巡り巡りて巡るとき
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展覧会の後、予定通りスイーツバイキングに行き、それなりに堪能したときには混乱も収まっていた。
「……貢ぎ物も購入したし……帰る?」
「少し買いすぎたような気もするから、その方がいいかもしれないな……残念だが」
ルルーシュがうなずいてくれる。
「荷物が少なければもう少しぶらつけるんだろうな」
「仕方がないよ。怒らせる方が怖い」
誰を、とは言わない。言わなくてもすぐにわかるから必要ないと言うべきか。
「それに、次も協力してもらうためにも事前の根回しは必要だよ」
今回だけじゃないんだし、と言外に告げればルルーシュは虚を突かれたような表情を作った。
「次があるのか?」
どうやら今回だけが特別だと思っていたようだ。
「当然でしょ。デートなんて一回で終わることはないんだし。やっぱりある程度は回数を重ねないとわからないことも多いんじゃないかな?」
そうやってお互いの好みを知っていくのもデートの醍醐味だ。そう言っていたのは誰だったかな。すぐには思い出せないのがつらい。だが、逆に言えば思い出せないと言うことは重要ではなかったと言うことだ。
「それならば、物足りないぐらいの方がいいのか」
ふわりとほほえむルルーシュは無条件でかわいい。それはきっと、最初に出会ったときの彼のような影というかがないからだろう。
あのときの彼は憎んでも惹かれずにいられない存在だった。
だが、今のルルーシュはそれとは違う意味で人目を引く。
「……ルルーシュ。車を拾おうか」
ぶしつけ──というよりはもっと下卑た視線を感じてスザクは提案する。
「スザク?」
どうかしたのか、とルルーシュが視線で問いかけてきた。
「……つけられてる」
ささやくような声でそういえば彼の表情も引き締まる。
「馬鹿か?」
「違うと思うよ。むしろナンパ目的かな?」
あの感じは、とスザクは彼を安心させるように笑う。
「だから、さっさと振り切っちゃうのがいいと思うよ」
けんかするのもばからしい、とそう続けた。
「だが、逃げられるのか?」
不安そうにルルーシュがそう問いかけてくる。
「いざとなれば、僕がルルーシュを抱えて走るよ」
マリアンヌとのランニングの時につけている装備より軽い、とそう付け加えた。ちなみに、これは歩兵の重装備らしいが。これがいやでみんな棋士を目指すらしいとも聞いて納得したのも事実。
「でも、その必要はないかな?」
覚えのある気配が感じられる。それも複数だ。彼らを巻き込めばナンパ目的なら近づいてこられないだろうと思う。
「ジノとノネットさんが近くにいる。どうやら付き合わされたみたいだね」
おそらく話題に出たから自分も食べたくなったノネットにジノが引っ張り出されたのではないか。それが今日だったのには少し作為を感じるが、今はありがたい。
そう思いながら気配がする方へと歩いて行く。
「ジノ!」
あの特徴ある髪型を見つけて声をかけた。
「ちょうどよかった。これからイルバル宮に戻るのか?」
「……いや、これからはノネットさんを送ってから自宅だ」
「残念。差し入れを持って行ってもらいたかったんだけど……ヴァルトシュタイン卿への」
そう言いながら両手に抱えた紙袋を持ち上げてみる。隣にいるルルーシュもアリエス用とリ家用の紙袋を手にしていた。
「ずいぶん買い込んだな」
「あちらこちらに根回し用にね。ラウンズ用のは明日持って行く予定だったんだけど、バルトシュタイン卿には少しでも早いほうがいいかなって思ったんだよね」
二人を見かけて、と笑えば彼らも納得したらしい。
「ついでに後ろにいる馬鹿を牽制かい?」
ノネットが近づいてきた、と思えばこうささやいてくる。
「ルルーシュ目当てのようです。荷物をだめにしていいなら反撃するんですが」
「それは困るねぇ」
体力勝負だから、甘いものはいくらあっても困らないし。そう言ってノネットは笑う。
「なので、申し訳ないとは思ったのですが、声をかけさせてもらったわけです」
ジノ一人ならば悩まなかったが、ノネットが一緒だから。そうも付け加える。
「別にデートというわけではないぞ」
「わかってるけど、女性は優先しないと」
いろいろ怖い、と肩をすくめて見せた。
「ノネットさんは大丈夫だろうけど、これが快調だったら……」
「十倍返しだな」
「そういうこと。
財布にも痛いが、それ以前に精神的にちくちくとやられるのがつらい。それに比べれば実力でたたきのめされる方が百倍もましだ。少なくとも自分はそう言い切れる、とスザクはつぶやく。
「よくわかる。私ですら、うちの母と兄嫁達に土産を買ったくらいだ」
さすがに本宅には帰らないから発送の手続きをしたが、とジノもうなずく。
「……女性はどこでも同じか」
ルルーシュまでもが口を挟んできた。
「そういうことだね。後でナナリー達も連れてきた方がいいかもね。貸し切れるかどうか、確認しておかないと」
さすがにナナリーを普通に連れてくるのはまずいのではないか。そう思いながらスザクは告げる。
「そのくらいはうちの執事にさせればいいか」
皇族の希望ならばかなうのではないか。ルルーシュは言外にそう言う。
「そのときは他の方々もお誘いした方がいいだろうね」
あるいは、アリエスかどこかの庭でやるか、だ。
「そのあたりも相談だな」
「……ついでに、そういうことにしておけば、他の方々へのいいわけにもなると思うよ」
事前にチェックしてみたとでも言えば、とスザクは笑う。
「いっそ、陛下も巻き込んでしまえ」
笑いながらノネットが口を開く。
「そうすれば陛下の株も上がる」
自分たちも相伴に預かれる、と言うのは彼女の本音なのだろう。
「……そのあたりは兄上と相談してからの方がいいな」
「そうだね。大規模にやるならあれこれとした準備が必要だろうし……あぁ、以外とクロヴィス殿下がお詳しそうだ」
ルルーシュの言葉にスザクはそう言ってみる。
「兄さんか。後はギネヴィア姉上だろうな。巻き込むならそのあたりだろうな」
コーネリアはあまり国内のことに詳しくないだろうから。それは彼女の役目嬢仕方がないのだろうが。ルルーシュはそうつぶやく。
それになんと言葉を返すべきか。誰もが悩んでいたときだ。滑るようにリムジンが近づいてくる。
「迎えが来たようです。そのままお送りしますからお乗りください」
どこかほっとしたような表情でそう言ったのは、おそらくあのスイーツの山に辟易していたからだろう。
「すまないな」
だが、馬鹿を無視するにはそれが一番いい。そう判断をしてスザクはまずルルーシュを車の中へと導いた。
「なかなかいい雰囲気になっているじゃないか」
C.C.はそういう止めを細める。
「さて、あちらの思惑通り、うまくいくかな?」
いってくれればいいが、とそうつぶやくと彼女は人混みの中に消えていった。
17.08.15up