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真夏の蜃気楼

45



「では、作戦通りに」
 眼帯を外したジュリアスが言葉を投げかけてくる。
「君も気をつけてね」
 ルルーシュの手を取りながらスザクはそう言い返した。
「出来るだけ早く戻るから」
 さらにこう付け加える。
「大丈夫だ。いざとなればなんとかする」
 それに言葉を返してきたのはジュリアスではない。彼の側にいた女性だ。
「C.C.、ちゃんと守れよ? 俺の大切な従兄だ」
 C.C.という名前は記号のようだ、とスザクは思う。だが、その方がここではいいのだろうか。本名を知られれば家族を人質に取られかねない。よほどの権力がない限り、人質を盾に裏切る可能性すらあると心の中でつぶやく。
「わかっている。マリアンヌの血筋だしな」
 そう言ってスーツーは笑う。
「……それに確か、こいつはV.V.も眼をかけていたはずだ」
 だからむげには出来ない。彼女はこう言い切る。
「では、任せた」
 そう口にするとルルーシュが振り向く。
「スザク、聞きたいことはあると思うが、今は抜け出す方が重要だ」
「わかっているよ。後で聞かせてくれるんでしょう?」  スザクはあっさりとうなずく。
 話は後でも出来る。
 今はルルーシュを安全な場所まで移動させることが何よりも大切なのだ。
 自分に言い聞かせるように心の中でそうつぶやく。
「あぁ」
 ルルーシュがうなずいてくれたのを見てスザクは小さく笑う。
「じゃ、ごめん」
 その表情のままスザクは彼を抱え上げた。
「スザク?」
 横抱きにされたままルルーシュが問いかけるように声をかけてくる。
「こっちの方が早いよ」
 にっこりと笑うと一瞬だけジュリアスを見た。彼がうなずくのを確認するとスザクは走り出す。
 悲鳴を抑えるためだろう。ルルーシュは口をふさぐ。今はそれがありがたい。しかし、意地っ張りなのは昔と変わらないな、と思いながら抜け道の入り口まで駆け抜けた。
「ルルーシュ……ここから先は自分で歩いてもらうけど、静かにね」
 この先は地下だ。万が一にも見つかるとまずい。そう告げれば、彼は小さくうなずいてみせる。
「こっちだよ」
 気配を探りながら進む。
 幸いなことに、今は嫌なものを感じない。星刻がうまくやってくれたようだ、とスザクは心の中だけでつぶやく。あるいはルルーシュとジュリアスが入れ替わったことがまだ気づかれていないのか。
 どちらにしろ、時間をかけすぎるわけにはいかない。
 しかし、だ。
「大丈夫?」
 ほんのわずかしか歩いていないというのに、ルルーシュに息がもう荒い。この七年間の間で随分と体力が落ちているようだ。
「……あぁ」
 意地っ張りで見栄を張りたがるところも変わっていない、とスザクは笑う。
「でも、時間がないから」
 失礼、と言うと小さな子どもをするように片手で抱き上げる。さすがにこれは恥ずかしかったのだろう。
「……背負ってくれないか?」
 いざという時にそちらの方が安全だろう、と顔を紅くしながらルルーシュが口にする。
「ルルーシュがそれでいいならね」
 そういうとスザクはルルーシュをいったん降ろす。そして彼の前で跪いた。しかし、いつまで経っても背中に重みがかからない。
「ルルーシュ?」
 どうしたのだろうと振り向く。そうすれば顔を真っ赤にしているルルーシュと視線が合った。
「……すまない。もう少し待ってくれるか?」
 ルルーシュがそう言ってくる。しかし、待っている時間はさほどないのだ。
「ごめん、ルルーシュ。時間切れ」
 抱えられるか背負われるか、どっちがいい? とスザクは問いかける。
「……仕方がないな」
 ため息をつくとルルーシュが背中に覆い被さってきた。その重みも感じていないというようにスザクは立ち上がる。
「しっかりと捉まっていてね」
 そういうとスザクはかけだした。



22.07.10 up
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