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巡り巡りて巡るとき

06


 なんとか一人暮らしを確保できた。その事実にほっと胸をなで下ろしながらスザクはノートを開く。
「とりあえず、今までの相違点をまとめるか」
 今回はいつも以上に相違点が多い。それがプラスなのかマイナスなのかはわからないが、何かがあるのは間違いないはずだ。
 問題があるとすれば誰かに見つかったときにまずいと言うことだろう。だが、それは早々に焼き捨ててしまえばいいだけだと結論を出す。
 必要なのは自分の中にある疑問点を整理することなのだ。
 そう判断をしてまずは鞄の中から筆記用具を引っ張り出す。
 ノートの何も書かれていないページを開くと鉛筆を握る。
「まずは……戻った時間だな」
 以前はすべてあの日。ブリタニアが攻めてきて父が二人を殺すと言ったあの瞬間だった。今回はと言えば、それよりも早く母の臨終の日だった。
 それにいったいどのような意味があるのか。
 今でも折に触れて考えているが、答えが出たことはない。間違いなく誰かの干渉があったように思えるのだが。
「あの魔女ってことはないだろうしな」
 いくら彼女でも時間までは扱えないだろう。だから、他の誰かがいると言うことになる。あそこでのあれこれもその誰かが手配したと言うことか。
 だが、それが誰なのかがわからない。
 それに関しては今は保留にしておこう。
「次は出会う時期か」
 カレンとシャーリーとはアッシュフォード学園に入ってから出会うはずだった。
 しかも、カレンは一番最後だったはず。
 だが、今回は出会う順番が逆になっているような気がする。ひょっとしたら、ルルーシュ達が来る前に他のみんなとも会うのかもしれない。
 それも誰かの思惑の内なのか。
 やはり確認のしようがないからこれも保留だ。
「最後はこれだよな」
 マリアンヌの生存。
 ノートに書かれたそれの上にスザクは大きく丸を書き込む。
「戻った時間との差違とどちらが深く関わっているのか」
 それはわからない。
 だが、とつぶやく。
 あるいはこれらは連動しているのかもしれない。
 自分があの時に戻ったからこそ状況が変わったのではないか。そうも考えられる。
「でも、これも仮説だしな」
 正解を知っている人間は誰もいない。
「……何かわかりそうなんだけど……」
 まだ何かが足りない。
 そのせいで答えを導き出せないのだ。
「細かな違いも関係しているのかもしれないけど……」
 それに関しては覚えていないことも多い。だから、どこまで違っているのかはっきりと言えないのだ。
 何よりも、それを確認できる相手もいない。
「あの魔女ですらあの頃のことは知らないはずだし」
 何よりも、これから会うであろう彼女に記憶があるとは限らないのだ。
 いや、とすぐに思い直す。
 記憶があった方が少ない。その記憶も漠然としたものでしかなかった。
 つまり全く当てにしない方がましだと言う結論になる。
「ともかく……今は父さんの再婚を邪魔しないとな」
 あの当時も話が合ったのかどうかはわからない。だが、中華連邦がこの国の政治に食い込むようなことがあってはいけないのだ。そして、その原因が《枢木》であるのはもっとまずい。
「とりあえず、そんな人間が来たら子どもの特権を使って追い出すか」
 プレゼントは宝物の虫でいいよな、とスザクは笑う。そのままメモをしたページと念のためにその下も二枚ほど破るとばらばらにちぎった。
「さて……たき付けにでもしようか」
 そうつぶやくとばらばらにした紙を持って庭に出る。そして、その隅でたき火を初めて見た。

 十分後、しっかりと消化されてしまったが、目的物は燃え尽きていたのでいいことにしようとスザクは考えていた。

 それにしても、仮説の一つがこうも早く実証されるとは思わなかった。
「ごめんなさい。ここにいきたいの。どうすればいい?」
 どこかたどたどしい日本語で話しかけてきた少女にため息をつきそうになる。
「そこでしたら、この道をまっすぐ行って、三つ目の信号を左です」
 こう言って覚えられるだろうか。
「まっすぐ? しんごうひだり」
「三つ目ですよ」  そう言って指を三本立てる。
『ペン、ある? 簡単な地図、書く?』
 そしてわざと単語を並べたブリタニア語で続けた。
『あるわ。お願いしてもいい?』
 そう言って彼女はポケットからボールペンを差し出してくる。それを受け取るとメモの裏に現在位置から目的地までの簡単な地図を書いてみた。
『わかる?』
『えぇ。十分よ。ありがとう』
 こう言うと彼女は早速歩き出す。
「……どうせなら彼の方が良かったのに」
 出会うなら、とスザクは口の中だけでつぶやく。
 その方がきっと話は合ったのだ。だが、考えてみれば生徒会のメンバーは女子中心だった以上、仕方がないのかもしれない。
 それに、と心の中でつぶやく。
 確か彼女の家は彼等の後見だったはず。だから、事前に周囲の状況を確認しに来たとしてもおかしくはない。
 自分に声をかけてきたのもその一環だろう。
 そう考えたときだ。意識の隅に引っかかる気配がある。だが、それはすぐに消えた。だが、まだ視線は感じる。
「……見張られてるのかな?」
 自分が危険人物ではないのかどうかを、と心の中だけで付け加えた。
 子ども相手に何をしているのか、と思わなくもない。
 だが、ひょっとしたらあちらで《子ども》が《何か》をしでかした可能性がある。
「面倒くさいな、本当に」
 そうつぶやくとスザクは身体の向きを変える。そして、子どもらしく小走りで目的地へと向かうことにした。
 それが功を奏したのだろうか。視線も消える。
 その事実に苦笑を浮かべながらもスザクはさらにスピードを上げた。



16.03.06 up
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