巡り巡りて巡るとき
14
「これは見事ね」
マリアンヌがそう言って微笑む。
「ここには危険な植物はないから。シロツメクサとかは乗っかっても大丈夫だと思うよ」
スザクはそう言いながら持ってきたシートを広げ出す。
「手伝う」
さすがに彼一人では手に余ると考えたのか。ルルーシュがそう言って近づいてきた。
「悪い。そこ押さえてて」
手伝ってくれるというなら遠慮はしないとばかりにスザクは指示を出す。
「これでいいのか?」
「あぁ。面倒なら、そこいら変に落ちている石をのせてもいいぞ」
シートに下になる部分の石を拾ってよけておいた分がある。それを利用すればいいと続けた。
「あぁ。これか」
「そう」
ルルーシュが石を置き、もう片方を押さえたのを確認して、スザクはシートをしわが出来ないように引っ張る。四畳半ほどのスペースが出来たのを確認して女性陣を呼んだ。
「クッションも持ってきてあるけど、ナナリーは車いすのままの方がいいのか?」
それともこっちに座るかと問いかける。
「シートの上でいいわよね?」
「はい、お母様」
まだ直接言葉を交わすのは難しいのか。マリアンヌが間に入ってくれる。
「じゃ、クッション。必要ならこっちも使って。空気を入れて膨らますやつな」
そう言いながら座布団型のと圧縮袋に入れてきたクッション、そしてエアークッションを的待て入れてきた袋を差し出した。
「ありがとう」
マリアンヌがそれを受け取ると中身を確認する。
「たくさん持ってきてくれたのね」
「地面に座りっぱなしだと辛いかなっと思って。あぁ、安心しろ。座布団はマリアンヌさんとお前の分もある」
後半は神楽耶へ向けたセリフだ。
「ならよろしいですわ」
即座に彼女はこう言い返してくる。
「ルルーシュの分は、ごめん。ちょっと数が足りなかったから」
「かまわない。君も使わないんだろう?」
「俺はなれているからな」
いざとなれば適当に葉っぱを集めて布でくるめばいい。それがなくても石の上でも十分だ。
「そうか」
納得できたのか。ルルーシュが静かにうなずいてみせる。
「本当にお従兄様はおうちでおとなしくしてられませんのね」
「うちにいれば父さんの再婚相手候補が押しかけてくるんだから、仕方ないだろう」
そいつらを相手にするよりは外で走り回っていた方が有意義だ。そう続ける。
「実際、今日は役に立っているんだし」
「……否定は出来ませんわ」
これで否定をされたら、次から誘わないだけだ。だが、渋々だったとはいえ同意をしてくれたから、まぁ、次までは様子見と言うことで誘うことにしよう。
「でも、次があるとすればひまわり畑かな。迷路を作ってもらったから」
単純なものとはいえ、それなりに楽しめるだろう。ついでに普通のひまわりだけではなく背丈が低い品種とかちょっと変わった花が咲く品種も入れてもらったから、そちらの方でも楽しめるのではないか。
ナナリーには見えないかもしれないけど、触ってもらえばいいだろう。
「ひまわり畑?」
興味があったのか。ルルーシュが問いかけてくる。
「休耕地に植えているんだよ。後ですき込んで緑肥にするんだって言ってたな」
秋になればコスモス畑もある、と続けた。
「それはすてきね」
マリアンヌがそう言って笑う。
「私でも知っている花だわ」
「母さんが知らなすぎるだけです。後わかるのはバラとかすみ草と百合と桜ぐらいじゃないですか」
ルルーシュがため息交じりに言い返す。
「あじさいも覚えたわよ」
にこやかな表情でマリアンヌが胸を張った。
「私だって教えてくれる人間がいれば覚えるわよ。贈られてくる花束は大概バラか百合とかすみ草ばかりだったし……桜は写真で覚えたのよね」
それならば納得か。
「マリアンヌさんに似合うのは大輪の花だと思われていたんだ」
しかも、贈る方からすれば無難な選択なのだろう。
「……それにしても、もう少し興味を持ってもいいとは思わないか? ナナリーに教えられないし」
即座にルルーシュがこう言ってくる。その口調には以前の警戒心はない。
「人によるよ。神楽耶は園芸種には詳しいけど野草には疎いし……知り合いには女だけど花が嫌いっていうやつもいるから」
日本には『花より団子』と言うことわざもあるよ、とスザクは笑う。
「花粉症の方には怖い存在ですものね」
神楽耶のそのセリフもどこかずれているような気がする。もっとも、それを本人に告げても意味はないだろう。
「花より宝石の方がいいとか、ものすごくずれている人だと武器の方がいいとか逝っていた人もいたなぁ」
もちろん、それは藤堂の部下の一人だ。そう思いながら視線を移動すればさりげなく顔を背けている当人が確認できる。
「私もどちらかと言えば武器の方が良かったわ。実戦で使えるものの方が役立ったもの」
それに気付いているのかいないのか。マリアンヌがしれっとしてそう言う。
「軍務についていらっしゃったなら当然ですね」
スザクはそう言葉を返す。
「戦地では花は気分転換になるけど、それだけだもの。だから、シャルルからもらって一番嬉しかったのはガニメデね」
さらりと告げられた単語にスザクは内心驚く。
ブリタニアがナイトメアフレームを開発しているだろうとは推測していた。それを彼女が裏付けてくれたのだ。
もっとも、とスザクは心の中でつぶやく。
この三人がいる以上、あの日の再来が行われる可能性は低くなったのではないか。もっとも、ゼロだと言い切れないのが辛い。
「母さん。少しは落ち着いてくれるとありがたいんだけど」
「わかっているわよ。だから、遠征の回数は減らしているわ」
それも何だかなぁ、と思わずにいられない。
ともかく話題をそらそう。そう思ってスザクは周囲を見回す。
「……とりあえず、花冠でも作ろうか。ナナリーなら似合いそうだし」
こうつぶやきながら手近にあったシロツメクサの花を摘み取る。
「お従兄様、わたくしには似合わないとおっしゃいますの?」
即座に神楽耶が突っ込んできた。
「お前は自分で作れるだろう? ナナリーは今は作れないし、教えるにしても完成形がわかっていた方がいいじゃないか」
即座にスザクはそう言い返す。
「マリアンヌさんの分はルルーシュが作るだろうし」
さらに彼はそう付け加える。
「もちろんだ」
即座にルルーシュがこう言ってきた。
「じゃ、まずは頑張ろうか。そうだ。神楽耶、お前の分も作ってやるから、ナナリーに花の名前を教えてやれよ。指で触れるようにして」
「わかりましたわ。その方が退屈されませんわね」
神楽耶も自分まで熱中しては二人を放置することになると判断したのだろう。それは客を迎えたホストとしては失格だろうとも。だから素直にうなずいてみせる。
「お茶の道具はあちらの籠に入っているから。何なら野点でもすればいい」
「任せておいてください」
スザクの言葉に彼女は微笑んで見せた。
16.08.07 up