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巡り巡りて巡るとき

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 ルルーシュの告白よりもC.C.の言葉の方が気になって仕方がない。
「澤崎はまだ捕まってないっていうし……」
 EUの動きも気にかかる。
 確認したいが、下手に口を出してもまずいだろう。だからといって、自力で調べに行く口実もないし、とスザクはため息をつく。
「澤崎については藤堂さんにでも聞けばいいだろうけど」
 問題はEUの方だ。
「マリアンヌさんに聞くにしても口実は必要だよな」
 それ以前に彼女の顔を見られるか。
 絶対にルルーシュのことで弄られる。
 自分はかまわないが、ルルーシュがそれを聞いては立ち直れなくなるのではないか。
 昔もそうだったが、ルルーシュは本当に母親が大好きだ。父親が普段そばにいないだけではなく無条件で守ってくれる絶対的な存在ではないとわかっているからだろう。
 それでも、あの頃のような壮大な親子げんかまで発展していないだけましなのかもしれない。何度目かの繰り返しの時に起きたそれを思い出しながらスザクは少し遠い目をした。
 あれは収拾をつけるのが大変だったんだよな。心の中だけでそうぼやく。
 そのときだ。不意に携帯端末がメールの着信を伝えてくる。
「誰からだ?」
 こちらのアドレスを知っている人間はそう多くはない。だが、そのほとんどが先ほどまで顔を合わせていたのだ。そのときには何もなかったはず。
 それとも、分かれた後で何か用事を思い出したのか。
 どちらにしろ確認しておいた方がいいだろう。そう判断をしてそれを取り上げる。
「……神楽耶?」
 予想もしていなかった相手に、スザクは目をすがめた。そのまま内容を確認するためにメールを開く。
「なるほど。そう来たか」
 内容にざっと目を通してそうつぶやいた。ある意味、それに関しては考えられたことだ。問題なのは、それを断りにくい状況に相手が持って行こうとしていることだろう。
「神楽耶の婿は日本人で、と言っていたんだがな」
 適当な相手と言うことで藤堂の名前を出していたはず。だが、それが偽装だと気づかれたのだろう。
「……でも、ちょうどいいタイミングだったな」
 これを口実にあちらの事情を伝えてもらえるだろう。そう判断をしてスザクは立ち上がる。
「マリアンヌさん、帰ってるかなぁ」
 何よりも口実があればマリアンヌに会うのも怖くない。それに、内容がないようだから、彼女も自分たちをからかうのを少しは控えてくれるのではないか。甘い考えかもしれないけど、と思いつつ彼は部屋を出た。

「マルカル家の三男坊?」
 スザクの話を聞き終わったマリアンヌが眉根を寄せる。
「えぇ。あちらから『神楽耶の婿に』と打診されたそうです」
 ちょっとやっかいな筋からの話でむげに断れないらしい。スザクはそう続けた。
「……まさか、そういう方向から攻めてくるとはね」
 やはり想定外だったのだろう。マリアンヌも眉根を寄せる。
「これだったら、早々に誰かを打診しておけばよかったわ。皇族でなくても優秀な人間はたくさんいるんだし」
「それは……今、国内で選定中ですから」
 日本人優先で、とスザクは口にする。
「わかってるわよ。スザク君をお婿にもらうんだし」
 さらりととんでもないことを言われた。
「……マリアンヌさん?」
「それに、牽制にはなるでしょう?」
 スザクの疑問はきれいさっぱりと受け流してマリアンヌはほほえむ。
「あぁ。今からでもまだ間に合うわね。確かうちの親戚でいい子がいたわ。シャルルが即位する前にあれこれあって貴族籍を取り上げられた家の子孫だけど」
 それに関しては自分のところも同じだからあれこれいえないけど、と彼女は付け加える。
「とりあえず優秀よ? 家の家系の顔だから、私やルルーシュに似ているし」
 そうなんですか、とどこか人ごとのようにスザクはつぶやく。
「ジュリアスって言うんだけどね」
 彼女が教えてくれた名前にスザクは目を丸くする。それはシャルルのギアスによって植え付けられたルルーシュの別人格の名前ではないか。
 だが、とすぐに思い直す。
 ここではマリアンヌが生きている。そして、日本もエリア11になっていない。
 そのような齟齬が出てきているなら、ジュリアスが別人だったとしてもおかしくはないのではないか。
「ジュリアス・キングスレイ?」
「そうよ。知っているの?」
「以前、学校でちょっと」
 そういえばマリアンヌは納得する。
「あの子も有名だものね」
 苦笑とともにそう告げた。
「ルルーシュと違って体力はあるけど、なぜか運動音痴なのよね。それがなければ一流の騎士になれるのに」
 頭の方はルルーシュと同等だから参謀本部が狙っているらしい。彼女はそう続ける。
「優良物件でしょう?」
「そうですね。後は性格だけですが」
 まず、あの神楽耶の性格を許容できる人間でなければいけない。そして、一族の長としての彼女を尊重しなければいけないのだ。並大抵の男では無理だろう。
 それだからこそ、未だに神楽耶の婚約者は決まらないのだ。
 最悪、桐原のじいさんの従甥の息子を人身御供に出すことになるのではないか。それが六家の人間の共通認識である。
 だから、婚約のこともあれこれごり押しされなければ大丈夫だとは思うのだが、やはり情報は欲しい。
「あちらの方の性格その他がどうなのかは知っておきたいですね」
 ついでに何か断る口実も見つけられたらいいのだが、とスザクは続ける。
「……そうね。そのあたりはシュナイゼルと相談になるけど、不可能ではないわね」
 自分たちも知りたい情報ではある。マリアンヌはそう言ってうなずく。
「他にも気になることがあるし……そちらについては任されましょう」
 こう言ってもらえたならば、後は任せればいい。
「お願いします。俺は万が一の時に神楽耶を避難させる手段を相談してきますので」
 桐原本人ではなく藤堂ならば多分他の連中にばれる可能性は低いだろう。自分が彼に連絡を取るのはいつものことなのだ──まぁ、時々その周辺の人間に相談を持ちかけることもあるが。
「そのときはまた、ここにお招きしようかしら」
「それもいいかもしれません」
 確かにここならば安全だろう。
「神楽耶様だけではなくルルーシュとのことも考えてあげてね」
 そう思ったときに爆弾を投げつけられる。
「……善処します」
 それにこう言い返すしかないスザクだった。




17.06.26up
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