巡り巡りて巡るとき
15
花冠を作り、食事をしていれば結構いい時間になった。
「……ここは涼しくて居心地がいいな」
帰るために周囲を片付けていたルルーシュがそうつぶやく。
「山の方には小川もあるよ。桐原のじいさんが安全を確認した後で案内してやるよ」
自分から見れば裏山は庭みたいなものだが、とスザクは言い返す。それでも桐原からすればまだまだのようだ。
「その時は、ナナリーは俺が背負っていくしかないけど」
ルルーシュでは自分がたどり着くのが精一杯だろう。言外にそう告げる。
「……どうせ、僕は非力だよ!」
ルルーシュが頬を膨らませながらにらみつけてきた。
「腕力の問題というよりは体力の問題だと思うよ」
その気になればルルーシュでも目的地にはたどり着けるだろう。ただ、その後で帰ってこられるかどうかは別問題と言うことになるが。
「そうね。あなたの場合、ちょっと厳しいわね」
マリアンヌもその点は否定できないらしい。
「運動神経と体力をどこに忘れてきたのかしら、あなたは」
ちゃんと上げたつもりなのに、と彼女は言う。
「ナナリーにはちゃんと上げたのに」
けがをする前はルルーシュを振り回していたと言うことか。そういうところも変わらない。スザクは心の中だけでつぶやく。
「僕は父上に似たんです」
ルルーシュがそう反論した。
「そういうことにしておきましょう」
もっとも、マリアンヌにあっさりとながされたが。
「では、帰りましょう」
スザクはそう言うと立ち上がる。
「帰ったらすぐにお風呂に入りたいですわ」
神楽耶がそう言ってきた。
「連絡しておけばいいだろう。携帯、持っているじゃないか」
「そうでしたわ。マリアンヌ様方もそうされます?」
「そうね。私はともかく、ルルーシュとナナリーは汗を流したいでしょうし」
「マリアンヌ様は全然汗をかいていらっしゃいませんわね」
そういえば、と神楽耶がつぶやく。
「マリアンヌ様は軍人でもいらっしゃるんだろう? なら、このくらいはまだまだ準備運動ぐらいって事じゃないかな」
それにスザクはそう言う。
「きっと藤堂さん達もそうだろうし」
それどころか、彼等ならばさらに負荷をかけられるのではないか。言外にそう付け加えた。
「……軍人の体力は甘く見てはいけないのですね」
「体力切れで倒れちゃ、前線で役に立たないじゃん。参謀とかでも、戦闘が継続している間はずっと緊張していないといけないんだし。研究者は、別枠?」
そんな話を聞いたことがある、とさりげなくスザクは付け加えた。
「別枠と言うより、ただの変態だ」
それにルルーシュがこう言い返してくる。
「何かあったのか?」
思わずそう聞き返す。
「……ちょっとな」
「あの子は特別よ。あのくらいじゃないとシュナイゼルの友達なんてやってられないだろうし」
マリアンヌの言葉で該当人物が絞られた。確かに彼があの調子で迫られたら《研究者=変人》と言う図式が出来てしまっても仕方がないだろう。
もっとも、自分が彼のことを知っているとルルーシュ達に知られるわけにはいかない。
「まぁ、どんな変態でもここまでは追いかけてこないんじゃない、かな?」
さすがに、とスザクは曖昧な笑みとともに言う。
「だといいが……」
「大丈夫でしょう。シャルルが許可しないはずだもの」
さすがはマリアンヌ。既に先手を打っていたらしい。
「じゃ、大丈夫ですね」
ルルーシュがほっとした表情で言葉を口にしている。
「これでゆっくりと過ごせます」
「そのためにこちらに来たんだもの。もちろん、今日みたいな行事は大歓迎だわ」
マリアンヌの言葉にナナリーもうなずいて見せた。
「目が見えなくても楽しめることがあるのですね」
そしてこう付け加える。
「あちらにいた頃、いただくお花は同じようなものだけでしたし、自由に触れませんでしたもの」
おそらくお見舞いにもらったのだろう高価な花束は侍女達の手によって見栄え良く飾られていたのではないか。
「なら、明日から毎日、いろんな花を持って行ってやるよ」
スザクはすぐにそう声をかける。
「好きなだけいじり回して、花の形を覚えるのも重要だと思うぞ。学者の先生は花を分解して一つ一つ確認するそうだし」
だから、いじり倒してくしゃくしゃにしてもかまわないんだ。言外にそう告げる。
「はい。楽しみにしています」
ナナリーが嬉しそうにそういうのを見て、ルルーシュが一瞬、微妙な表情を作った。だが、すぐに笑顔に戻る。
「良かったな、ナナリー」
そのままこんな言葉を口にするあたり、本当に妹最優先だな、と思う。
もっとも、それが《ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア》と言う人間の根本なのだろうが。
「片付けも終わったし、戻ろうか」
暗くなる前に屋敷の敷地内に戻っておきたい。そう判断をして皆を促す。
「それがいいでしょうね」
マリアンヌもうなずいたことから、全員で移動を開始した。しかし、今回は舗装されている方の道を使う。周囲に草花は少ないが、距離は短いのだ。それも、神楽耶とルルーシュの疲労を考えてのことである。
「……こちらはまた雰囲気が違うな」
ルルーシュがつぶやくように言葉を口にした。
「この先に油をとるためのひまわり畑があるんだよ。神社で使うんだけどさ。だから、手入れをする人間が車で移動できるように舗装してあるんだ」
もっとも、ここも枢木の私有地だ。だから、他人の車が入ってくることはない。
「なるほど。先ほどの場所も整備しているのか?」
「まぁ、それなりに。と言っても、たまに生えている木を移動するぐらいだそうだけど」
日陰が出来ると草花が育たなくなるから、と付け加える。
「植生か」
「興味があるなら、今度もう少し奥の方に案内するけど?」
「そうだな。そのうち頼むかもしれない」
スザクの言葉にルルーシュがこう返事を返してきた。
「安心しろ。その時は車を出してもらう」
このセリフに彼はほっとしたような表情を作る。
「ダメよ、ルルーシュ。もう少しでいいから体力をつけないと。いざというときに困るわ」
マリアンヌが即座に口を挟んできた。
「……努力します」
一瞬嫌そうな表情を作った後で彼はそう言う。
「頑張ってください、お兄様」
ナナリーにこう言われて逃げ道がふさがれたようだ。
「そうだな」
ため息とともにそう言い返している。
「ルルーシュをその気にさせるにはナナリーの言葉が一番ね」
マリアンヌの言葉を否定できる者は誰もいなかった。
16.08.28 up