巡り巡りて巡るとき
16
黄昏時にようやく皇の別邸にたどり着いた。
そのまま離れに行こうか、と思ったときだ。スザクは微妙な違和感を覚えた。
「……神楽耶」
厳しい声音で従妹の名を呼ぶ。
「何でしょうか」
「三人をつれて本宅に行け」
少し堅い声音でそう告げる。それだけで彼女には飲み込めたらしい。
「わかりました」
そう言うと彼女は三人に歩み寄っていく。
「さて……と。どこから調べるか」
自分ならばどこに潜むか、と脳裏に見取り図を思い浮かべながら考える。
一番可能性が高いのは彼等が気を抜く場所か。だが、あのマリアンヌが──体調が優れないとはいえ──そんな気配に気がつかないはずがない。
だとするならば、ルルーシュかナナリーが狙いだと言うことになる。あの二人がいつもいるとすれば、寝室か。
あぁ、トラップを仕掛けているという可能性もあるな、と心の中だけで付け加えた。
「とりあえず、バカ正直に玄関から入ることはないよな」
確認だけをしておいて、裏口なり何なりから入ればいいだろう。
その前に床下を調べておいた方がいいか。
後は天井裏かなぁ。一人で調べるのは大変だな。
そんなことを考えていたことだ。
「スザクくん」
背後から耳になじんでいる声が届く。
「神楽耶から呼び出されたんですか、藤堂さん」
視線を向ければ予想通りの人物が確認できた。
「たまたま道場の方の報告で桐原公のところに来ていただけだ」
そう言うのであればそういうことにしておいた方がいいだろう。
「それで?」
「なんと説明すればいいのか……違和感があるとしか、まだ言えません」
確かめるにも下手に踏み込めないだろうし、とそう続けた。
「可能性としては、玄関か床下にトラップがありそうです」
「天井は?」
「目標がルルーシュとナナリーならあり得ません。あったとしてもそのためのスイッチは俺の肩より下だと思います」
この言葉に藤堂は満足そうにうなずく。
「良く覚えていたね」
以前、稽古後の雑談で出た話題だからだろう。
「……実戦して試しました。朝比奈さん相手に」
「朝比奈か。まぁ、引っかかったとしてもあれが悪いな」
気付いたなら気付いたでそれは当然だが、と藤堂はうなずく。
「いい実験になりました」
そう言いながらスザクは玄関を調べる。そうすればたたきすれすれに細いワイヤーが貼ってあるのが見えた。
「師匠」
それを藤堂に指摘する。
「これは……おそらくフェイクだろうな」
「ですよね」
これを解除させて安心したところに次のトラップがあるのだろう。
「うっすらですが人の気配もありますね」
日本風に言えば隠密だろうか、この気配は。
「確かに」
藤堂もそう言ってうなずく。
「それなりの腕前の持ち主かな?」
「でしょうね。どこぞの高位貴族か、それこそ皇族の子飼いでしょう」
第三の声がスザク達の会話に割り込んできた。
「マリアンヌさん……」
本宅の安全な場所にいたのではないのか。言外にそう問いかける。
「ルルーシュとナナリーと神楽耶ちゃんはあちらよ。私としては、せっかく居心地のいい場所を貸してもらったのに余計なことをしてくれるバカが許せないだけ」
うふふふふ、と彼女は笑いを漏らす。
「大丈夫ですか?」
身体の方は、とスザクは言外に問いかける。療養に来ているのに大立ち回りをするのはまずいのではないか。そう考えたのだ。
「一人だったらやめたけど、スザクくんと藤堂少佐が一緒でしょう? だから、大丈夫よ」
マリアンヌがそう言い返してくる。
「……そう言われるなら」
「仕方がありませんな」
ため息とともに二人はそう言い返す。
「じゃ、とりあえず床下を調べてきます」
スザクはそう言うと、さっさと移動する。
「無理はしないように」
「わかっています」
そう言うと、排気のために開けられている穴から床下へと滑り込む。無防備と思われるかもしれないが、スザク達のような小柄な体躯でなければここからは入れない。藤堂もそれがわかっているから許可を出したのだろう。
しかし、これはないのではないか。
「……師匠。反対側でネズミが引っかかってます」
こんなアホが隠密だなんて間違っている。心の中でそうつぶやきながらスザクは藤堂へと声をかける。
もっとも、これも陽動なら相手はそれなりに頭を使っていると言うことだ。
「今は放っておけ。後で卜部達をよこす」
「はい」
「他には?」
「床下にはいません。いるとすれば天井裏ですか?」
そんな会話をかwしながら、スザクは奥へと進む。別宅の中央あたりまで進んだところで、彼は地面を思いきり蹴飛ばした。
そこが大きくへこむ。
それを確認してから、手当たり次第近くにあった石などを放り込む。
次の瞬間、人影が上半身だけ姿を現す。
『小僧!』
その顔めがけて、スザクは遠慮なくけりをたたき込んだ。
16.09.04 up