巡り巡りて巡るとき
18
どう考えても、自分だけであれこれするのはもう無理だ。
「せめて、情報だけでも欲しいよな」
あのくそオヤジが、今何をしているのかの……とそう続ける。
「絶対、あいつらが関わっているんだ」
澤崎とその裏にいるであろう連中が、と手にしていた鉛筆をかむ。
だが、自分が入手できる範囲内ではそんな事実はなかったことになっているはずだ。いや、ひょっとすれば桐原の手のものでも難しいかもしれない。
あんなのでも枢木の当主代行である。
そして、日本国の首相だ。それなりの権力はあると言っていい。
「本当、どうして俺は子どもなんだろう」
仕方がないことだとわかっていてもそう言わずにいられない。
あるいは、自分の手足になってくれるような実力者か。
本当に無い物ねだりだ、と思う。
一番手っ取り早いのは、自分で動くことだ。過去の経験の蓄積があるから、それなりに相手を出し抜けるとは思う。
「それでも年齢的な制限はあるか」
学校が始まれば通学しなければいけない。それでなくても、ルルーシュ達に付き合う必要があるだろう。だからといって、今の身体では睡眠時間を削るのは命取りだ。
「本当、子どもって動きにくいよな」
せめて中学生だったら、もう少しマシだったのかもしれない。だが、それでは遅い可能性もある。そう考えれば、今が一番ベストなのだろうか。
「ったく……放置するなら完全に放置しろよな、くそオヤジ」
こう付け加えたのはもう習い生だ。最近、ゲンブの手のものと思える人間が増えてきている。どこで何を聞かれてもいいようにゲンブに対する愚痴を混ぜるようにしているのだ。
「煮詰まっているようだな」
しかし、それが誰かに聞かれることは普通ない数だった。それなのに、何故、こんなセリフが頭の上から降ってくるのだろう。
「誰だ!」
確認しなくてもいいくらい耳になじんだ声ではある。しかし、彼女が毎回味方であるとは言い切れないのだ。
今回はどちらだろうか。はっきりとするまでは警戒を緩めるわけにはいかない。そう思いながら相手をにらみつける。
「なんだ? 忘れたのか?」
こう言いながら魔女が笑う。
「あいにくと人の部屋に勝手に侵入してくるような相手は知らん」
不法侵入はともかくピザが好物な魔女ならば知っているが、と心の中だけで付け加える。
「不法侵入などしておらんぞ。ちゃんと玄関から入った。そういえば、声をかけたが返事はなかったな」
「……聞こえなかったからな」
玄関から入っても、それならば十分不法侵入だろう。第一、鍵はどうしたんだ、と心の中で付け加える。
「鍵かけてたよな、俺」
「思い切りひっぱったら壊れたぞ」
「……間違いなく不法侵入だな。警察呼ぶか」
こう言いながら腰を浮かせた。これは立ち上がるまでに消えてくれるならそのまま放置するんだけど、とスザクは心の中だけで付け加えた。
「どうせ呼ぶなら、ピザ屋にしろ」
しかし、このセリフは予想外だった。
「ピザ魔女……?」
無意識に昔の罵倒語がこぼれ落ちる。
「なんだ? 覚えているじゃないか」
そう言って彼女は目を細めた。
「じゃない……ピザ魔女はもっと丸い! じゃ、お前は誰だ?」*
スザクはそう叫ぶ。*
「コスプレするなら、体型も似せてこい!」*
その言葉に彼女は目を丸くしていた。*
報告書を読み終わったところで、それを握りつぶす。そのままライターで火をつけると灰皿の上に落とした。
「……全く、あれは……」
どうして自分の思い通りにならないのか。
もっとも、と彼は続ける。あれの母親も結局は自分の思い通りにならなかった。それは皇の血を引いているという自負があったからか。
「皇も厄介だ。いや、厄介なのはその背後にいる桐原か」
そうだろうと自分の言葉にうなずく。皇だけではなく枢木とも深く結びついているあの家の当主である桐原泰三。あの男が今の皇と枢木を牛耳っていると言っていい。
少なくとも枢木に関しては自分がそうなるべきだったのに。
そうすれば、もっと政権運営が楽だったのではないか。
いや、それ以前にスザクがここまで反抗的にならなかっただろう。
「可愛くないわけではないのだがな」
自分の血を引いているとわかっているのだ。そんな存在をいとおしいと思わないわけではない。
しかし、彼の方が自分を理解してくれないのだ。
「反抗期にしては長すぎるな。放っておきすぎたか」
だが、今更どうやって距離を縮めればいいというのだろう。それがわからないからなかなか顔を合わせることが出来ない。何よりも周囲の暴走に彼を巻き込んでしまったと言うことも事実。
それがますますスザクを意固地にさせているのだろう。
「子育てとはままならないものだな」
あるいは、妻が生きていてくれればそれすらも楽しめたのか。それともと考えたところでゲンブは思考を打ち切る。
「もう遅い。賽は投げられたのだ」
後は行き着くところまで行くだけだ。そうつぶやいていた。
部屋に戻ってきたC.C.はとても機嫌が良かった。
「何があったのかしら?」
マリアンヌはそんな彼女にこう問いかける。
「男におごらせてきたから飯はいいぞ」
この国にも下僕がいたのか、と少しあきれたくなる。同時に、それはいったい誰なのかとマリアンヌは考えた。
「私が知っている相手?」
「内緒だ」
「あら、ひどい」
みじんもそうは思っていないが、とりあえず口にする。
「お互い様だろう?」
違うのか、と聞き返された。
「まぁ、そうなんだけどね」
苦笑とともに同意する。
「安心しろ。少なくともルルーシュとナナリーの敵ではない。お前に関しては行動次第だが」
「それならばいいわ」
少なくともあの子達に刃を向けないというのであれば内緒にされていてもいいだろう。
「そのうちわかるでしょうし」
「そうだな」
否定されなければそれでいい。マリアンヌはそう考えてうなずいて見せた。
16.10.23 up