PREV |NEXT | INDEX

巡り巡りて巡るとき

33



 いきなりの宣戦布告。
 しかし、まさか中華連邦がここまでするとは思わなかった。
 同時に、どうしてもこのフラグは折れないのかとあきれたくなる。
「神楽耶に振られたからって戦争を仕掛けてくるか、普通」
 あきれたようにスザクはそうつぶやく。
「しかも、相手は桐原のじいさんより年上だぞ。断られて当然だって頭はないのかよ」
 はっきり言って、シャルルでも『無理だ』と思うだろう。オデュッセウスでもアウトではないか。心の中だけでそう続ける。
「断られると思っていなかったんだろうな。うちの陛下は良くマリアンヌ様にだめ出しをされているから耐性があるだろうが……」
 ノネットが微苦笑を浮かべつつそう言う。
「マリアンヌさんなら、それ以前にナナリーと同じ年の子が皇帝陛下と結婚すると聞いた時点でその場を焦土にすると思う」
「陛下の髪がまず焦土になるだろうね」
 それとも草刈りにあうのか、と真顔で言われてどう反応すればいいのかわからない。
「どちらにしろ、うちの陛下には優秀すぎるストッパーがついている。他の皇妃方も殿下方も同じように動くだろうしね」
 自分の子どもよりも若い皇妃はよっぽどのことがない限り認めたくないだろう、と言われて納得をする。あのマリアンヌですら、最初は年齢のことを理由に反対されたのだという。もっとも、その裏には『オデュッセウスやシュナイゼルの側妃に』と言う思惑があったのではないかとスザクは推測している。
「でも、中華連邦はどうだろうね」
 あそこの宦官はほとんどがイエスマンだ、とノネットは言い切る。
「天子が言えば烏でも白くなると」
「そう言う事だね」
 今まで『ほしい』と思えばそう告げるだけで目の前に差し出されてきたのだろう。それが誰かの妻や恋人であったとしてもだ。
 自国の人間であればそれでも我慢していたのかもしれない。
 しかし、神楽耶は違う。
 天子に劣る──もっとも、その血脈もどこまで正しく続いているのかは定かではない──が他国の千年以上続いてきた名家の跡取りだ。それなりの権力や人脈を持っている。そんな人間に無理強いを出来るとすればその親ぐらいだろう。
 しかし、彼女の両親は既に鬼籍に入っている。そして、一番近い血縁と言えば従兄弟である自分か、大叔父の桐原と言うことになる。
 だが、桐原を取り込むことは難しいのは自明の理だ。
 消去法として自分を引っ張り出すことにしたのではないか。そこまで考えたところである嫌な考えが浮かんでくる。
「……その宦官って変態じゃないよな?」
 幼女趣味ではなくショタコンと言われているたぐいの人間ではなよな、とつぶやいてしまう。
「その可能性は否定できませんわね」
 神楽耶がそこでとんでもない爆弾を投下してくれる。
「と、言うと?」
 もっとも、彼女がこのような状況の時に何の根拠もなくそんなことを言い出すとは思えない。平時であれば自分に対する嫌がらせという可能性もあるが。
「交渉に来た方に監視もかねて案内をつけたのですが……あの方が選んだのは朝比奈さんでしたの」
 メンバーの中で一番若くて顔だけは最高ランクの、と意味ありげに付け加える。
「別の意味で安全パイじゃん」
 そう言う事なら取り込まれることはないだろう。スザクはそう言い返す。
 朝比奈と言えば藤堂loveで軍まで追いかけた人間だ。他の誰かなど目に入らないはず。取り込むことも不可能だと言っていい。
 それに実力があるからそう簡単に手込めにも出来ないはずだ。可能性があるとすれば薬を使うことだろうが、それは本人も警戒しているだろうし。
「……意気投合していたら、藤堂さんが不幸だけど」
 余計な知識を手に入れた朝比奈が彼に何をしでかすかがわからない。その矛先が誰に向かうのか。言わなくてもわかるというものだ。
「あぁ。それで藤堂が妙にやる気を見せていたのですね」
 これも二次被害というのだろうか、とスザクは悩む。
