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巡り巡りて巡るとき

11


「そうなんだ。皇女殿下のために花を摘みにきたんだ」
 ルルーシュを背負いながらスザクはそう言う。
「でも、ここの山は結構危険だからさ。次からは声をかけてくれよな。ついでに、他の花が咲いている場所も教えるし」
 明るい声でさらに言葉を重ねた。
「勝手に入ったのに、怒らないのか?」
 それに対する言葉がこれだ。
「怒るとしたら一人で入ったことぐらいだけど?」
 それ以外は問題ない。スザクはこう言い返す。
「確かにここは皇と枢木のというよりは、ほぼ枢木の土地だけど、お前らはその客だし」
 それに、と続けた。
「女の子は花が好きなんだろう? 兄が妹の希望を叶えなければいけないのは当然だし」
 そう言うものなのだろう、と言えば背後でルルーシュがうなずいたような気配がする。
「詳しいね。君に兄弟はいないと聞いていたのだが」
「それ以上に厄介な従妹がいるからな」
 あれは、と今生であったあれこれだけを思い出しただけでもため息が出てしまう。
「皇の姫のことか?」
「あぁ。あいつは他人にはものすごく猫をかぶってみせるくせに、俺には遠慮も何もないからな」
 従兄弟は下僕ではない。スザクはため息と共に言葉を吐き出した。
「無視すればいいだけだから、半分以上聞き流しているけど」
 いちいち付き合っていられない。そんなことをすれば、ますますつけあがるだけだ。
 だから、多少文句を言われたとしても無視する方がいい。
「……それが出来るだけでもすごいな」
「慣れだよ、なれ」
 物心ついた頃はもちろん、それ以前の経験もあるから余裕だったとは言わない。
「母さんの言動にはいつまで経ってもなれない」
 ルルーシュがこうつぶやく。それはきっと、彼が少しだけだが警戒を緩めてくれた証拠だろう。しかし、つぶやかれた言葉にどう反応すればいいのか。
「マリアンヌ様はすごい軍人なんだろう。なら、仕方がないんじゃないのか?」
 とりあえず無難なセリフを口にしておく。
「どういう意味で?」
「軍人でも偉い人だといろいろな作戦を考えなきゃないんだろう? 相手の意表を突くのも必要だって聞いたからさ」
 マリアンヌにそんな気持ちがないことはわかっている。それでも真実を突きつけるわけにはいかないからこんな理屈を引っ張り出した。
「と言っても、あくまでも俺の考えだけど」
 本人とはあのときに顔を合わせただけだから間違っているかもしれないけど。そう続けた。
「いや。母さんは確かに軍を率いるからな……そう言う面もあるのかもしれない」
 ルルーシュは小さな声で言葉を口にする。
「僕はそう考えたことはなかった」
 単純にマリアンヌが規格外だと思っていた、と彼は付け加える。
 スザク本人からすれば、それがファイナルアンサーだと思っている。だが、それを口にするのは自分の立場上おかしいと言うこともわかっていた。
 本当、面倒くさい。
 それでも自分は少なくとも彼との間にある溝をまず埋めなければならないのだ。そして、友人とは言えなくてもそれなりの関係を築く必要がある。
 今回のことがその契機になればいいが。
 そんなことを考えながら、なんとか枢木神社の境内へと出た。
 ここからは舗装された道を通って皇の本宅に帰ることが出来る。今までよりも楽だな、と思ったその時だ。
「スザクくん」
 低い声が自分の名を呼ぶ。それが誰のものかは確認しなくてもわかった。
 しかし、だ。
「殿下に何をしたんだ?」
 いきなりこれはないだろう。
「何もしてないです」
 ため息と共にスザクはそう言い返す。
「では、その状況は?」
 しかし、藤堂は全く信じていないようだ。即座に次の質問を投げつけてくる。 「お花畑にまっすぐ突っ込んでいって自爆したこいつを拾ってきただけです」
 実際、山に入るまでは一人だった。それ以前もルルーシュ達とは接触していない。
 接触できていればちゃんと注意はしていた、と言外に告げる。
「彼が言っているのは本当のことだ、藤堂少佐」
 ルルーシュが援護射撃をしてくれた。
「裏山にきれいな花が咲いていると聞いて、僕がナナリーに見せてやりたくて摘みに行った。その途中で崖から落ちたところを彼に見つけてもらっただけだ」
 その具体的な言葉に別の意味で藤堂の眉根がよる。それはスザクも同じだ。
「誰から聞いたんだ? その話」
 皇の使用人なら決してそんなことは教えないはずだ。
 少なくともルルーシュ達がいる離れの者達が言うはずがない。彼等は桐原が『もてなせ』と言えばどんな相手だろうと誠心誠意仕える。そう認識されているからこそ、あそこの仕事を任せられているのだ。
 だからといって、ルルーシュが嘘を言っているとは思えない。
 そのことに藤堂も気がついたのだろう。
「誰と言われても……あぁ、初めて見る顔だったな。少なくとも、最初の顔合わせの時にはいなかった」
 はい、決定。
 誰かが余計なことをする人間を放り込んでくれたらしい。
 その《誰か》が誰か。スザクには想像がついた。
「あの馬鹿親父」
 無意識のうちに口からこんなセリフがこぼれ落ちる。
「桐原公に話をしてこよう」
 藤堂も同じ結論に達したのか。こう言ってくる。
「お願いします。俺はこいつを離れにおいてきます」
 それから花を取りに戻る、とスザクは続けた。
「お前……」
「大丈夫。いつものことだし、お前の気持ちに感心したからってことで」
 今回だけな、と笑ってみせる。
 それにルルーシュが困惑しているようなへは意が伝わってく来た。
「次からは一緒に摘みに行けばいいだろう」
 気付かないふりをして言葉をさらに重ねる。
「ありがとう」
 しばらくして、彼は小さな声でこう告げた。



16.05.15 up
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