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巡り巡りて巡るとき

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「凄いですね。この短期間でここまでの情報を集められるなんて」
 あちらは丸裸じゃないですか、とスザクは口にする。
「うちの諜報も無能ではないと言うことだね」
 うれしさをにじませながらそう言い返してきたのはマンフレディの親友だという聖ラファエル騎士団長だ。
「僕が知っている限りの情報局の人間と遜色ないですね」
 これはお世辞ではない。。
「うれしそうだな、ファルレーゼ」
 マリアンヌとの打ち合わせが終わったのか。マンフレディが戻ってくる。
「うれしそうだな、アンドレア」
「お前の弟弟子に褒められたからな」
 この二人の間に流れる空気は何なのだろうか。どこか覚えがあるんだけど、とスザクは心の中でつぶやく。それも身近なところでだ。
 微妙に気になるが答えは見つからない。
「そうか……マリアンヌ様のご期待に背かぬよう頑張ったと見える」
 いつもこうだといいのだが、と付け加えられた言葉でスザクは我に返った。
「いつもは違うのですか?」
 そしてこう問いかける。
「微妙に必要な情報がかけていることが多いのだよ」
 彼らの手元に来たときには、とそう言われてスザクは首をかしげる。
 おそらくだが、諜報部員達はいつも変わらぬ仕事をしているのだろう。だが、それが十分に生かし切れていないのであれば、組織に問題があると言うことだ。
「これは何の手も入っていないデーターから情報を整理したものですよ? マリアンヌさんからの課題で僕がまとめました」
 その上で『すごい』といったのだ。言葉を重ねながら、これで何かに気づいてくれればいいと思う。
「つまり、精査の段階で何か思惑が入っていると?」
「いままでその可能性は考えたことがなかったな」
 こう言うと、二人は顔を見合わせる。そして小さくうなずき合った。
 おそらく途中の段階に監査が入るな。そこであちらのスパイの存在があぶり出されるのではないか。それはこちらの益になるからかまわないだろう。
「まずは目の前の問題を片付けてからだがな」
 もし内通しているものがいるとしても、その間に油断するのではないか。
「勝負は僕たちがあちらに戻ってからですか?」
 彼らが一番警戒をしているのは間違いなくマリアンヌだろう。だから、彼女がいる間はなりを潜めるに違いない。
 しかし、彼女がブリタニア本国に戻ったら何のためらいもなく動くのではないか。
 何よりも、今回は彼らも澤崎排除に動いているだろうし、とスザクは笑う。
「そういうことだ」
 同じ結論に達したのか。マンフレディも笑いながらうなずく。
「君たちは明日には出陣か。ならば、大公殿下への根回しは私がしておこう」
 ほかの二人にも、とファルレーゼが口にする。
「そうだな。お前が動いてくれるなら安心だ」
 言葉とともにマンフレディがファルレーゼの髮に触れた。それがどう見ても恋人同士の行動にしか見えない。
 ひょっとしなくても、マンフレディがユーロに来たのはそういう理由からなのだろう。
 ということは、自分とルルーシュも端から見れば同じような空気を醸していると言うことなのか。
 ひょっとして、先ほどの既視感はそこから来ているのかもしれない。
「任せておいてくれ」
 そんな二人からさりげなく視線をそらすこと以外できないスザクだった。

 マリアンヌ率いる突入部隊は周囲に悟られぬよう密やかに出陣していった。そして、陽動部隊でもあるマンフレディ率いるミカエル騎士団は普段と変わらず堂々と出撃する。
「これでこちらに目を引きつけられればいいが」
 マンフレディがつぶやく声が耳に届く。
「気づかれたとしても追いかけられないでしょうね」
 マリアンヌ様を、と言葉を返したのはノネットだ。マリアン無の補佐としてシャルルが昨日派遣してきたのだ。本当は同行させたかったらしいのだが、別の戦場にいたために無理だったのだそうだ。
 しかし、出撃に間に合ったのならばそれでいい。
 マリアンヌがそう言って笑ったのを皆が見ている。だから、何も問題はないのだとそう認識しているはずだ。
 不安があるとすれば、ノネットの体調だけか。
 だが、実際に戦闘が開始されるまでまだ間がある。ラウンズなら、その間に自力でなんとかできるはずだ。
「マリアンヌさんですからね」
 少なくとも自分はそうだったと思いながらとスザクは言葉を続ける。
「同行している人たちまではわかりませんが」
 そういえばその場にいたものたちは皆一様に微妙な表情を作った。
「本国から連れてきたメンバーは大丈夫だろうな」
「問題はこちらのメンバーか」
 ノネットの言葉に続けてマンフレディがため息交じりに告げる。
「俺としてはあれらを加えるのは反対だったんだがな」
 ごり押しされたのだ、と彼は続けた。
「しがらみというのは面倒なものだな」
 苦笑を浮かべつつノネットが言い返す。
「そう考えるとブリタニアは楽だな」
「……マリアンヌさんの名前を出すと、だいたいなんとかなりますからね」
 ブリタニアで面倒ごとに巻き込まれそうになったときは、大概それで乗り越えてきた。それが通用しない相手にはリ家のお后様のお名前を使わせてもらったこともある。大概はこのどちらかでなんとかなるのだ。本当に最強の七光りだ。
「全く……功を焦って作戦自体を台無しにしたらどうするのか」
 マンフレディの言葉にスザクは笑う。
「それこそ大丈夫でしょう。あちらも危険は承知で加わっているのでしょうし、マリアンヌさんが適切に使い倒しますって」
 盾だとか銃弾よけだとか、あるいはおとりだろうか。
「あぁ……マリアンヌ様ならおやりになるな」
 ノネットもそう言ってうなずく。
「あいつらにはいい薬だろう」
 自分たちの都合で彼女を振り回そうとするからだ、とマンフレディも同意をする。
「本当に、これで終わってくれればいいんですけどね」
 スザクはしみじみと口にした。
「七年越しの厄介事ですから」
 いや、もっと前からになるのか。ただの小悪党からずいぶんと出世をしたものだと思う。
「ルルーシュ様に泣かれるか?」
 からかうようにノネットが問いかけてくる。
「いや。それは別問題ですから」
 ルルーシュのことと澤崎の存在はそもそも次元が違う。澤崎はうっとうしいから早々に自分の人生から退場してほしい。だが、ルルーシュにいなくなられるのはいやだ。
 本当に、いつの間にこんなに彼の存在にとらわれたのだろうか。
 最初からだろうとささやく声が聞こえたような気がした。




18.03.17up
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