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巡り巡りて巡るとき

39



 マリアンヌの姿を見かけるたび、なぜか微妙に申し訳ない気持ちになる。
「スザク君」
 できるだけそれは表に出さないようにしていたのだが、しっかりとばれていたらしい。朝の鍛錬が終わると同時にしっかりと捕まってしまった。
「何でしょうか」
 できるだけポーカーフェイスを装いながら彼女の目を見つめる。
「ルルーシュとのこと、どうするの?」
 しかし、こうもストレートに問いかけられるとは予想もしていなかった。
「ど、どうって……」
「受け入れるの、それともふるの? 母親としてはものすごく気になるんだけど」
 言葉ではそれらしいことを口にしている。だが、彼女の表情が恋バナをしているというの女子と同じように輝いているのにスザクは気づいてしまった。
「……それって、ただの興味本位じゃないですか?」
 だから、ため息とともにそう聞き返す。
「まぁ、それもあるわね」
 ここはルルーシュのために否定してほしかったのだが、と思わずにいられない。
「でも、ルルーシュの恋が実ってほしいと思う気持ちも嘘じゃないわ」
 そこが普通の母親とはずれているような気がするのは自分だけか。
「相手が僕ですけど?」
 同性同士では子供ができないのだが、と言外に告げる。
「やっかいな後ろ盾を持っている女性に捕まるよりましよ」
 即座にそう返された。
「……孫が抱けませんよ?」
「だって、まだいらないもの」
 自分は、といわれてそうかもしれないと思ってしまうのは、彼女の実年齢を思い出したからだ。さすがに四十前に『おばあちゃん』にはなりたくないのだろう。
 だが、シャルルはどうなのか。
「それに、いざとなれば男同士ならなんとかなるのよね」
「はぁ?」
 なんとかなるとは何がですか、と思わずつぶやいてしまう。
「中華連邦の豚がそういう研究をしていたのよね。面白いから技術陣を引き抜いて研究を続けさせたの」
 ブリタニアにはもう一人異性よりも同性が好きな後続がいるから。その言葉に真っ先に脳裏に浮かんだのは有能で名高い某宰相だ。
「とりあえず七割の確率で成功するようになったから、大丈夫でしょ」
 笑顔で付け加えられた言葉に、スザクはその場にしゃがみ込む。
「いつから計画していたんですか」
 さらに両手で顔を覆いつつこう問いかけた。
「スザク君を引き取った頃から、かなぁ」
 それって、七年前。本気で絶句した自分は悪くないとスザクは胸を張れる。
「だって、七年前は……」
「ルルーシュはきっと、君のことが大好きになると思っていたし……それでなくても困ったちゃんがいたものね」
「その頃からですか」
「その前からよ。あの子、女性にあれこれされすぎて逆に嫌いになったタイプだから」
 いわれてとりあえず納得をする。
「オデュッセウスはもう少しましね。ある程度までは母親が守ってくれたし……それでも幼女趣味はねぇ……」
 無体を強いらないだけましなのだろうか。ため息とともに言葉を吐き出した。
「ある意味正しいロリコンですね」
 脳裏に浮かんできた言葉を思い浮かべながらスザクは納得する。
「正しいって?」
「あの人達の掟は『YESロリータ NOタッチ』だそうです。日本軍の人が教えてくれたんですけどね」
 だから、無理強いはしないんだとか。もっとも、そう言っているのはいわゆる二次元大好きのメンバーだけど、と心の中だけで付け加える。
「……そういうものなのね」
 ブリタニアではない考え方だったのか。マリアンヌが感心したようにつぶやいている。
「日本人はやっぱり興味深いわ」
 こう付け加えられて、なんと言い返せばいいのかわからない。
「そうそう。桐原公も二人以上子供を作って、そのどちらかが枢木を継いでくれるならかまわないって言っていたわね」
 今思い出した、とマリアンヌはいきなり話題を元に戻してくれる。
「……いつの間に……」
 そして、何勝手に許可を出しているんだ、桐原のじじいは。そう心の中でつぶやく。
「だから、安心してね」
「何をですか!」
 全力でそう叫んでしまったスザクだった。

 やはり、マリアンヌは怖い。
 そう思いながらスザクは着替えるために部屋へと戻る。だが、ドアの前まで来たときに中に人の気配を感じた。
 普段ならば、マリアンヌを疑うところだ。しかし、彼女はノネットとドロテアによってイルバル宮へと連れて行かれたばかりだ。車に押し込まれたところまで確認しているから、可能性は限りなく低い。
 では誰だろうか。
「……この気配はルルーシュじゃないな」
 彼のそれはどんな状態でもわかる。特に、ここにいる彼のものであれば、だ。
 第一、あのルルーシュがこんな時間に自分の部屋にいるはずがない。普段であればナナリーとともに学校に行く準備をしている。まだ校舎が違うために登校時間だけが数少ないコミュニケーションの場なのだ。彼がそれを放棄するはずがない。
 では誰なのだろう。
 ここで一番最初の疑問に立ち戻る。だが、スザクはそれをあっさりと投げ捨てた。
「いざとなれば誰かを呼べばいいか」
 それよりも早く支度をしないと学校に遅刻する。その方が問題だ。
 即座にそう判断をすると勢いよくドアを開ける。
「ずいぶんと遅かったな」
 同時に奥から声が飛んできた。
「なぜ、お前がここにいる?」
 C.C.と、数年ぶりに顔を見せた相手に問いかける。
「告白された男の顔を見にな」
 笑い流そういうと、彼女はスザクの非常食を遠慮なく口の中に放り込んだ。
「……お前には関係ないだろう?」
「大ありだ。ルルーシュの幸せがかかっているからな」
 まさかそう切り替えされるとは思ってもみなかった。だが、それにはスザク自身の気持ちをきちんと整理しなければいけない。
「……今すぐ結論を出せる問題じゃないだろうが」
 それを言っても相手が理解するとは限らないということも知っている。それでも、とこう言い返す。
「あまり時間はないと思うがな」
「時間?」
「もうじき、世界が大きく動くぞ」
 今までだって、その時期に大きな転機があっただろう。その言葉に、スザクは過去の記憶を探る。確かにそうだったかもしれない。しかし、それに同意することはなかった。
「そうなの?」
 意味がわからないと口では言っておく。もっとも、そんなこと、目の前の魔女にはどうでもいいことらしい。
「まだバカが捕まっていない」
 それが誰のことを指しているのか、確認しなくてもわかる。そう言うとは彼女はあの男の居場所を知っていると言うことなのか。それとも、単に前例にならっているだけなのか、判断に悩む。
「まぁ、思春期のお子様には目の前のことが一番の大問題なのだろうが」
 外堀は埋まったようだしな、と彼女はせせら笑う。
「まぁ、せいぜい悩め」
 そう言ってC.C.は立ち上がる。元々自由な気質の魔女だとは知っていても忌々しい。
「あぁ、そうだ。早く準備をしないと遅刻するぞ」
 最後に投げつけられたこのセリフに、スザクは慌てて行動を開始するしかなかった。




17.06.20up
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