
22.06.20 up