巡り巡りて巡るとき
62
澤崎を確保してマリアンヌ達が戻ってきたのは夜も更けた頃だった。
もちろん、そのときにはもうマンフレディ達も戻ってきていた。
「それに関してはそっちに任せるわ。これは本国に持って帰るけど。目の前に置いておいて処分しないと安心できないものね」
スザク達からの報告を聞き終わった後、マリアンヌはそう言って笑う。
「まぁ、余計なことをしてくれた報復ぐらいはするけどね」
どうしてやろうかしら、と彼女は続ける。
「帰国が遅くなると陛下がすねますよ」
スザクはそんな彼女に向かってそう告げた。
「ルルーシュが病院から太陽宮に直行することにならなければいいんですけど」
さらに言葉を重ねれば、ノネットが小さなため息をつく。
「否定できないのがつらいねぇ」
そしてつぶやくようにこう言った。
「エニアグラム卿……いくら真実でも、ここはイルバル宮ではないのだから」
形だけでも否定しないと、とマンフレディがささやいている。
「シャルルの甘えたぶりにも困ったものね」
だが、マリアンヌのこの一言でそれが事実だと認めることになった。
「ルルーシュに負担をかけるのもねぇ。シュナイゼルを身代わりに差し出すわけにもいかないし、困ったものね」
子煩悩なのはいいけれど、と彼女は全く気にすることなく続ける。これだから、ブリタニア最強と言われるのだろうかと別の意味で感心してしまう。
「仕方がないわ。ルルーシュが退院する前に帰りましょう」
それまでに後始末を終わらせないとね、とマリアンヌはマンフレディ達を見つめる。
「盛大な見送りはいらないわ。そう伝えておいてくれる?」
つまり、夜会だの祝勝会だのは必要ない。さっさと帰らせろ、と言っているわけですね。マリアンヌの言葉の裏を的確に読み取りながらスザクはそうつぶやく。
「こういう割り切り方ができるのがマリアンヌさんだよなぁ」
必要とあればきれいにドレスアップして貴婦人らしく振る舞えるのに、と思う。
もっとも、それが大切な人間が関わっているときであれば、と言う前提条件がつくが。そうでなければ軍人らしい言動だし。そんなところがいいという人が多いから問題ないのだろうけど、とスザクは付け加える。
実際、貴婦人らしく振る舞っているマリアンヌよりも軍人らしい彼女の方が好きだと思える。
「……ただ、ルルーシュの方がおしとやかなんだよなぁ」
ルルーシュは男なのに、とため息が出てしまう。
「それはあきらめるしかないな」
ノネットが脇からそうささやいてくる。
「あの子の性格はマリアンヌ様に対する反面教師と陛下の願望から作られたものだ」
「……陛下って、マリアンヌ様に夢見すぎじゃないですか?」
「そうだな」
ノネットの説明のに対する反応にスザクは反論が来るかと思っていた。しかし、マンフレディにまで同意されては真実なのだとしか思えない。
「こらこら。スザク君に余計なことを吹き込まないの」
にこやかな口調でマリアンヌは言葉を綴る。しかし、その瞳が笑っていないことにスザクは気づいていた。ほかの二人も当然気づいているだろう。
「ルルーシュが乙女思考なのは否定しないけど」
しかし、このセリフは何なのか。
どうやらマリアンヌはいつからかルルーシュを嫁に出す予定で教育していたらしい。その場合、婿は自分なのだろうか。スザクはその事実にどう反応をすればいいのかわからなかった。
なんとか引き留めようとするユーロの上層部を振り切ってマリアンヌはブリタニア本国へと戻る。もちろん、スザクもいっしょにだ。
「良かったんですか?」
あちらの方は、とスザクは問いかける。
「宣言してあるし、一度出るとずるずると引き延ばされるのよね」
面倒くさい、と真顔で付け加えた。
「経験があるとか……」
「シャルルと結婚してすぐの頃にね」
あのときは猫をかぶっていたから、とマリアンヌは少し遠い目をする。どうやらかなり絡まれたらしい。
「次からはそっち方面に特化した人身御供でも連れて行けばいいんじゃないですか?」
クロヴィスあたりなら如才なく立ち回れるのではないか。そう続ける。
「あぁ、それはいいわね。ギネヴィアあたりの実績にしてもいいだろうし」
考えておくわ、と彼女はうなずく。
「そろそろあの子達も国外での実績を積んでもらわないと」
シュナイゼルとコーネリアは別にして、と続けたのは二人の実績はEUでも有名だからだろう。
「そうですね」
「ルルーシュとナナリーは表に出さなくても大丈夫だろうけど」
その方がシャルルが喜ぶから、と言われてスザクは微妙な気持ちになる。だが、ルルーシュはともかくナナリーは体のことがあるから、その方がいいのかもしれない。
「ナナリーはそれなりの相手と結婚することになるでしょうしね」
ルルーシュは婿が来るし、いいんじゃない……とマリアンヌは意味ありげな視線を向けてくる。
「……婿、ですか?」
自分は枢木の当主だが、と言外に言い返す。
「気分よ、気分」
クスクスと笑いながら言われれば反論のしようもない。
「そういえば、オデュッセウス殿下のお相手は決まったんですか?」
それ以下のメンバーでそれなりの相手がいるのはコーネリアぐらいだが、と思いつつ問いかける。
「まだよ。あの子もいろいろと好みが難しいようだしね」
もっとも、とマリアンヌはほほえむ。
「シャルルも孫は抱けそうよ」
「……お相手は貴族ではないと?」
正式に婚姻していないのならば、と思いながらスザクは問いかける。それはそれで厄介なのではないか。
「一応貴族よ。男爵家だけどね」
「そうなんですか」
「よく隠していられたものね。まぁ、そういうことだから私は反対はしないし、頼まれれば守ってあげるわ」
父親は知らない相手ではないし、と言うことは軍人なのだろう。
「いろいろとめでたいと言うことですね」
「厄介事は片付いたしねぇ」
ネズミがうろちょろしているのはうっとうしいもの。そう言って笑うマリアンヌにスザクは笑うことで同意を示した。
18.04.01up