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巡り巡りて巡るとき

59



 澤崎の居場所は想像以上に簡単に見つかった。それはEU側に彼の存在を隠そうという気持ちがないからではないか。
「もてあましているのかな」
 可能性はある、とスザクは口の中だけで付け加える。
 あの男は自分は目立たなくてもそれなりに権力は欲するタイプだ。ほどほどならば妥協できても中枢を引っかき回そうとされるのは困る。そう考える人間も少なくないだろう。
 しかし、あの男に自尊心をくすぐられる人間は逆にそばから離したがらない。だから、うかつに処分もできないのだ。
 その結果、こちらに処分させたいと思った陣営があの男の存在をばらしたのだろう。
「だとするなら、ものすごい切れ者がいるね」
 おそらくほとんどのもの達──マリアンヌあたりは気づいているかもしれないが──がこの情報が故意に与えられたものだとは思っていないはずだ。
 そして、EUの方も同じだろう。
 そんなことができる相手と戦うことになるのはちょっと厄介だ。マリアンヌ以外が総崩れして追い込まれる可能性だってある。マリアンヌに関して心配していないのは、彼女の場合、力業でなんとでもできると確信しているからだ。だが、それは彼女がある意味人外だから可能なだけで、普通の人間には不可能に近い。
「でも、誰だろうね」
 自分の記憶の中にそれができそうな人間はいない。かろうじて亡霊と呼ばれていた部隊の指揮官が思い浮かぶが、彼女にそんな権力はなかったはず。
 では、誰か。
 あちら側の人間でなければ、こちら側にいた人間の誰かかもしれない。そういえば、マンフレディの隣にいた男がいないな、と今になって思い出す。 「……あいつがあちらにいるのかな」
 だとするならば、少し厄介かもしれない。
「ギアスを持っていないといいんだけど」
 あいつのギアスはちょっと厄介だったような記憶がある。だから、とため息をつく。
「残念な知らせだ」
 その瞬間、いきなり頭の上から声が降ってくる。相変わらず神出鬼没なのはいいとして、どうしてその気配に気づけなかったのかとスザクは自分にあきれたくなる。
「お前が考えているとおりの人間があちら側にいるぞ」
 ついでに言えば、神楽耶の婚約者候補として顔合わせをしていたのはそいつだ。C.C.がそう言いながら歩み寄ってくる。
「同じ日本人だからと言ってあれにつきまとわれていたが、とうとうぶち切れたようだな」
 合法的に捨てることにしたのだろう。そう彼女は付け加える。
「あちらは何を見返りに望んでいるわけ?」
 神楽耶との結婚であれば阻止したいんだけど、とスザクは言い返す。
「安心しろ。あれの排除が最優先らしい。嚮団の手の者が言っていたから間違いないだろう」
 そいつはV.V.の狂信者だ。何があろうとも裏切らない。そこまで言う人間がいるのか、と別の意味で驚く。
「お前には悪い印象しかないのかもしれないが、あいつは元々情に厚い人間だぞ。マリアンヌを邪魔者扱いしていないから、あの二人にもいい伯父だ」
 シャルルが大切にしているものは多少気に入らなくても大切にしなければいけない。そう考えているらしい。彼女はそう続けた。
「……そうなんだ」
 そうとしか言い様がないんだけど、と思いつつうなずいてみせる。
「実際、ロロはいい子だろう?」
「それは否定しないけどね」
 ルルーシュ達が大好きなのは変わっていないようだし、とそう続ける。
「何よりも、ルルーシュとナナリーが幸せそうだから、いいんだけど……」
 V.V.はなぁ、とつぶやいてしまう。
「そう言ってやるな。あれは単に行きすぎたブラコンなだけだ。ブリタニア皇族にはよく出る症状だな」
「……それがまずい方向に行かなければね」
 ルルーシュとナナリーとかコーネリアとユーフェミア、それにマリーベルとユーリアあたりが典型的な例だ。失敗すれば、世界が崩壊するようなこともためらわずにやらかしてくれる。
 しかし、それがV.V.からの遺伝だと考えればおかしくないのか。
「だからお前がいるんだろう?」
 少なくともルルーシュ達に関しては阻止できるだろう? そして、コーネリア達も様子がおかしくなれば動けるではないか。
 そう言われれば納得をせざるを得ない。
「第一、ルルーシュが今一番関心を抱いているのはお前のことだからな」
 ようやくあいつにも春が来たか、とC.C.が笑う。
「……今はそれどころじゃないと思うけど?」
 あきれたようにスザクはそう言い返す。
「わかっているから、こうして情報を持ってきてやっているだろうが」
 同じ情報をマリアンヌ達にも伝えている。しかし、それがスザクの耳に入るかどうかは別問題だろう。そう考えたのだ、と彼女は付け加える。
「それと……一つ確認しておくが?」
「何?」
「お前、ナイトメアフレームは動かせるな?」
「とりあえずは。サザーランドだけど、ルルーシュと一緒にコーネリアさんに教わったから」
 マリアンヌがいないときに、とさりげなく言葉を続けた。その意味がわかったのだろう。C.C.が笑みを深める。
「なるほど。事後承諾か」
「そうでないと、きっと教えてもらえなかったからね」
 夢の中での操作は覚えているけど、万が一の時にいきなり動かせたら不審を抱かれるに決まっているだろう、と言い返す。
「それは正しい判断だな」
 確かに、下手に猜疑心をあおっては厄介なことになるか、と彼女も納得する。
「だが、動かせるならそれなりに対処ができるな。V.V.に言っておこう」
「何をさせるつもり?」
「内緒だ。あくまでも万が一の時の備えだと言うことにしておけ」
 知らなければ何を聞かれても答えられないだろう、と彼女は続けた。
「それは正論だね」
「そういうことだ」
 さて、と言いながら彼女は体の向きを変える。
「とりあえずV.V.と合流するが、お前はどうする?」
「どうとは?」
 何が言いたいのかわからずにそう聞き返す。
「伝言でもあれば聞いておくぞ」
「なんで? 現実であったこともないのに?」
 本人と話したこともないのに、伝言すること何てあるわけがない。そう言い返せば、C.C.がため息をつく。
「あいつも変なところで尻込みをしているか」
 困った奴だな。そう言って彼女はため息をつく。
「まぁ、いい。これが終わったら引きずってでも会わせてやる。夢のかなの恨み言があるなら言ってもかまわないぞ。マリアンヌは本気でぶん殴ったからな」
 彼女ならやるだろう。しかし、とスザクはある一点に引っかかりを覚えた。
「ひょっとしてマリアンヌさんも別の自分のことを覚えているわけ?」
 夢の中かどうかは知らないが、と口走る。
「さぁな。女の秘密は探るもんじゃない」
 それに対する答えはこれだ。本当に食えない奴だよな、とスザクが悪態をつく間もなく、彼女はそのまま部屋から出て行く。それを止める気力も、今のスザクにはなかった。




18.03.04up
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