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巡り巡りて巡るとき

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「……どこまでも祟るわね」
 スザクの推測を聞いた瞬間、マリアンヌは盛大にため息をつく。
「大至急確認をさせるわ」
 そう言うと彼女は視線を脇へと流す。同時に一人の女性がこちらに歩み寄ってきた。
「お願いね」
「承りました」
 そう言うと女性はそのまま部屋から出て行く。
「安心していいわ。彼女は優秀だから」
 その背中を見送っていたスザクに向かってマリアンヌはほほえむ。
「でしょうね。隙が見つけられませんでした」
「あら。スザク君に認められるなんて。もう少し難易度を上げてもいいのかしら」
 それは死亡フラグですか、とスザクは心の中でつぶやく。それで恨まれるのはいやだな、とも付け加えた。
「……ひょっとして、何かの訓練ですか?」
「卒業試験、といったところね。あぁ、安心して。ちゃんと軍も動かすから」
 彼女は自分の子飼いなの、とマリアンヌはさらりと続ける。
「それなら大丈夫ですね」
 自分の知りたいことはちゃんとわかるだろう。後は裏付けがどこまでとれるかだ。
「もちろんよ。その後は、私が出るわ」
 きっちりと片をつけましょう、と微妙に笑みの意味を変えてマリアンヌは言う。
「……僕としてもそれなりの意趣返しをしたいのですが」
 これだけこけにされているのだから、とスザクは口にする。
「ちょっと暴れたい気分ですし」
「だぁめ」
 即座にマリアンヌが言い返してきた。
「こういうことは大人に任せなさい。暴れたいならラウンズ貸してあげるから」
 このセリフは何なのか。
「ですが、あいつのせいで余計なストレスを与えられたんですが。顔にマジックで傷とか眼鏡とか書くぐらいは許されると思うんですけど」
 別段殴らせろとまでは言わないから、と主張する。代わりにその顔を写真に撮ってあちらこちらにばらまきたい。
「……そのくらいならいいかしら」
 傷つけるわけではないのなら、とマリアンヌは首をかしげている。
「個人的に、もう二度とあれこれとできないくらい恥ずかしい写真をばらまきたいんですよね。社会的に徹底的に死んでもらおうかと」
 不祥事であれば復活できる可能性があるのが日本だ。だから、本人が恥ずかしがって出てこられないくらい精神的に痛めつければいいのではないか。そう考えたのだ。
「男としては忍びないですけど、切り落としてもいいくらいには怒っていますし」
 そうすれば少しはおとなしくなるだろう。しかし、そうすれば傷害罪になるから我慢しているだけだ。
「なるほど。なら、許可してあげられるようにしておくわ」
 殺さないように気をつけてね、と言われてスザクは首を縦に振る。
「日本に引き渡すのでなければよかったんだけどね」
「わかってます」
 あいつは一度日本人の前でちゃんと裁かれなければいけない。そうでなければ、絶対に自分が間違ったと認めないだろう。
 その前になんとかしてあいつの精神を折ってやろう。スザクはそう考えていた。

 それにしても、誰かにお願いしてその結果を待ているだけというのは結構つらい。失敗するにしても、自分で動いた方が楽だな、とスザクは思う。
 何よりも、だ。することがなければどうしても棚上げしていた問題に直面するしかなくなる。
「ルルーシュに幸せになってもらわないと困るんだけど……」
 しかし、そのためには自分が彼と恋仲になる必要があるのだ。
「男同士でそういう関係になるって言うのは否定しないけど、ね」
 だが、自分がその立場になるとは考えたこともない。今までの繰り返しの中でも憎まれたことは多かったがそういう感情を抱かれたことはないのだ。よくて親友だったし。
 今の自分もルルーシュに対して抱いている感情は、いわば身内に対するそれに近い。
 考えてみれば、七年近く家族同様に暮らしてきたのだ。それも当然だろう。
 家族に情愛を感じることができるか。
 全くいないとは言わないが、普通はそんな感情を持つはずがない。だから、それを理由にルルーシュの気持ちを拒絶することはできる。もっとも、そのときには二度と彼に会わない覚悟が必要だ。
 それが彼の幸せにつながるというのであれば今まで通りそれを選択しただろう。
 だが、今回はそうだと言い切れない。
「……難しいな」
 どうすることが正解なのか。どうしてもわからない。
 しかし、彼の気持ちを受け入れないのであれば少しでも早くそう告げた方がいいのではないかとも思う。
「そもそも、男と付き合ったことはないし……」
 今生では女性とも付き合った経験はない。
「考えてみれば、二人きりで出かけたこともないな」
 いつもナナリーかマリアンヌさん達が一緒だ。あるいは一人でふらふらするかだ。
 しかし、ルルーシュにはいつも護衛がついている。ルルーシュを一人で出歩かせると心配だからとシャルルが言ったらしい。ナナリーについては言わずもがなだ。本当に、どれだけ溺愛しているのかと思う。
「ここでも誰かがいつもいるし」
 自室以外では、と付け加える。
「やっぱり、あれこれとする環境じゃないよね」
 自分の気持ちを確認するためにデートするとか、そんなことができる状況じゃない。そう考えれば、今のままずるずると行っても仕方がないような気もする。
「僕としてはそれでもかまわないけど……ルルーシュが困るだろうな」
 恋愛に向かない環境ってあるんだ、とそうつぶやく。
「本当、どうすればいいんだろう」
 自分一人で悩んでも答えが出ないなら、後はいろいろと確かめてみるしかないのだが。他人がいる前であれこれできるはずがない。だからといって、これに関してはマリアンヌに相談もできないだろう。
 いや、ブリタニアで相談できる人間はいない。かといって、神楽耶は論外だ。
「八方ふさがりじゃん」
 本当、どうすればいいのか。
 だんだん考えるのが面倒になってきた。
「いっそ、ルルーシュに『抜け出して遊びに行こう』って言ってみようかな」
 多分、途中で止められるだろうが。そのとき、スザクはマリアンヌの性格を忘れていた。彼女はこういうときに我が子を突き落とすのだと言うことも。もちろん、それはスザクがそばにいるからではあったが。




17.07.20up
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