「八つ当たりだね。ブリタニアだとヴァルトシュタイン卿がマンフレディやブラッドリー相手に良くやっているよ」
 さすがに他の面々では気が引けるらしい。そう言われてスザクは苦笑を浮かべる。
「女性相手では暴れられないと?」
「と言うよりも、女性の方が怖いらしいね。顔なんかに傷をつけるとマリアンヌ様が激怒される」
 いろいろな意味で、とノネットはため息をつく。
「で、最終的に矛先が向けられるのがヴァルトシュタイン卿だ」
 マリアンヌと本気の稽古をしなければならなくなるのは確かに恐怖だろう。それよりは事前に避けた方がいいのは言うまでもない。
「もっとも、本気のマリアンヌ様と互角に戦えるのもヴァルトシュタイン卿だけだからね。頑張ってもらうしかないけど」
 きっと今頃、別のことで頑張っているんだろうな。ノネットはつぶやくように口にした。
「情報集めか、それとも全軍を出撃させようとするマリアンヌさんを止めているか、と言うところですか?」
「多分ね」
 そういえば、と彼女は視線を外に向ける。
「私の専用機を持ってくるように命じたんだけど……どこかで止められているか?」
「あれ、持ってきて良かったんですか?」
 反射的にそう問いかけてしまう。
「どこかで実践テストをしたかったしな。まぁ、ばれてもすぐに開発できるものではないし、かまわないだろう」
 何かを言われてもしらばっくれればいいだけのことだ、と彼女は笑った。そういうところは本当にノネットらしい。
「神楽耶。桐原のじいさんに頼んでくれないか?」
「ノネットさんのお荷物をここに運ぶように、ですね? 付き添いの方も一緒に?」
 本当に察しがいい。
「あぁ。そうしてもらえるとありがたいな」
 にやり、と彼女は笑う。
「いえ。助けていただくのですもの、そのくらいは当然です」
 神楽耶もまたそう言って微笑み返す。こいつはこの頃からこうだっただろうか、とふっとそんな疑問がわき上がってきた。しかし、それを突っ込むわけにはいかない。
「ともかく、いざとなれば俺が神楽耶を抱えて逃げ込むことを開発の人に一言断っておいてください」
 多分、開発の人間はブリタニア軍御用達の丈夫なトレーラーで来るはずだ。だから、いざとなれば立てこもることも可能だろう。そう判断してこういう。
「もちろんだよ」
 ノネットが即答してくれる。
「一番安全だろうし、いざとなれば君が本国に連絡してくれていい」
 直通コードを持っているだろう? と問われて首を縦に振って見せた。マリアンヌが心配して、シュナイゼルが用意してくれたそれを使うことになると予想もしていなかったが、と心の中でつぶやく。
「ルルーシュにメールしておこうかな」
 心配しているだろうから『とりあえず無事だ』と伝えておこう、と口にする。
「無事に届くかどうか、わからないけど」
 下手をしたら一般の回線は遮断されている可能性があるから、と言う。
「それを確かめるためにも送ってほしいかな?」
「はい」
 ノネットの言葉に素直に首を縦に振る。
「結果はお伝えした方が?」
「そうしてくれると嬉しいね。内容まではいいけど」
 他人のラブレターをのぞき見るつもりはないよ、と言う一言はからかうために付け加えられたのだろうか。
「ラブレター? ナナリー相手ならともかく、俺もルルーシュも男ですよ?」
 そして、ナナリーに下手にメールを出したら皇帝陛下の怒りを買うのではないか。
 そんな予感がしてならないのだ。もちろん、そうなったとしてもマリアンヌがその後の行動に出るのを止めてくれるだろうと予想している。  はっきり言って、自分には彼女にたいして恋情を抱くことはない。理由はわからないが、マリアンヌもそれを感じ取っているらしい。
「じゃ、まずはメールですね」
「わたくしはおじいさまに連絡を取りますわ」
 言葉とともに二人は動き始める。それをノネットは満足そうに見つめていた。




17.03.27 up
PREV |NEXT | INDEX