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巡り巡りて巡るとき

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 紫だけでは寂しいから、とセンニチコウのピンクを足してちょっとした花束を咲世子に作ってもらう。
「ありがとうございます」
 さすがと言うべきか。自分が作るよりもきれいにまとまっているそれにスザクは笑みを浮かべる。
「このくらいは当然のことです」
 それに咲世子はかすかな笑みとともに言葉を返してきた。
「私としてはスザクさんが思った以上にロマンチストで驚きました」
 その言葉にスザクは苦笑を浮かべた。
「神楽耶の入れ知恵ですよ」
 そしてこう告げる。
「俺が知っている花言葉はわすれな草とヒヤシンスぐらいでしたから」
 どちらも神話やら伝説を読んで覚えたんだよな、とスザクは心の中でつぶやく。それらの中に何かヒントがあるのではないか。そう考えて世界中のそれを調べたのはいつだったか。それすらもおぼろげだ。
 そもそも役に立ったのかどうかもわからない。
 ただ、とスザクは続ける。話題が増えたことだけは事実だ。
「十分ロマンチストでいらっしゃいますよ」
 目を細めると咲世子は花束を渡してくれる。
「これだけきれいに咲かせるには丁寧にお世話しないといけませんから」
「あははは。残った部分はしっかりと庭師さんに回収されましたけどね」
 マリアンヌだけではない。リ家のお后様も気に入ったとかで離宮の庭で育てたいと言っていたとか。そのために増やしたいから、と言われたのだ。
「でも、ブリタニアの庭園に似合うのかな?」
 そのあたりが庭師の腕の見せ所なのだろうが。
「心配いらないかと」
「なら、僕以上にきれいに咲かせてくれるね」
 咲世子の言葉にそう言ってうなずいたときだ。ドアの外にロロの気配を感じた。
「ルルーシュ様がお戻りになったようです」
 咲世子もそれに気がついたのだろう。スザクにこう告げた。
「みたいだね」
 出迎えに行かないと、と花束を抱え直す。
「無事にお気持ちが伝わるといいですね」
「伝わらなかったときはそのときですよ。時間はまだありますし、厄介事は……もうないといいなぁ」
 とりあえずルルーシュとの関係を進める時間ぐらいは確保したい。
 そう思いながらスザクは部屋を後にした。

 せかすロロに案内されてエントランスへとついたのは、ルルーシュの乗った車が車寄せに滑り込んでくる直前だった。
「お花、きれいですね」
 スザクの気配に気がついたのだろう。視線を向けてきたナナリーがそう言ってほほえむ。
「咲世子さんのおかげだよ。僕だとこんな風にきれいにまとめられない」
 どうせ後で花瓶に入れるんだからひとまとまりになっていればいいだろう。そう考えるのが自分だ。
 だが、女性陣は違うらしい。
 そのあたりが何回繰り返しても理解できないところである。
「お花を育てたのはスザクさんでしょう? お兄様が喜びます」
「ついでに、こことリ家の庭師さんもね。花を切り取った鉢植えは彼らがもってっちゃったから」
 しばらくしたら庭に植えるんじゃないだろうか。そう続ける。
「それは楽しみです」
 どうやらナナリーもスザクは世話をしている間に桔梗が気に入ったらしい。
「まぁ、ルルーシュが喜んでくれてからの話だけど」
 スザクの言葉を待っていたかのように玄関のドアが開く。そして、マリアンヌとともにルルーシュが入ってきた。
「ルルーシュ。退院おめでとう」
 言葉とともにスザクは手にしていた花束を彼に押しつける。
「ありがとう。迎えに来てくれればもっとうれしかったんだが」
 少しはにかんだような笑みを浮かべつつルルーシュはこう言い返してきた。
「私が待っているように言ったのよ」
 即座にマリアンヌが口を挟んでくる。
「あなたにとっていいお仕置きでしょう?」
 そう付け加えた彼女の笑みがどれだけ輝いていたか。はっきり言ってシャルルに対する怒りを押し殺しているときと同レベルだと考えてかまわないだろう。
「母さん……」
 さすがのルルーシュもこれには少し腰が引けている。
「当然でしょう? 誰のせいで余計な仕事が増えたのかしら?」
 自分やシャルルはかまわないが、スザクにまでとばっちりが行ったではないか。そう付け加えられて、ルルーシュは入院生活で薄くなった体をさらに小さくする。
「マリアンヌさん、その辺で。ルルーシュも反省しているようですから」
 それに、いつまでも玄関先で話をすることもないだろう。何よりも、ルルーシュは退院したばかりで体力が落ちている。このままではまた病院に逆戻りではないか。スザクはできるだけ彼女を刺激しないように言葉を綴る。
「そうね。この子はもやしだもの」
 マリアンヌがルルーシュをからかうようにそういう言う。
「僕に比べれば細いですけどね、確かに」
「……母さんが人外なだけでしょう?」
 ため息交じりにルルーシュが反論をした。しかし、マリアンヌ相手にそれは悪手だと思う。
「ルルーシュ……退院そうそう病院に逆戻りする気?」
 スザクはルルーシュのそばに歩み寄ると彼の耳元でそうささやく。
「スザク」
「せっかくゆっくりと話ができそうなのに、それはいやだよ?」
 ね、と言えばルルーシュは困ったような表情を作る。
「そうだな。俺もお前に話したいことがある」
 だから、病院に戻るのはな……と彼は続けた。さらに彼が口を開きかけたときだ。くしゅん、とかわいらしいくしゃみが耳に届く。
「ナナリー?」
 視線を向ければ恥ずかしそうにほほを染めている彼女が確認できた。
「あら。風邪を引かせるわけにはいかないわね。まずは場所を移しましょう」
 マリアンヌが苦笑とともにそう告げる。それに反対をするものは誰もいなかった。




18.04.15up
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