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巡り巡りて巡るとき

12


「うちの子が迷惑をかけちゃったみたいね」
 ルルーシュをおいて花を摘みに行った後、再び離れを訪れれたスザクは、マリアンヌに捕まってしまった。
「別にたいしたことじゃないです。いつものことだし」
 妹を可愛がるルルーシュの気持ちは珍しかったし、と続ける。
「年下の女の子でも性格がいい子はいいんだってわかったし」
 これが神楽耶のためであれば絶対にしなかった。頼まれても明日に回していたに決まっている。
「あらあら」
 マリアンヌがそう言って笑いを漏らす。
「よほど周囲に振り回されているのね」
「はっきり言ってくださってかまいません。俺を振り回しているのは神楽耶です」
 あいつは『世界は自分のために存在する』と考えているのではないか。時々そんな不安に襲われる。
 それを事実と認識する前になんとかしないといけないだろう。
 もっとも、桐原もその点は気にかけているようだ。後は自分が理不尽な頼み事をすべて却下するしかない。
 問題は、それが一番厄介だと言うことだけだが。
 しかし、今重要なのは彼女のことではない。目の前の女性だ。
「基本的に、女性に優しくするのは母さんの遺言なので。ルルーシュに関しては、妹のためにまっ先に動くのが気に入ったからです」
 それが何か、と彼女の瞳を見つめる。
「すてきなお母様だったのね」
「はい。もう少し生きていてほしかったとは思います」
 そうすればゲンブのブリタニア嫌いはもう少しマシになったのではないか。そんなことも考えるが、今更言っても仕方のないことだろうと思い直す。
 今という時間のせいか、どうしてもそんなことに思考が飛んでしまう。気をつけないと、と自分で自分に言い聞かせる。
「生きていてくれれば、父さんとけんかも出来たかもしれないし」
 本気で断絶しそうになっても母が仲裁してくれただろう。言外にそう付け加えた。
「普通ならそうよね」
 くすりと彼女は笑う。
「家みたいに放置していると修復が難しくなるわね。まぁ、あたふたしているシャルルは見ていて可愛いけど」
 さらりととんでもないセリフを聞かされたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「ソウデスカ」
 このぶっ飛んだ性格の母親から良くもルルーシュのようなまじめな子どもが育ったものだ。それとも、母親がこうだから反面教師になったのか。あるいはその後のあれこれが原因なのかもしれない。
「そのせいで憎しみあうのはねぇ」
 マリアンヌのこの言葉が微妙に引っかかるのは自分が警戒しすぎているからだろうか。
「そのあたりはなんとかしないといけないわね」
 ため息と共に彼女はそうつぶやく。
「それよりも、そこってルルーシュでもいけたのね?」
 いきなり話題を変えてくる。その不自然さには気付かないふりをした方がいいのではないか。
「行けたようですね」
 帰りは歩けなかったが、とスザクは付け加えた。
「なら、私でも大丈夫かしら?」
 リハビリがてら、と彼女は言う。
「どうでしょう。結構坂がきついですよ。とりあえず、まずは平坦な場所で確認してからにされてはいかがですか?」
 即座にそう言い返す。
「それに一キロぐらい先の広場でいいなら、多分、車いすでも行けます」
 ナナリーを一人仲間はずれにするのは違うのではないか。言外にそう続けた。
「確かに、言われてみればそうね」
 マリアンヌはそう言ってうなずく。
「では、その方向で桐原のじいさんの許可をもらってきます」
 言外にこの場を辞する許可を求める。
「お願いね」
 それにマリアンヌは鷹揚にうなずいて見せた。

「やっぱり面白い子ね」
 窓硝子越しに本宅へと走って行くスザクを見送りながらマリアンヌはそうつぶやく。
「見た目は子ども子どもしているのに、ルルーシュよりも内心を見せないわ」
 まるでシャルルを相手にしているみたい、と彼女は眉根を寄せる。
「こちらに対する好意は本心からのものだとは思うけど……判断に困るわね」
 まだまだ子どもなのに、とそのままはき出した。
「このまま敵に回らずにいてくれればいいのだけれど」
「そう思うなら、ルルーシュをけしかければいいだろう?」
 不意に部屋の奥からそんな声が響いてくる。
「来ていたの?」
「あれが心配してな」
 べた惚れだな、と続けながらその声の主──C.C.はマリアンヌのそばに腰を下ろした。
「困った人ね」
 苦笑と共にマリアンヌは言葉を返す。
「ここに来た理由はちゃんと説明してあるのに」
「それでも不安なんだろうよ、あれは。昔からそうだ」
 心配しすぎて失敗するのも言葉が足りなすぎるのも……とC.C.は続ける。
「ならば目の前に置いておけばいい。そう言いたいところだが、今回はお前がミスをしたからな」
「それに関しては否定できないわね」
 ここまで大けがをする予定ではなかったのだ、とマリアンヌはため息をついた。
「あちらがまさかあんな手段を使うとは思わなかったし」
「一番コストのかからない武器が《人間》だからな。それが子どもならなおさらだ」
「ますます許せないんだけど」
 こう考えるようになったのは、自分が母親になったからだろうか。それとも別の理由からか、と言う疑問がマリアンヌの思考を一瞬かすめた。だが、それはすぐに別のものへと取って代わられる。
「安心しろ。シュナイゼルとコーネリアが動いている」
 それを察したのか。C.C.がこう言って笑った。
「なら大丈夫ね」
 あの二人であれば任された以上、きっちりと結果を出すだろう。
「そうなれば、後の問題はやっぱりこちらの事ね」
 スザクが味方なのかどうか。それを見極めなければいけないだろう。
「本当に難しいわね」
 色々ととマリアンヌはため息を一つついた。



16.06.23 up
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