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巡り巡りて巡るとき

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 日本に向かったジュリアスから連絡が来た。どうやら無事に神楽耶と顔を合わせることができたらしい。
「やっぱり、マリアンヌさんの血縁というのは強いね」
 それはすなわち、皇と枢木の血を引いていると言うことだ。皇にしてみれば、新しい血を入れるためにもちょうどいいと考えてもおかしくはない。それが表面上のものだとしても、マルカル家に対する牽制にはなるだろう。
 スザクはそう考えると、そちらに関しては神楽耶に任せればいいという結論を出した。
 そうなれば、どうしても気になるのは澤崎のことだ。
「一応、桐原のじいさんにも注意はしておいたけど……」
 問題はそこまで重要に受け止めてくれていないことだろう。
 確かに、今の日本には澤崎の取り巻きはいない。中華連邦でもその多くが動くこともできないだろう。
 だが、EUもそうだとは言い切れない。
 あの男なら舌先三寸で相手を丸め込むぐらい簡単だろう。そこからじわじわと相手の中に食い込んでいく。そして、自分の望むことをさせるのが自分が知っているパターンだ。
 今、どこまで食い込んでいるのか。それがわからない以上、最悪のパターンを考えておくべきではないか。
 逆に桐原は同じデーターでもよい方へと考えているのだろう。
 澤崎に対する警戒の差はそのまま自分と桐原の差は経験の差なんだろうなとスザクは思う。
 今生では確かに桐原の方が年上だ。だが、今までの繰り返しの記憶を持っている自分はそれだけの蓄積がある。その中には何度も煮え湯を飲まされるような経験があったからだ。
 日本がブリタニアや中華連邦に侵略されていた世界なら桐原ももっと慎重になったのかもしれない。
 そう考えれば今の状況も妥協しなければいけないのだろうか。
「それでももう少し危機感を持ってくれないかな」
 神楽耶があれなんだから搦め手で来られたらまずいのではないか、とため息をつく。
「ぼくがこっちにいる以上、どうしてもタイムラグが出るのに」
 そばにいれば多少のことは何とかできるだろうが。そうも続ける。
 しかし、優先順位を考えれば神楽耶よりルルーシュの方が上だ。助言はできるがそこから先は自力で頑張ってもらうしかない。
「澤崎の動きがもっとはっきりとわかっていれば話は違うんだろうけどね」
 相手が巧妙なのか。それとも自分に知らされていないだけなのか。どちらが正しいのかわからないが、澤崎の動きは自分に伝わってこない。それがわからない以上、動きようがない。
「……こういうときに咲世子さんがいてくれれば楽なのに」
 彼女であれば必要な情報を確実に集めてくれるだろう。それのおかげでどれだけ助けられたことか。
「無い物ねだりだけどね」
 苦笑とともにそうつぶやく。
「ルルーシュにとっては今が一番いい環境なのかもしれないけど」
 うまいこといかないね、と苦笑を浮かべる。もっとも、それが普通なのかもしれないが。
「マリアンヌさんが動いているから心配はいらないだろうけどね」
 それでも不安を消せないのはなぜか。
「とりあえず、ルルーシュに頼んでジュリアスに入れ知恵をしてもらおう」
 今自分ができるのはそのくらいだ。そうつぶやくとベッドに潜り込んだ。

「スザク君、ずるい!」
 生徒会室に顔を出した瞬間、なぜかシャーリーに詰め寄られた。
「ルルもルルよ! どうして誘ってくれないの!」
 それで昨日のスイーツバイキングの話だとわかる。だが、どこからばれたのか。そう思いながら室内を見回せば、ミレイが意味ありげに笑っているのが見えた。
「ナナリーが『お兄様とデートしてきてください、お願いします』と言って渡してくれたチケットなのに?」
 それなのに他の誰かを誘えって言うの? とスザクは問いかける。
「ナナリー? デート?」
 このたたみかけにシャーリーの怒りも押しつぶされたのか。目を丸くしながら単語を口にするのが精一杯のようだ。
「そうだよ。まさか、ナナリーの気持ちを無視してもいいなんて言わないよね?」
 もちろん、後でお礼にナナリーを連れて行く予定だけど。スザクはほほえみながらそう言った。
「初見の場所にあの子を連れて行くわけにはいかないからな」
 ルルーシュも混乱しているのか。こんなセリフを口にしている。
「あそこなら大丈夫だよ。スタッフもしっかりと教育されていたし、あのときも足の不自由なご婦人がいたけど、ちゃんとフォローしてくれていた」
「それは気づかなかったな」
「ルルーシュは味のチェックをしていたからね。まぁ二人でのんびりとしていられたからそういうことも見えたわけだけど」
 間違ってもミレイと行っていたらそんな余裕はなかっただろうな。そう続ける。
「何が言いたいのかしら?」
 ミレイがそう言いながらにら見つけてきた。
「俺たちに座って食べる時間はない、と言うことですよ」
 持ってくれば持ってきただけ食べるでしょう、と言い返す。
「他にも欲しいものを取りに行かせるのはいつものことですよね?」
 ルルーシュがそう言いながら彼女を見つめる。ミレイも負けじと視線を合わせていた。
 そのままにらみ合うこと数分。
 先に視線をそらしたのはミレイの方だった。
「でも、そういうことを言うなら、これはいらないと言うことでいいんだよね?」
 それを確認したところでスザクは鞄の中から昨日買ってきておいた焼き菓子の箱を取り出す。
「持って帰ってナナリー達と食べようよ」
 あのマリアンヌですらこれを見た瞬間、歓声を上げたのだ。今日もあると知ればまた同じように喜んでくれるだろう。
「スザク君、それって……」
 真っ先に反応を見せたのは意外なことにニーナだった。どうやら、彼女も女性達の例に漏れず興味があったようだ。
「あそこの焼き菓子アソート。お裾分けって思ったんだけど、あんな風に言われるならあげたくないな」
 少し意地悪かもしれないが、と思いつつもこう言い返す。
「そうだな。そのくらいならナナリーに食べさせる」
 スザクの言葉にルルーシュも同意だ。
「そんなぁ!」
「出会い頭に文句を言う方が悪い」
 自分たちにだって自由があるだろう、とスザクは言い返す。
「第一、昨日行ったのは僕たちだけじゃないからね。ジノも行ってたし」
「手土産も買っていたな、あいつも」
 こうなれば一蓮托生だとばかりにジノも巻き込むことにする。
「……その前に、今から行けば今日の分に間に合うんじゃないか?」
 ぼそっとルルーシュがそうつぶやいたときだ。
「そうね。リヴァルに席を取っておいてもらえばいいわ」
 言葉とともにミレイは視線をシャーリーへと向ける。
「声をかけてくるわね」
 即座に彼女は駆け出そうとした。
「俺たちの分はいいぞ。今日は帰らないといけない用事があるからな」
 間髪入れずにルルーシュがそう言う。
「父上が戻ってくるんだ」
 ミレイもこの一言で文句を口にできなくなる。
「わかった」
 うなずくとシャーリーは今度こそ飛び出していく。
「ニーナ。これは君が預かっていて。明日以降にみんなで食べよう」
 スザクは手にしていた箱をニーナに渡す。
「ミレイさんには渡さないように。明日、これがあいていたらもう二度とお土産は持ってこないから」
 日本に帰ったときのものも含めて、と付け加えればニーナはうなずいてみせる。
「どうして、私だけ名指しなのよ!」
「前科があるからに決まっているだろう」
 ミレイの反論をルルーシュが封じた。それに異論を挟むものは誰もいない。その事実にミレイのほほが大きく膨らんだ。





17.09.02up
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