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巡り巡りて巡るとき

17



 小一時間も経たないうちに襲撃犯はすべてたたき伏せられていた。
「見覚えがあるわね、この顔」
 ため息交じりにマリアンヌがそう告げる。
「とりあえず、大使館に連絡してもかまわないかしら?」
「お任せします」
 ブリタニアのことはブリタニアで解決をすればいい。桐原もそう考えたのかこう告げる。
「問題はどうやってここに侵入できたのかだよね」
 スザクがぼそっとそうつぶやく。
「スザクくん?」
 それをとがめるように藤堂が彼の名を呼ぶ。
「いや、かまわん。儂もそれが気になっていた」
 ため息とともに桐原が口を開く。
「ここにはヴィ家の方々だけではなく神楽耶様とスザクもおる。うかつな人間は敷地内に入り込めぬようになっていたはずじゃ」
 それなのに、いくら専門の訓練を受けた者達とはいえあれだけの人数が潜んでいた。しかも、余計な工作までしていたではないか。
「内通者がおるか……」
「あるいは、逆らえない人間からの圧力があったかだよな」
 どうせあの人だろう、と心の中だけで付け加える。もっとも、本人がどこまで関与しているのか迄はわからないが。周囲の連中があれこれしているのだけはスザクも知っていた。
 しかし、ここまでするとは予想はしていなかったが。
 あるいはそのあたりも既に話し合いが終わっていたのかもしれない。
「己の主義主張を通すためなら、我が子を傷付けてもかまわんと言うか」
 あきれた男だ、と同じ結論に達したらしい桐原が吐き捨てるように言葉を口にする。
「少し仕置きが必要だの」
 さてどうするか。そうつぶやく彼の表情からゲンブが政治家としては致命的ではないものの、しばらく忙殺される程度のスキャンダルがマスコミを賑わせるだろうと言うことは想像に難くない。
「……でもさ。父さんってブリタニア嫌いじゃん。どこでマリアンヌさん達と敵対している連中と出会ったんだろうね」
 小首をかしげながらスザクは疑問を口にする。
「それももっともな疑問だの。調べさせるか」
 桐原はスザクの言葉にそう言ってうなずく。
「……スザクくんって、優秀なのね」
 マリアンヌがそう言って微笑む。
「残念だわ。あなたがブリタニア人だったら無条件でしごいてあげるのに」
 いい将軍になれるわ、と言うのは褒め言葉なのだろうか。
 もっとも、実際に一軍を率いた経験がある。それどころか世界をまとめる役目も担ったのだ。今更という気がしないわけではない。
 同時に、それでも彼女に勝てないと感じている。
 体格差だけではない。彼女には自分にない《何か》がある。それがなんなのか、とりあえず想像はついていた。しかし、実際に目にしていない以上、怖いものは怖いとしか言いようがないのだ。
「……何か、半殺しにされそう……」
 強くなれるかもしれないけど、とスザクは口にする。
「大丈夫。そこまではしないわ。まだまだ成長期だものね」
 本気でしごくのは身体がもっとしっかりしてからだ。そう言って彼女は笑う。
「それは冗談にしても、基礎訓練に付き合ってくれると嬉しいわね」
 それくらいならばかまわないか。そう考えながらも確認を求めて桐原へと視線を向けた。
「無理なさらないとおっしゃるなら」
 静養に来ていることを忘れないように、と彼はマリアンヌに釘を刺している。
「わかっているわ。だから、スザクくんなんだけど」
 肩をすくめると彼女はそう言い返す。
「藤堂だと間違いなく本気にならざるを得ないわ。スザクくんなら、まだ指導の範囲で収まるはずだもの」
 その言葉が少し悔しいと思うのは自分にもそれなりに矜持があるからか。
「ならばよいが。スザク、わかっておるな」
 今度は矛先がこちらに向く。
「挙の感じだと、基礎訓練ぐらいなら大丈夫じゃないかなって思うから、それぐらい?」
 首をかしげつつもスザクはそう言い返す。
「妥当なところですね」
 藤堂がこう言ってくる。
「そうか。くれぐれも相手がブリタニアの皇妃であることを忘れるなよ?」
 そこまで釘を刺されることか。そう思わなくもない。だが、ここで下手に反論をしてはやぶ蛇になる。そう判断をしてスザクは素直に首を縦に振って見せた。

 ルルーシュとナナリーは既に神楽耶とともに夢の中へと旅立っていた。スザクもかなり眠そうだ。
 時間を確認すれば、時計の針はそれも無理からぬであろう時刻を指している。
「あらあら。夜更かしをさせちゃったわね」
 苦笑とともに マリアンヌはそう告げた。
「大丈夫です。マリアンヌさん達が無事なことの方が重要ですから」
 そう言い返してくる声にも眠気はにじんでいる。
「でも、さすがに風呂に入って寝ます」
「そうね。ちゃんと寝ないと大きくなれないわよ」
「それはやだ!」
 マリアンヌの言葉に即座にスザクは言葉を返してきた。そういうところはまだまだ子どもらしい。
「と言うことで、ここで失礼します」
 こう言い残すと彼はかけだしていく。
「本当に変わった子ね」
 その後ろ姿を見送りながらマリアンヌはそうつぶやいた。
「でも、悪い子ではないわ」
 少なくとも自分たちの敵ではないだろう。しかし、味方とも言い切れない。
「どう判断すればいいのかしらね」
「それを知りたくて一緒に鍛錬するんだろう、お前は」
 背後からそんな声が飛んでくる。
「そうよ。悪い?」
「いや、妥当なところだな」
 むしろそれしかないだろう、とC.C.は付け加えた。
「……あの子、時々ものすごく大人びた表情をするのよね。何かあるのかと思ったけど、父親との確執が原因かしら」
 それだけではないような気がする。マリアンヌはそう続けた。
「枢木ゲンブか」
「えぇ。ちょっと調べた方がいいかもしれないわ」
 本人ではなく、その周囲にいる者達について。それが今回の一件に関わっているはず。
「最悪、ナナリーを傷付けてくれたバカにつながっているかもね」
 だとしたら許さない。マリアンヌはそうつぶやいた。



16.09.11 up
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