巡り巡りて巡るとき
35
藤堂はスザクたちの意図に気付いてくれたらしい。さらに確実性を高めるために中華連邦の機体を逃げ場のない場所に誘い込んで一機ずつ撃退していく。
しかし、他の隊はそこまで考えつかないのか。成果が芳しくないようだ。
「……このままじゃじり貧だよ」
どうすればいいのか。
もし、自分が後十歳年上だったら出撃できるのに。心の中でそうつぶやく。
いや。今でも十分に出撃すれば戦果を上げることが出来るのかもしれない。しかし、日本ではそれは許されないことだ。
少しだけ残念、と心の中でつぶやく。
「エニアグラム卿!」
その時である。ブリタニアと連絡を取っていた一人が振り向くとノネットに呼びかける。
「許可が出ました」
「やっとか」
その言葉にノネットがどう猛さを含んだ笑みを口元に刻む。
「さて。君たちのお気に入りを守りに行ってくるよ」
言葉とともに羽織っていた上着をスザクに手渡した。
「それまで預かっていてくれるか?」
「はい」
うなずきながら返事をすれば、彼女は両手で二人の頭をなでてくる。そして、そのままグラスゴーが置かれているデッキへと向かった。
「かっこいいです」
その後ろ姿を見送りながら神楽耶がそうつぶやく。
「千葉も一応はそれなりなのですが……彼女の場合、どうしても残念臭が消えませんの」
「ある意味、朝比奈さんと同類だから?」
それでも女性であるだけマシなのか、とスザクは首をかしげた。
「かもしれませんわね」
婚姻を結べるという点では、と神楽耶も口にする。
「いや。むしろストーカー度が千葉さんのほうが低いからかもしれないよ」
ふっと思いついてスザクはそう言った。
「ものすごく納得しましたわ」
神楽耶も納得したときだ。ノネットが出撃していく。
いや、彼女だけではない。
どこから集まってきたのか。
数十にも及ぶグラスゴーが一斉に中華連邦の機体に攻撃を加え始めた。
「あぁぁぁぁっ!」
「頼むから、一機だけは原形を残してくれぇ」
そんな叫びが聞こえてくるのは圧倒的な戦力差を見せつけられているからだろうか。それとも、鬱憤を晴らすかのように敵をたたきつぶしていくからか。
おそらく後者だろうなとスザクは思う。
「中華連邦を恨んでいる人が多かったもんな、ブリタニアの軍人」
「そうなのですか?」
「聞いた話だけどね。ユーロがEUを押し返そうとすると脇から茶々を入れてくるんだってさ」
おかげで勝ち戦をひっくり返されたことが一度や二度ではないらしい。
しかし、深追いしようとすると今度はさっさと引っ込んで出てこないのだとか。
だが、日本は島国だ。逃げ込める場所はない。そうである以上、ここから無事に帰還するためには勝つしかないのだ。そうでなくても、目的が目的である以上、神楽耶かそれに準ずる人間を拉致しなければ無事に戻れても命の保証がないだろうが。
逆に言えばそれだからこそブリタニア軍にとってはかもねぎと言えるのだろう。
「まぁ、脇から出てきてせっかくの勝ち戦をダメにされるのはいやですわよね」
「だよな。だから気持ちはわかるんだけど……ここまで手の内を明かしてもいいのかなって不安になる」
それでも、とスザクは言葉を重ねる。
「マリアンヌさんとシュナイゼル殿下も許可を出されたなら、このくらいはセーフなんだろう」
いつかはばれるのであれば、圧倒的な戦力差を見せつけるのも作戦のうちなのではないか。
スザクのこの言葉に神楽耶が目を丸くしている。
「どうかしたのか?」
「お従兄様がものすごく政治的なことをおっしゃるから……いつの間にそのようなことを考えられるようになられましたの?」
このセリフにぶん殴ってやろうかと本気で思う。
「俺だって成長するに決まってるだろう」
それをなんとか押し殺しながらスザクはこう言った。
「よほどブリタニアでの教育方針がお従兄様には良かったのですね」
「学校よりもマリアンヌさんとその周囲な」
わかるまでとことん教えてくれる、とスザクは笑う。その中には物理的方法も含まれているが、とそう続けた。
「……まぁ」
「おかげで多少は空気が読めるようになったかな?」
感情を完全にごまかすのは無理だけど、と言い返す。
「そこまでおできになったらお従兄様ではありませんわ」
これは絶対に褒められていない。さて、なんと言い返してやろうか。スザクはそれを考え出す。
既に日本軍とブリタニア軍の勝利を疑う余地はなかったからこそ出来たことではあるが。
半日と立たずに事態は収拾した。
被害も東京都内とスザク達が今いる富士の麓の街が目立つぐらいで、後はほとんどない。もちろん、皆無というわけではないのが悔しい。
「……民間人の死者が出なかったのだけが救いだの」
軍人の死傷者はそれなりの数が出たらしい。だが、彼等はそれも覚悟の上で軍人になったのだから仕方がないだろう。
もちろん、理性ではわかっていても感情では納得できない人が多いはずだ。
「災害住宅は用意させるとして……問題は中華連邦にどれだけ保証させるかだな」
「ブリタニアにもそれなりのことをしないとダメでしょう?」
「もちろんだとも。いくら向こうが好意として軍を派遣してくれたとしても、やはり対価は払うべきだからの」
それも中華連邦から取り立てるが、と桐原は言い切った。
「じいさんが本気を出せばすぐだろう?」
スザクの言葉に彼は小さく笑う。
「それよりもさ。どうしてあちらの軍の接近に気付かなかったわけ?」
日本軍の防衛システムはそこまでざるだっただろうか、とスザクは首をかしげる。
「内通者でも?」
「……澤崎がの」
ため息とともに桐原が教えてくれた。
「やっぱり」
だが、俺は思いきり納得する。今までの繰り返しの中であの男が日本ではなく中華連邦を優先しようとする姿を何度も見てみたのだ。
「神楽耶にちょっかいかけていたのを邪魔された逆恨みもあるんだろうな」
そう続けた。
「……困ったものだの」
「それで、捕まったの?」
「いや……残念だが、あれの行方は掴めん」
おそらく中華連邦に逃げ込んでいるのだろう、と桐原は言う。
「……そっか」
ならば、なんとしても見つけないとやばい。あの男は何をしてくれるかわからないから、とスザクは思う。
「澤崎も引き渡してもらえば?」
そして、裁判所できちんと裁いてもらった方がいいのではないか、と付け加える。
「それも考えておこう」
桐原の言葉に、マリアンヌにも頼んでおこうと思うスザクだった。
17.04.10 up