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巡り巡りて巡るとき

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 まさかの事態にさすがのマリアンヌも一瞬絶句していた。
「全く……どこのお馬鹿さんの仕業かしら」
 それでもすぐに思考を立て直すところはさすがだと言っていい。これがルルーシュだと再起動にもうしばらくかかるからだ。今回、彼がそうならなかったのはすでに一度見ている映像だからだろう。
「ともかく、あの男を確保するのが最優先ね」
 そう言うと彼女は視線を少しだけ動かす。次の瞬間、部屋の中から数名の兵士達が出て行った。おそらく澤崎の居場所を特定するためだろう。
「後は、出入国記録を調べることぐらいかしら。今できそうなのは」
「それはシュナイゼル兄上の方ですでに動いています」
 ルルーシュがそう報告をする。
「さすがね」
 それに満足そうに彼女はうなずいた。
「指示を出さなくても動いてくれるなんて。爪の垢を煎じて飲ませたい人間がたくさんいるわ」
「兄上だからこそできることはありませんか?」
 そんな彼女にルルーシュはそう言い返す。
「わかっているわよ。あの子は本当に優秀だもの。でも、その十分の一でもいいから動いてほしいのよね」
 一から十まで指示を出されないと動けない馬鹿が増えてきたから。そう言うとマリアンヌはため息をつく。
「いっぺん、軍もてこ入れしないとだめよね。シャルルに言っておかないと」
 文官についてはオデュッセウスとシュナイゼル、ギネヴィアあたりに任せるとしても、だ。軍に関しては自分とコーネリアでやらないわけにはいかないだろう。そう続ける。
「マリーベルが早々に士官学校を卒業してくれるといいんだけど、そこまでは待てないしね」
 それは今は置いておいてもいいわね、とマリアンヌは話題を元に戻す。
「しかし、何が狙いなのかしら」
「僕、でしょうか」
 逆恨みでもされているのかな、とスザクはつぶやく。
「それなら私かもしれないわよ。私が日本に行かなければ、あの男の野望は叶えられていたかもしれないもの」
 だが、自分たちはあそこにいた。そして、スザクや神楽耶と親しくなり、その結果、あれこれとあちらの計画をつぶしまくったではないか。
「……ルルーシュとナナリーに護衛を増やしてくださいますか?」
 マリアンヌの言葉が途切れたところでスザクがお願いの言葉を口にする。
「どうして?」
「マリアンヌさんと僕の両方にダメージを与えるのには、それが一番だからです」
 マリアンヌにとってはシャルルもそうだろうし、他にもいるかもしれない。自分だってそうだからだ。
 しかし、二人共通となればルルーシュとナナリーしかいない。時点で神楽耶だろう。しかし、澤崎の計画にはどうしても神楽耶の存在が必要なのではないか。そう考えれば答えは自ずから見えてくる。
「なるほどね」
 確かにそうだわ、とマリアンヌも納得したようにうなずく。
「それに関してはすぐに手配するわ。殺しても死ななそうなのがいいわね」
 確かにそうかもしれない。
 だが『殺しても死ななそう』という言葉で思い浮かんだのはあのピザ魔女だ。
 できれば会いたくはない。
 それでも顔を合わせてしまうのだろう。
「お願いします」
 何よりもルルーシュの安全が最優先だから。自分に言い聞かせるとスザクはそう言い返す。
「本人を無視して話を進めないでください!」
 慌てたようにルルーシュが口を挟んでくる。
「そうは言うけど、あなた、自分で自分を守れないでしょう? ナナリーに至っては言うに及ばずだし」
 二人に何かあれば自分たちだけではなく広範囲に衝撃は走るだろう。その結果できたすきに敵がつけ込んできたらどうするのか。マリアンヌは少し厳しい声音で彼に問いかけた。
「……それは……」
「あなたにはあなたにしかできないことがあるでしょう? だから、警備に関しては専門家に任せておきなさい。いいわね?」
 スザク一人ではトイレにも行けないではないか。そう言われて彼は納得したらしい。
「……そういう理由で納得しないでほしかったです……」
 確かに一人なら安心してトイレにも行けなかったけど、とスザクはため息をつく。しかもそれを言ったのはマリアンヌだ。
「本当のことでしょう?」
 こう言い返されて「そうですね」という言葉以外返しようがない彼だった。

「そういうわけなんだけど、誰かいい人材いない?」
 マリアンヌがそう問いかけてくる。
「だそうだぞ、V.V.」
 C.C.が笑いながら視線を移動する。
「ルルーシュと同じ年齢の子がいいんだよね?」
「学校にも行かせたいもの……その方がいいわね」
「なら、一人しかいないかな? 使えそうなのは」
 盾にするならばいくらでもいるけど、と彼は続けた。
「それはあいつらがいやがるぞ」
 あきれたようにC.C.が言い返す。
「そうね。二人とも優しいから」
 マリアンヌはそう言ってほほえむ。
 確かにルルーシュはそうだろう。
 だが、スザクはどうなのか、と首をひねる。
 今生では直接話をしたわけではない。それどころか顔も合わせていないが、彼のあの優しさは周囲に興味がないからではないか。
 それでもルルーシュ達に向ける感情は本心からのものだと思う。
「……それだけが救いかな」
 あの二人は世界を敵に回してでも自分の役目を全うしたらしい。一度目は自分が消えた後だからC.C.から聞かされたことぐらいしかわからないのだ。
 それでも何度か《スザク》とは同じ時間軸にいたことがある。そこでの彼はこのループを終わらせるためにあがいていた。時には世界を壊すようなことまでしていたのだ。
 それでも終わらないのは、間違いなく何かが足りないからだろう。
「ともかく、呼び寄せるけど……マリアンヌ、君から話を通しておいてほしい人がいるんだ」
「誰かしら」
「ジヴォン家の当主殿だよ。ルルーシュのそばにつけるのは彼女の双子の片割れだから」
 あの子なら気づかれずに潜入できるし、と続ける。
「……ただ、彼女はあの子を殺そうとした過去があるからね。今回も介入されたら困るだろう?」
 そのときにギアスが発動した結果、V.V.の元に引き取られることになったのだ。それはロロも同様である。他にも数名、同じような子供達がいる。ただ、彼らは全員、一度目とは違い嚮団でギアスの被験体にさせていない。だから、途中で命を落とす子供はいなかった。
「オリヴィアも困ったものね。まぁいいわ。あの子はあなたの養子に入ったんだし、彼女も文句は言えないでしょうけど。あの子の存在が作戦に必要だからと言っておくわ」
 オリヴィアも軍人だからそれだけで十分だろう。マリアンヌはそう言う。
「じゃ、お願い」
 V.V.の言葉にマリアンヌがうなずく。
 これが何かの契機になってくれればいいけど。彼は心の中でそうつぶやいていた。




17.09.18up
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