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巡り巡りて巡るとき

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 そんな彼らの元に、ある意味予想もしていない人物が情報を持ってやってきた。
「藤堂さん?」
「こういうことは手渡しが一番確実だからな」
 それはわかっている。しかし、だ。
「日本の方はいいんですか?」
「まぁ、あいつらが使えるようになったからな。しばらくなら大丈夫だろう」
 そう長い時間は無理だろうが、と藤堂は笑う。それでも一月ぐらいならば大丈夫だろうと続ける。
「それに、これに関してはこちらの不手際が要因だからな」
 声を潜めると藤堂はそうささやいた。
「完全にとは言いませんけどね」
 ブリタニア側も気が緩んでいたせいで後手に回ったことは否定できないだろう。
 あるいは相手を甘く見ていたのかもしれない。
 だからこそ、正式なルートでの抗議というものはしていないのだ。そして、日本側もこうして私的に藤堂を使者として送り込んできたのだろう。彼ならばスザクの師匠でもある。弟子の成長を確かめに来たと言えば十分な理由になるはずだ。
 そのあたりの段取りを考えたのは、当然、桐原に決まっている。相変わらず食えないじいさんだ、とスザクは心の中だけでつぶやく。
「しかし……あの男にそれほどの胆力があったとは」
 信じられん、と藤堂がはき出す。
「お知り合いですか?」
 藤堂の言葉を耳にして、スザクはこう聞き返した。
「以前、何度か手合わせをしたことがある程度だがね」
「と言うことは、それなりに使えると言うことですか?」
 厄介な、と思いながら藤堂を見上げる。
「……ふるえるが使えてはいないな」
「刀に振り回されていると言うことですか?」
 いわゆる寸止めと言った力加減を身につけていられないと言うことか。餅丼、竹刀ならばかまわない。そうだったとしてもきちんと防具を着けていればいいだけのことだ。
 しかし、自分たちの流派では上級者になれば竹刀よりも木刀の方を使う。だから、どうしても寸止めと言った細かなコントロールが必要になる。
 それができないと言うことなのか、と聞き返す。
「いや、もっと悪い」
 深いため息とともに藤堂は首を横に振る。
「簡単に言えば刀を握れば性格が豹変するタイプだ」
 それも弱いものをいたぶると言った最悪の、と彼は吐き捨てるように告げた。
「……それって……」
「だから、技量的にはともかく精神的に上位の技を教えられていない」
 上位の技というとあれやこれやだろうか。
「上位の技というと、僕が教えてもらったあれこれですか?」
「あぁ」
 そういう物なのか。そういうことなら一番最初の自分が教わったのは運がよかったと言うべきか。それとも、今回だけの変更点なのか、と心の中でつぶやいておく。
「つまり、実力的には朝比奈さんに及ばないと」
 それならば、マリアンヌが仕込んでいる連中でも対処がとれるだろうか。スザクはそう言いながら首をひねる。
「間違っていないのだろうが……何だろうな」
 朝比奈はそれなりの実力者なのだが、と藤堂はつぶやく。
「だって、マリアンヌさんが育ててるんですよ? 人外とまでは行かなくても、それなりの実力は身についてます」
 しかも、統率もとれている。あれに勝つのはかなり難しいんじゃないかな、とスザクは真顔で付け加えた。
「……とりあえず、敵対する予定はないが……」
 帰ったら少し締め上げないと、と藤堂はつぶやいている。
「ともかくアリエスに行きましょう。詳しい話はそこで」
 マリアンヌが手ぐすね引いて待っているだろうな、とスザクはつぶやく。そのときの質疑応答がどこまで突っ込んだものになるか。発揮言って考えたくもない。だが、同席しないとだめだろうな、と小さなため息をついた。

 しかし、ここで彼と出会うことになるとは思わなかった。

 小さな子供に気づかなかったのか。それとも気づいていても避けなかったのかはわからない。だが、目の前で小さな子供が吹き飛ばされたことは事実だ。
「危ない!」
 反射的にその体を抱き留める。
 その瞬間、子供がかぶっていた帽子が脱げた。代わりに現れたのは、足下まで届くような長い長髪。
「……マジ?」
 一度しか顔を合わせたことはないが、その存在はいやと言うほど知っている。
 だが、ここにいるとは思ってもいなかった。
「大丈夫?」
 ともかく、助けてしまった以上ここで放り出すわけにはいかない。そう思って声をかける。
「う、うん」
 しかし、ここでは初対面のはずなのにどうしてこんなに驚かれるのだろう。
「僕の顔がどうかした?」
「何でもないよ」
 慌てたように少年──V.V.は首を横に振ってみせる。
「ただ、びっくりしただけで」
「そう? ならいいけど」
 立てる、と言いながら彼の体を持ち上げた。そして、そっと地面に下ろす。
「帽子だよ」
 即座に藤堂が彼に帽子を手渡した。
「ありがとう」
 まだ緊張が見え隠れしているものの、V.V.はこう言って彼の手から帽子を受け取る。
「お前。何をしているんだ?」
 保護者、と言う表情で顔を出したのはC.C.だ。と言うことはこの世界ではこの二人は険悪な関係ではないと言うことか。
 同時に『厄介だ』という認識が浮かんでくる。
「保護者が来たようですね」
 これ以上関わり合いたくない。そう考えてスザクは藤堂へと視線を向けた。
「そうだな。では、我々はここで」
 彼は彼で別の感想を抱いたのではないか。それでもこう言ってうなずく。
「次からは気をつけるんだよ」
 そう言い残して、スザクは藤堂とともにその場を後にした。

「彼は……覚えているんだね」
 だから自分を嫌悪するのだろう。V.V.はそうつぶやく。
「どうだろうな。ともかく名誉回復のチャンスを作ればいい」
 十分あるだろうから。そういうC.C.にV.V.はうなずいて見せた。




17.10.20up
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