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巡り巡りて巡るとき

09


 せかされるように着替えさせられた後でスザクは応接間へと案内させた。この家で一番格式が高い奥座敷ではないのは、客人が畳での生活に慣れていないからだろう。
「失礼します。スザクです」
 ドアの外から声をかける。
『入りなさい』
 即座に桐原の声が返ってきた。
 それを耳にしてからゆっくりとドアを開く。
「こちらに」
 中に足を踏み入れると同時に指示が飛んできた。
「はい」
 ここで騒ぎ立てても意味はない。そう判断をしてスザクは素直に従う。
「これが儂の又甥のスザクです。ルルーシュ殿下と同じ年だと聞いております」
 そんな彼の肩に手を置くと桐原はこう紹介した。
「神楽耶とはいとこ同士ですな」
 さらに彼はこう付け加える。そこまで話す必要があるのだろうか、とスザクは疑問に思う。しかし、桐原が必要だと思うのならば自分が口を挟むことではない。
 それよりも、だ。
 桐原は今、日本語で話をしている。つまり、ルルーシュ達三人は日常会話ぐらいならば困らない程度に日本語を身につけていると言うことか。
 考えてみればあの頃のルルーシュもすぐに会話に困らなくなった。
 間違いなくブリタニアで学んできたのだろう。それを厄介だと見るか、それとも親愛の情だと判断するのか。それによって彼等に対する接し方が変わるのではないか、とスザクは考える。
 桐原はいったいどちらなのだろう。今の彼からはうかがい知ることは出来ない。
 もっとも、とスザクは目の前の相手を見つめる。
 それは目の前の相手も同じではないか。
 さて、彼等はいったいどのような態度で自分たちと接するのだろう。それとも、接触を避けようとするのか。
 あの頃とは状況が変わっているだけに今ひとつ判断に困る。
 だが、と心の中でつぶやく。出たとこ勝負は自分の十八番だったではないか。今回もそうだと付け加えた。
「街中のことはこれが一番よく知っております。何かあれば声をおかけください」
「……人身御供かよ……」
 体よく押しつけたな、と言外につぶやく。
「適材適所じゃ」
 それに対し桐原は平然とこう言い返してくる。
「お前が一番、自由に走り回っておっただろうが」
 知らなくていいことまで知っているのではないか。桐原はさらに言葉を重ねてくる。
「第一、神楽耶をつけてみろ。厄介ごとに巻き込まれるのは目に見えておる」
「……おじいさま。それはお従兄様でも同じでは?」
「経験値が違う。スザクならば対処法を知っておるはずだからの」
 桐原がそういったときだ。室内に柔らかな笑い声が響く。
「なかなか楽しい子達のようね」
 その主はもちろんマリアンヌだ。療養という言葉が信じられないくらい力強い声にスザクは少しだけ目を見開く。
「うちの子達と仲良くしてくれるかしら? 迷惑をかけるとは思うけど」
 さらに彼女はそう続ける。
「もちろんですわ」
 即座に神楽耶はそう言い返す。
「……そっちの二人がかまわないなら、だけどな」
 スザクはわざと距離を置くようなセリフを口にした。
 自分とルルーシュはあまりにもタイプが違いすぎる。あのときに友達になれたのはそれ以外に選択肢がなかったからだ。
 だが、今のルルーシュ達は違う。
 彼等を守ってくれるであろう母も、そして、ブリタニアという国もまだその手にある。
 そんな彼が自分と積極的に関わろうとするだろうか。
 強引に近づくという手段もあるというのは事実だ。しかし、それではいけないような気がする。だから、選択権をあちらに渡した。
「皇族に取り入れば利益があるだろうに、いらないのか?」
 ルルーシュが真顔でこう問いかけてくる。
「ここはブリタニアじゃないし、そんなの関係ないだろう」
 第一、とスザクは続けた。
「誰かに取り入るために近づいてくるやつは友達じゃないし。そんなやつと一緒にいるくらいなら一人でいた方がましじゃん」
 違うのか、と逆に聞き返す。
「……それはそうかもしれないが……」
「第一、うちの親は大のブリタニア嫌いで有名なんだぞ。『取り入れ』なんて言うわけないな」
 ゲンブならば逆に『嫌がらせの一つでもしてこい』ぐらい言うはずだ。もちろん自分にはそんな気は全くない。そんなことをしても意味がないことはよくわかっているのだ。
「お前自身はどう考えているんだ?」
 ルルーシュはまた問いかけてきた。
「ブリタニアが嫌いなのか?」
「別に。どっちでもねぇよ」
 今は、と付け加える。
「友達になってくれるならそれはそれで嬉しいし、敵になるって言うなら徹底的にやるだけだ」
「単純だな」
「物事、難しく考えても意味ないじゃん」
 状況が悪くなるだけだ。スザクはそう言い切る。
「母さんの言うとおりにお前は面白いな」
 ルルーシュはそう言うと口元に笑みを浮かべた。
「褒められているのかどうかわからないけど、一応、ありがとう?」
 苦笑と共にスザクはそう言い返す。
「褒め言葉だったのだが……日本語は難しいな」
 スザクの反応にルルーシュは首をかしげた。
「それで、そっちの子も同じ考えだって思っていいのかな?」
 ナナリーに視線を向けながらスザクは言う。
「……はい」
 それに彼女はうなずいてみせる。その仕草にスザクは違和感を感じた。
 本来のナナリーはかなり闊達だったと聞いている。それなのに、今目の前にいる彼女は自分の記憶の中の彼女とよく似ている。
 それはどうしてなのか。
 あるいは、それこそが彼女たちが日本に静養に来た本当の理由なのかもしれない。
 問題はそれが重要なフラグなのかどうかだ。
 とりあえず、彼等からその理由を教えてもらえるようになろう。スザクはそう考えていた。



16.04.17 up
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