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巡り巡りて巡るとき

19



 青空に入道雲が映えてまぶしい。
 目を細めてそれを見上げると、スザクはそのまま芝生の上に寝転んだ。
「……そろそろかなぁ……」
 何かが動くとすれば、と口の中だけで付け加える。
「戦争でなければいいんだけど」
 国同士のこととなれば、今の自分に手出しできることはない。
 それでも、マリアンヌがいる以上、あの二人はあのときのような結末へ向かうことはないはずだ。
 しかし、自分たちはどうだろう。
 敗戦がもたらす結果がどれだけ悲惨なものか、今現在、知っているのは自分だけだ。いや、とすぐに思い直す。あのピザ魔女も同じか。
「どうしてあいつは小学生の乏しい小遣いを搾り取ろうとするんだろうな」
 宅配のピザはのに、と彼はため息をつく。
 かといって、自分で作れるはずがない。作れたとしても《彼》がせっせと餌付けした関係上、舌が肥えているはずだ。そこそこのレベルでは満足しないことがわかりきっている。
 そう。
 今までの経験からそれはよくわかっていた。
 ただ、今まではここまで早い時期に合うことはなかった。だからなんとかなっていたのだ。
 そう考えれば、早くてよいというものではないのかもしれない。
「まぁ、あのピザ魔女のことは放っておいでもいいか」
 こちらの邪魔はしないだろう。
「問題は父さんの方だよな」
 いったい何をしているのか。最近は顔を見せないどころか連絡もしてこない。その事実を告げれば、さすがの桐原も『処置なし』とぼやいていたほどだ。
「本人に聞くわけにもいかないし、かといって、ニュースなんかじゃ推測しか出来ないしな」
 影でこそこそとしているのであればよっぽどのスクープでもない限りわからない。
「本当、誰か情報をリークしてくれないかな。盗聴器を仕掛けるのでもいいけど」
 仕掛けに行くのが面倒だし、とため息をつく。
「誰か、国会議員のバッジに仕込めるサイズの盗聴器でも作ってくれないかなぁ」
 考えても仕方がないとわかっていてもそう言いたくなる。
「仕方がない。最後の手段でお手伝いさんに泣きついてこよう」
 いい加減、忘れられているけど、誕生日のプレゼントをねだってもいいだろう。だからと思いながら母屋に向かう。
「本人にくれる気持ちがあるかどうかはわからないけどな」
 まぁ、それでも周囲がなんとか手配するだろうど、とスザクはつぶやいていた。

 神楽耶のいる本宅とマリアンヌ達がいる別宅だけではなく、自分のいる離れの周辺にも護衛の影が見え隠れしている。その事実に気がついてスザクは眉根を寄せた。
「下手に動けないじゃん」
 メールなどは盗み見られないだろうが夜に抜け出すのは難しくなったな、とため息をつく。
「父さんが何かやらかしたのかな?」
 まっ先に思いつくのはそんなことだ。しかし、それを誰に確認すればいいのだろう。もっとも、教えてもらえるとは思わないが。
「マジで八方ふさがりじゃん」
 マリアンヌから声がかかったのはそんなときだ。
「どうかしたんですか?」
 挨拶をするよりも先にこう問いかける。
「あぁ。ごめんなさい。ナナリーの主治医が来たの。あなたにも会わせておいた方がいいと思って」
 その理由はきっと、自分が彼等を引っ張り回しているからだろう。
「無理はさせていませんよね?」
 とりあえず確認をしてしまうのは、ルルーシュの体力のなさをまっ先に思い出したせいだ。
「怒られるとでも思っていたの?」
「違うんですか?」
 マリアンヌの言葉にスザクはこう聞き返す。
「怒らないわよぉ。むしろ、褒めてあげるわ」
 答えを口にしたのはマリアンヌではない。視線を向けるとだらしないのとセクシーとのラインのぎりぎりで着崩した女性の姿が確認できる。もちろん、その相手の名前をスザクは知っていた。
「どなたですか?」
 しかし、ここでは今、初めて会う相手だ。だからこう問いかける。
「ラクシャータ・チャウラー。ラクシャータでいいわ、坊や」
 そう言いながら、彼女は煙管を口に含む。
「来てからすぐにナナリー様の様子を確認させてもらったんだけど、あちらにいたときよりものすごくいいのよねぇ。特に精神的に」
 煙を吐き出しながら彼女はそう言った。
「ナナリー様の足はともかく、目の方は精神的なものが大きいから。あるいは見えるようになるかもしてないわ」
「そうだと嬉しいけど」
 ラクシャータの言葉にマリアンヌはそう言う。
「スザクくんが持ってきてくれる花やきれいな小石なんかは自分の目で確かめてみたいようね」
 形はわかっても色はわからないから、と彼女は続けた。
「……手触りしか考えてなかったんだけど」
 色はきれいな方がいいかな、と言う程度だ。スザクはそう告げる。
「それはいいの。大切なのはナナリー様が『見たい』と思われることだから」
 ラクシャータはそう言うと唇の端を少しだけ持ち上げた。
「少しでもそう言う気持ちになってくれるならば治療方法もある。でも、今までのナナリー様は世界を見るのを怖がっておられたわ」
 最後に見た光景が光景だったから仕方がないのだろうが、と彼女は続けた。
「でも、ここならば大丈夫。そう思われたのはあなたのおかげなのよねぇ」
 少しだけ悔しいけど、と言う彼女にスザクはあることを思いつく。
「俺や神楽耶、それに桐原のじいさんはそう考えているけどね。そうじゃない人間もいるんだよな」
 うちの父親とかその取り巻きとか、と続ける。
「あら、そうなの?」
「思いっきりブリタニア嫌いだから。しかも八つ当たりの」
 ブリタニアでも母の病気を治せないとわかっているのに、いまだに認めたくないらしい。そう続ける。
「……それだけならまだしも、中華連邦と組んで何かやらかそうとしているみたいなんだよな。最近、街にあっちの連中が増えているし」
 急先鋒の澤崎があっちに行っているし、とため息をついて見せた。
「それって、本当?」
「少なくとも、じいさんがここの警備の人数を増やす程度には」
 最近気がついたけど、とスザクはすぐに言葉を返す。
「いっそ、父さんに盗聴器でもつけてやりたいくらいだけど……市販のものじゃすぐにばれそうなのが難点なんだよね」
「あら。ずいぶんと面白い事を考えるのね」
「母さんが死んでから後妻に収まりたい連中が山ほど押しかけてくるから。その中の何人かは父さんの恋人らしいし。俺がこっちに来てからじいさんが家を調べたら盗聴器が仕掛けてあったってさ」
 だから、機会があったらやり返してやろうと考えていたのだ。そう言ってスザクは笑う。
「なかなか壮絶ね」
「……実力行使にでない分だけ陰険かしら」
 女性陣の感想はそれだった。
「でも、いいわ。そう言う事なら協力してあげる」
 ラクシャータが微笑みとともに言葉を口にする。
「本国にいるマッドに作らせればいいでしょ」
「あぁ。それはいいかもね」
「そういうわけだから、それはちょっと待ってね」
「わかりました」
 二人の言葉にスザクはうなずいてみせる。
「ただ、出来れば早めにしてくれるとナナリーを安心してひまわり畑に連れて行けるんですが。来週ぐらいには見頃だし、ルルーシュも楽しいんじゃないかなっと」
 車で行けるし、と付け加えた瞬間、マリアンヌが思いきり話題出した。



16.10.30 up
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