巡り巡りて巡るとき
20
自分の父の下半身のだらしなさにスザクはあきれるしかない。。
その会話──と言うよりは相手の独り言か──を聞いた瞬間、スザクは頭を抱えたくなった。同時に、どうしてこれに気がつかないのかと思う。
昔からあるパターンなのに、とため息をつく。
「とりあえず録音かな」
しかし、盗聴器がこんなに早く活躍してくれるとは思わなかった。それもまた偽らないスザクの本音だ。
ゲンブの議員バッジに盗聴器を仕込んでくれたのは昔から枢木につとめてくれている女性だった。スザクの言葉も馬鹿にせず聞いてくれる彼女なら、と思って信用して良かったと思う。
しかし、その内容は全く嬉しくないものだった。これは自分の手に余ると桐原に連絡したのが今朝のこと。本人が駆けつけてきたのは昼前の事だ。
「……ゲンブめ……ここまでバカになっておったとは」
スザクが持ち込んだ音声データーを確認した瞬間、桐原が眉根を寄せる。
「しかし、お前も何故こんな事を?」
「また自称『俺の義母』が現れたから。マリアンヌさんのところの女医さんに愚痴ったら知り合いに頼んでくれたんだよね。だから、有効活用してみただけだよ」
最近、またバカ女からのあれこれが激しくなってきたから。そう続ければ桐原の眉間のしわが深くなる。
「やはり適切な相手をあてがうか」
枢木本家の当主の妻の座を望まずとりあえず政治家の妻で満足するような、と彼はつぶやく。
「いっそのこと、悪さが出来ぬようにするのもいいかもしれん」
「それは……男としてちょっと……」
去勢だけは、とスザクは言ってみる。
「わかっておる。最後の手段よ」
さすがに同じ男としてそれは忍びない。桐原もそう言う。
「まぁ、そちらに関しては一任してもらうしかないの。政治関係はお前には無理だろう」
「わかってます」
やろうと思えばやれる。だが、普通の子どもがそんなことを知っているはずがないと言うこともスザクは知っていた。だから、素直にうなずいて見せる。
「その代わりに、今日の事は」
「お前の好きにしろ。藤堂達にもそう言っておく。憂さ晴らしをすれば良かろう」
桐原の言葉にスザクは笑みを作った。
「じゃ、トラップを仕掛けてもいいんだな。花火を使った」
以前からやってはみたかったものの、相手に与える損害を考えると二の足を踏んでいたものだ。だが、今回の相手ならばかまわないだろう。
「人死にさえでなければな」
桐原が苦笑とともにうなずく。これで言質を取れた。後は実戦に移すだけだ。そう判断すると、スザクはどこにどのようなトラップを仕掛けようか。それを考え始めた。
「あらあら。どこにでも困った親というのはいるものなのね」
C.C.の言葉にマリアンヌはため息をつく。
「そうだな。どうあがいても子は親を選べん」
それにC.C.もうなずいて見せた。
「あの子はとてもいい子なのにね。ルルーシュもナナリーも気に入っているわ」
「お前もだろう?」
からかうようにC.C.が問いかけてくる。
「否定はしないわ」
ただ、とマリアンヌは続けた。
「時々、あの子が何を考えているのかわからないときがあるのよね。それが少し気になるわ」
「……なにも考えていないのかもしれないぞ」
少し考えた後にC.C.はそう言う。
「お前やビスマルクにもあるだろう? 考えた結果答えが出なくて本能に任せたらクリアできたと言うことが」
「良くあるわね」
「そう言う状況じゃないのか? はっきり言って、あいつの思考パターンはお前達にそっくりだ」
最も重要な判断を下すときは理性ではなく本能に従う。そして、それが間違わない。そうC.C.は続ける。
「もっとも、私が見てきた範囲内でのことだがな」
「それで十分だわ」
マリアンヌの言葉に彼女は目を細めた。
「それで?」
「悪い親からは話した方がいいと思うのよね」
これからの話し合い次第だが、とマリアンヌは続ける。そうすれば自分の子ども達も喜ぶだろう。
「とりあえずは元凶さんと話をしないとね」
そのためにも話し合いの場に出てきてもらわなければいけない。しかしどうすればいいのか。それを本気で考え始めたマリアンヌだった。
トラップを仕掛け終わったときだ。
「スザクくん、いいかしら」
「とりあえず確認をさせてくれ」
こんなことを口にしながらマリアンヌと藤堂が近づいてくる。
「確認ですか?」
何を、と言いかけてすぐにスザクは答えに行き着いた。
「トラップの場所なら、とりあえず、屋内にいる限りは安全ですよ」
後はこの広場、と続ける。
「……そのほかは、俺がいつも使ってるルートは問題ないです」
藤堂の部下は皆知っているはずだけど、と思いながら付け加えた。
「あの獣道か」
「そう。知らないと歩けないよね」
藤堂の言葉にスザクはうなずく。
「本宅の人間には『今日は一日、家から出るな』って桐原のじいさんが命じていたし、一番心配な神楽耶はじいさんが連れらしてくれているから、問題ない」
その言葉に藤堂が頭を抱える。
「つまり、それだけ危険だと言うことか?」
「花火を使いたいって言ったら、じいさんがそうしただけだよ」
それが何か、と続けた。
「あぁ。花火程度でも当たり所が悪ければ大けがをするものね」
髪の毛とか目とか、と口にしながらマリアンヌが微笑む。
「まぁ、いいんじゃない。子どもをさらおうとするバカには徹底的にお仕置きが必要でしょう?」
本当にいい笑顔で彼女はそう言い切った。
「まぁ、それはそうですが」
「ならばいいじゃない。第一、子どものいたずらを避けられないなんて、軍人としては最低じゃない?」
違う? と彼女は藤堂に
「……スザクくんのレベルは『子ども』と言っていいのかどうかは悩みますが……」
「子どもでしょう? おいたがしたい年齢だわ」
マリアンヌは笑顔で藤堂の反論をすべて封じてしまう。それはルルーシュも良くやっていた事だ。
「と言うことで、お馬鹿さん達相手ならリハビリにちょうどいいわ」
しかし、このセリフは許容範囲なのか。そう思いながらスザクは藤堂を見つめる。そうすれば、彼はあきらめたような表情で首を横に振ってみせる。どうやらそれに関しては既に一戦を交えて、しかも藤堂が負けたらしい。
「……ルルーシュ達に泣かれるようなことだけはしないでくださいね」
ため息とともにそう言ってみる。
「それはもちろんよ」
そう言ってマリアンヌは胸を張った。
「ならいいです」
ある意味、彼女はミレイにそっくりだ。いや、ミレイが彼女の影響を受けていたのかもしれない。そう考えれば彼女のあの押しの強さも納得できる。
心の中でそうつぶやいたときだ。仕掛けておいた鳴子が音を立てる。
「予想よりも早いですね」
準備は終わっているからいいけれど、とスザクは口にする。
「トラップの内容も聞いておきたかったんだが、仕方がない」
藤堂の言葉を合図に卜部達が顔を見せた。
「とりあえず玄関に隠れていましょう」
マリアンヌの提案を拒む理由はない。その場にいた者達は全員、気配を消すと動き出した。
16.11.06 up