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巡り巡りて巡るとき

34



 この時点ではさすがにランスロットはもちろん、グロースターも開発されていない。サザーランドは設計が始まったのだろうか。そうは思うが、問いかけるわけにもいかないだろう。
「ガニメデとは形が違うのですね」
 スザクのこのつぶやきに周囲の開発陣の表情が変わる。何故こんな子どもが、と思ったのだろう。
「グラスゴーは汎用に設計されているからな」
 だが、ノネットは気にすることなくこう言い返してきた。
「そうなんですか?」
「あぁ。ガニメデはマリアンヌ様の身体能力があってこその機体だ」
「歩かせるだけなら、ルルーシュ達や俺でも出来るのに」
 いや、自分はそれ以上の動きをさせることも出来る。だが、マリアンヌが操縦したときのあの舞うような動きだけはまねが出来ない。ランスロットであれば可能かもしれないが、ガニメデは第二世代の機体のせいか、動きを補助する機能がまだまだ未熟なのだ。そう考えれば、どれだけランスロットの機能に自分は助けられていたのかと思う。
「ルルーシュ様、ですか?」
 隣にいた研究員の一人が驚いたようにつぶやいている。
「この子達は《皇》と《枢木》だ。研究員とはいえブリタニアの軍人なら、それだけで意味がわかるだろう?」
 ノネットの言葉に彼は一瞬目を見開く。だが、すぐに取り澄ました表情に戻った。
「わかりました。この二人の安全の確保を最優先にさせていただきます」
 そしてこう口にする。
「その前に、私が出撃するようなことにならなければいいだけだが」
 ため息とともにノネットが告げたときだ。
「なんだ、あれは!」
 モニターで戦況を確認していた別の研究員が叫び声を上げる。
「ナイトメアフレーム、ではないな。四つ足の機動戦車か?」
「だが、あれならば崖も登れそうだぞ」
「普通の戦車では追撃も出来まい」
 速度が違いすぎる、と誰かが言う。
「照準がつけられないか」
 確かにあの速度は従来の兵器には鬼門だろう。ノネットがそうつぶやく。
「本国にこの映像は?」
「既に送信済みです」
 彼女の問いかけに即座に言葉が返される。
「後はあちらがどう判断するかだね」
 介入が許可されるか、それともまだ傍観するだけなのか。ノネットはそうつぶやく。
「お従兄様……」
「藤堂さん達なら大丈夫だろうな。きっと、何か策を見つけてくれると思うけど」
 他の軍人達がどうだろうか。
 はっきり言って、軍人の多くが先例に従うしか出来ないような気がする。もっとも、古代から考えればその先例は万を超えるほどあるのだが。それを臨機応変に組み立てられるかと言えば難しいのではないか。
 そもそも、どれだけの人間がそれらを大まかにでも把握していると言えるのかわからない。自分が知る限り、そんなことをしていたのは《あの》ルルーシュだけだ。
 逆に言えば、今、自分の友人であるルルーシュも可能だろう。しかし、彼にはそうしなければならない理由がないのだ。
 そう考えた瞬間、何故か《彼》に無性に会いたくなる。
 自分を裏切り、そして、最後にはおいていったにくい存在。
 今でも彼に対して感じた憎しみも怒りも覚えている。いや、失われることはないだろう。
 それなのに、どうして『会いたい』だなんて思うのだろうか。
 多分それは、自分が今こうしている原因が彼だからだろう。とりあえずそう考えることにしておく。
「……あれって、足が一本壊れたら倒れますよね?」
 三本足だし、とスザクは首をかしげながら口にする。
「倒れるな」
「バランスがとれませんから。せめて四本。あの形なら六本が確実だと網のですが」
 さすがは研究者と言うべきか。即座にあの機体の不備を見つけたようだ。
「バランスが悪いなら、壊さなくても何かに足を引っかければ転ぶ?」
 どこかのレジスタンスがそんな戦法をとっていたような、と記憶の中から引きずり出しながらスザクは問いかけた。
「十分可能性があるでしょうね」
「……藤堂さんに教えられればいいのに」
 今の状況では連絡を取るのは不可能だろう。
「いっそ、適当なところにロープでも張ってこようかな」
 そんなことすらつぶやいてしまう。
「危ないですわ。皆さまにご迷惑がかかるからおやめください」
「わかってるって。言ってみただけだろう」
 やろうと思えば出来るのかもしれないが、と心の中だけで付け加える。
「藤堂さんならすぐに気付くと思うし」
 とりあえず、と続けた。
「そうですわね」
 これに関しては神楽耶も異論はないらしい。
「それにしても……戦争とはむなしいものですのね。これだけの被害を出して何を得るというのでしょうか」
 恨みだけは確実に買うだろうが、と彼女は続ける。
「これは耳に痛いセリフだな」
 ノネットが苦笑とともにそう言う。
「まぁ、それが真実だし、そう考える人間も必要なんだけど」
「ノネット様も、それはわかっておいででしょう? ですから、無駄な被害を出さないようにとされておられるはず。ですが、彼等は違いますわ」
 すべてを壊し、その後に中華連邦の利益だけを考える人間を連れてくるつもりなのではないか。神楽耶はそう言う。
「だろうね」
 民間人はただの労働力としか考えていないのではないか。スザクもそう言ってうなずく。
 もっとも、日本軍の軍人の中にもそんな風に考えている人間がいるのではないか。
「だからこそ、藤堂さん達には頑張ってもらいたいんだけど」
 偉くなればそれだけ影響力が強くなるはずだから。スザクの主張に神楽耶もうなずく。
「……そうだね。ヒントだけなら出せるかもしれないよ」
「ノネットさん?」
 出撃許可は出ていないはずだが、と思いながら彼女の顔を見上げる。
「レーザーマーカーを足の関節部分に当てていれば、勘のいい人間なら察してくれるんじゃないかな?」
 戦闘行為に出るわけではないから、そのくらいは妥協してもらえるだろう。彼女はそう言って笑う。
「してもいいんですの?」
「うちの連中の訓練にもなるだろうさ」
 もちろん、それが口実だとわかっている。それでもそのあたりがボーダーラインだろう。
「お願いします」
「任せておきな」
 スザクは頭を下げればノネットは漢らしく笑った。そのまま側にいた兵士に指示を出す。
 それに即座に外に出て行く兵士に『うまくいけばいいけど』とスザクは祈るようにつぶやいていた。




17.04.03 up
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