巡り巡りて巡るとき
49
マリアンヌ達が動いているにもかかわらず澤崎の居場所はわからない。
「皇族が関わっているのかな」
そんなことをやらかしそうなもの達はそれなりにいるそうだ。その中の誰かではないかと内偵を進めている最中らしい。
そういうことならば、ブリタニア国内では自分は下手に動かない方がいいだろう。
しかし、日本に関することではそういうわけにはいかない。
最低でも注意喚起は必要だろう。そう考えて桐原へと連絡を入れる。
『澤崎らしき男を見かけた、か』
そう言うと桐原は深いため息をつく。
「一瞬だけだったので絶対とはいえませんが……そういえば、澤崎って家族はいたんでしたっけ?」
スザクの問いかけに桐原は一瞬考え込むような表情を作る。だが、記憶の中に入っていなかったのか、視線を移動した。おそらく近くにいる秘書か誰かに確認させているのだろう。
『嫁とは離婚しておるようだの。成人間近だった息子は連れて行ったようだ』
写真では父親によく似ている、と彼は続けた。
「と言うことは、息子の可能性もあるのか」
面倒くさい、とスザクは思わずつぶやく。それならば入国審査で引っかからなかった可能性もある。母親の名字を名乗っているとか婿養子に行ったという理由で『澤崎』の姓を使っていなければ他人のそら似で済ませられるだろう。
「指紋でもチェックできないだろうし」
元になる指紋が登録されていないから、とそれではじくこともできなかったのではないか。
『こちらとしても、まさかあの子供がそこまでするとは思わなかったからの』
桐原もそう言ってため息をつく。
「そいつに関する資料って、あるの?」
『あまり多くはないが、ないわけではなかろう』
言外に『必要なら集める』と桐原は言う。
「なら、送ってもらえます? そうすれば、こちらで探す手かがりになるから」
『よかろう。すぐに手配をする』
「お願いします。ルルーシュとナナリーを傷つけそうな人間は徹底的に排除したいから」
そういえば桐原は大きくうなずく。これでそれに関しては大丈夫だろう。
だが、日本側の失態は事実だ。それに関してどうするのかは桐原達が考えればいい。
『わかった』
端的に桐原はこう言ってくる。それにスザクが目礼をすると同時に回線が切られた。
「……しかし、息子か……盲点だったな」
今までの繰り返しの中でもいたはずだ。しかし、自分と.道が交わることはなかったのではないか。だからきっと記憶の中に残っていなかったのだろう。
「それがいいのか悪いのか。どっちなんだろうな」
ため息とともにそうはき出す。これだけずれているとこの先がどうなっていくのかもわからない。それはいいことなのか、それとも、と続ける。
「未来がわからないって、本当に怖いな」
わからないからこそよくなるように努力するんだろうが。しかし、それが正解なのかどうか、とスザクはつぶやいた。
「息子、ね。盲点だったわ」
スザクの話を聞いたマリアンヌもまたため息をつく。
「とりあえず、七年前の写真やなんかは送ってもらえるそうです」
あるいはその後の写真も入手できるかもしれない。そう続けた。
「十分ね。七年前なら十分参考になるわ」
いざとなればCGで現在の姿を推測した物を作ることも可能だ。そう彼女は言って笑う。
「それよりも、あの子はどう? 仲良くやれている?」
そのまま話題を変えるようにこう問いかけてきた。
「普通ですね。とりあえず、ロロよりはましかな、と言う程度です」
「ロロはねぇ……ちょっと教育間違えちゃったから」
あそこまであの二人至上主義になるとは思わなかった。状況によっては自分すら無視するのだから、とマリアンヌはため息をつく。
「おかげでナナリーの周囲は安全だといえるけど」
余計な虫が近づく好きすらない。彼女はそう言って笑った。
「でも、ルルーシュにとってはあまりよくないでしょう?」
二人だけで出かけられなくなって、とから飼うように付け加えられる。
「ルルーシュの安全確保の方が優先ですから」
それにスザクは真顔でそう言い返した。
「本当にスザク君はいい子ね」
言葉とともに彼女は小さな子供にするようにスザクの髪をなでる。その動きから逃れられなかったのは、やはり熟練度の違いだろうか。もっと精進すべきかもしれない、とスザクは思う。
「ルルーシュもナナリーも大切な存在ですから」
今のところは家族レベルだろう。それがこれからどう変わるかはルルーシュ次第ではないか。そう言っておく。
「とりあえず家事一般はたたき込んでおくわ」
「……それはちょっと違うのではないかと」
「できないよりできる方がいいでしょう?」
スザクにとっては、と意味ありげに笑う。
「それとも、私の手料理と同レベルでも我慢できるの?」
「そのときは僕が作りますから」
ここまで人生を繰り返していると、自然と料理のレベルも上がるよね。そういえば、基礎を教えてくれたのは最初のルルーシュだった、と意味のないことまで思い出してしまう。
「そう切り返してくるとは思わなかったわ」
本当にスザクは予想外で楽しい、とマリアンヌは満足そうにうなずく。
「僕はマリアンヌさんのおもちゃじゃないですけど」
「誰もそう言っていないわ。ただ、ここだとみんな、私の言葉を無条件で受け入れるだけなんだもの」
「マリアンヌさんは后妃でなおかつ元ラウンズだからでしょうね」
皇族としても軍人としてもある意味最高峰にいる。そんな人間に逆らいたい人間がどれだけいるだろう。
「ルルーシュ達は平気で文句を言っているじゃないですか」
間違っているときはきちんと指摘するし、とスザクは続ける。
「確かに一番手厳しいのはルルーシュだわ」
納得したというようにマリアンヌはつぶやく。
「でも、やっぱり話していて楽しいのはスザク君よね。私の考えつかないようなところを指摘してくれるし」
どこで身につけたのかしら、と探るような視線を彼女は向けてくる。
「それは、マリアンヌさんの裏をかきたいからでですよ」
そうしないと何をさせられるかわからなかったから、とスザクは言い返す。
「あら。そんなことはなかったわよ……多分」
言葉とともにマリアンヌはさりげなく視線をそらした。と言うことは多少は自覚があったと言うことか。
「ルルーシュがああだし、ナナリーはねぇ……楽しかったんだから、仕方がないわ」
そのまま開き直るように彼女は言葉を綴る。
「……そういうことにしておきましょう」
スザクはそれにため息で返した。
17.10.13up