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お隣のランペルージさん

07


 あの後、なんとか二人を落ち着かせて学校に急いだことで遅刻だけは避けることができた。
 しかし、その代わりに思い切り体力を削られたような気がする。ルルーシュはそう思いながら自己紹介の言葉を口にした。
「ブリタニアから来ました。曾祖母が日本人なので、日本語は普通に読み書きできます。よろしくお願いします」
 そう言ってほほえめば、なぜか女子だけではなく男子まで頬を赤らめている。コレも母によく似たこの顔のせいか、とルルーシュは内心ため息をつく。
「席はそうだな……紅月の後ろがあいているか」
 担任は周囲を見回すとそう告げる。
「紅月さんですか?」
「あぁ。まだ顔と名前が一致していないか」
 ルルーシュのつぶやきに担任はすぐに事情を察したようだ。
「紅月! 紅月カレン。手を上げろ」
 その言葉にひときわ目立つ赤毛の少女が手を上げた。どうやら、彼女が《紅月カレン》らしい。
 しかし、とルルーシュは心の中でつぶやく。どうして自分は彼女ににらみつけられているのだろうか。
 記憶の中を探ってみても、彼女とは初対面なはず。
 だが、ブリタニア嫌いの人間もいると聞いている。彼女もきっとそのたぐいの人間なのだろう。
「あの後ろの席だ」
 ならばそれなりにつきあうだけだ。そう判断をする。
「ありがとうございます」
 ともかく担任にこう告げると指示された席へと向かう。
 日本の学校生活についてはそれなりに勉強してきたつもりだったが、知識と現実ではやはり違うな。そう考えながら机と机の間を進んでいく。
 あと少しで目的の机だ、と思ったときだ。足首に軽い衝撃が走った。
 その結果、思い切りバランスを崩してしまう。
 運動神経がよろしくないルルーシュはそのまま前に倒れ込む。
 一瞬、教室内が静まりかえる。
「大丈夫か?」
 だが、現実を認識したのか。担任が慌てて駆け寄ってきた。
「カレンちゃんが足を引っかけてルルーシュくんを転ばせました」
 そんな彼に別の女子がこう訴えている。
 だが、その言葉にルルーシュは首をかしげた。位置的に彼女ではないと思うのだ。
「紅月!」
「違います、先生。彼女ではありません」
 詰め寄ろうとする担任をルルーシュは止める。
「ランペルージくん?」
「右足で躓いたので、彼女の位置からではそこにピンポイントで足をかけるのは不可能です」
 起き上がりながらそう口にした。
「気のせいだろう」
 間髪入れずにすぐそばにいた男子が口を挟んでくる。
「右の足首に跡がついているのに?」
 これをつけるとなると、彼女の足は取り外しができなければいけないが。冷静にそう問いかける。
「北!」
 担任が今度は何かを確認するようにその名前を呼んだ。
「そいつがどんくさいだけじゃん」
 ごまかしきれないと思ったのか。北と呼ばれた少年はそう言い返している。
「転校生をいじめて楽しいか?」
 担任はそう問いかけた。
「それだけではないな。女性をいじめて楽しいか? 男としてどうなんだ?」
 彼はさらに言葉を重ねる。
「他の皆もそうだぞ。多人数で一人をいじめるのは最低の行為だ。そういう人間は『卑怯者』と言われてもしかたがない」
 それとも君は『卑怯者』なのか? と担任に言われて北は頬を膨らませていた。その隣で少女が気まずそうな表情を浮かべている。
「ともかく、ランペルージはけがはないな?」
 立ち上がろうとするルルーシュに担任が問いかけてきた。
「あざができた程度ですが……」
「そうか。痛みが出てきたらすぐに教えるんだぞ」
 そう言うと彼はルルーシュが座るまで見守っていてくれる。どうやら彼はクラスの子供は国籍は関係なく平等に扱うつもりらしい。そういう人間だから自分の担任に選ばれたのだろう。
 しかし、クラスの子供はそうではないようだ。
 これは面倒なことになるかもしれない。だが、それでもブリタニアで母を嫌いな人々にあれこれされてきたことよりはマシだろう。
 我慢できなくなったときには桐原に相談すればいいだろうし、と心の中でつぶやく。
 問題は目の前の少女だ。
 なぜ、彼女は他のクラスメート達から排除されているのか。それが気にかかる。
 その理由にブリタニアが関わっているのであればなおさらだ。
 自分が考えることではないかもしれないが、日本では『袖すり合うも多生の縁』と言うと言うし、と続ける。
 もっとも、自分にその余力があればの話だが。
 室内が壊滅的になっていなければいいけど、とさらに言葉を重ねる。一応、最低限の家電の使い方は教えたし、メモも残しては来た。
 だが、オデュッセウスはあれで好奇心旺盛だと言うことがここ数日でわかってしまった。あれこれと予想外の操作をしてくれるのではないか。
 最悪、家が燃えていなければいい。
 そこまで考えてしまうのはマリアンヌのあれこれが記憶に色濃くこびりついているからだ。
 そのためにも、下校までけがをしないですめばいいな。そうも心の中で付け加えていた。

 ただ、このときのルルーシュはナナリーとスザクという二大台風が校内にいることをきれいに忘れ去っていた。



18.08.31 up
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