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お隣のランペルージさん

10


 咲世子が来てくれたおかげで、ルルーシュにも自由にできる時間が増えた。
 それはナナリーも同じこと。その結果、桐原と相談をして暴れたりない彼女をスザクと同じ道場へと放り込むことになった。その間、ルルーシュは桐原やスザクの叔母から日本の文化について学ぶことにする。
 そこにはカレンもいたからか。ナナリーはスザクとけんかしつつも楽しげに通っていた。
 そんなある日のことだった。
「ルルーシュくん、でいいのかな?」
 ナナリーを迎えに行く途中でそう声をかけてきた人間がいる。一瞬だけ視線を向けたが、その容姿に見覚えはない。ただ、おそらくブリタニア人だろうと言うことだけはわかった。
 しかし、見知らぬ相手なら無視してもかまわないだろう。
 そう判断をしてルルーシュは彼から離れる。
「君は声をかけた人間を無視するのかね?」
 だが、相手はあきらめない。ルルーシュの腕をつかむと怒鳴りつけてくる。
 そんな彼の行動にルルーシュは学校から渡されていた防犯ブザーをためらいなく使った。
「なっ!」
 周囲に鳴り響くブザー音に相手が驚いたのか。ルルーシュの腕をつかむ手から力が抜けた。
 それだけではない。ブザーの音を聞きつけた人間がこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたのかな?」
 こう言ってきたのは藤堂の道場でスザク達の稽古の相手をしている朝比奈だった。
「知らないおじさんがいきなり……学校で『知らない人には声をかけられても近寄らないように』と言われているから、そうしただけなのに」
 自分がいけなかったのか。朝比奈にそう問いかける。
「不審者が出ているらしいから、ルルーシュくんの判断は間違ってないよね」
 むしろ、当然だ。朝比奈はそう言ってうなずく。
「不審者とは私のことかね?」
 男が不満げにそう問いかけてきた。
「他に誰がいると?」
「僕、あなたがどなたなのか知りませんから」
 それは不審者とは言わないのか、とルルーシュは首をかしげてみせる。
「私はシュタットフェルトの当主だぞ」
 気分を害したとばかりに男はそう言う。
「残念ですが、僕はシュタットフェルトの御当主の顔を存じ上げません。名乗るだけならば、誰でもできますよね?」
 特に、ここは日本だから。確認するにしても時間がかかる。
 だから、語りだと言い切れないではないか。
「だよねぇ。この前もどこかにブリタニアの貴族様が現れたそうだけど……大使館に連絡をしたらただの詐欺師だったってさ」
 やだねぇ、と朝比奈もうなずいてみせる。
「僕の知っている貴族の方は最初にきちんとアポを取り、それから僕が知っている方とともに会いに来てくださってから自己紹介をしてくださいます。それでようやくその方が本物だと認識できます」
 しかし、とルルーシュは続けた。
「あなたはそんな手続きをとってくださいませんでした。ですから、不審者と認定されても仕方がないですよね?」
 そう続ければ、相手も自分の非を認めないわけにはいかないのか。それでも悔しそうに口を開けては閉めている。
「ルルーシュくんはかわいいんだから、気をつけないとね」
 そう言いながら朝比奈はルルーシュの髪の毛をなでてきた。その手を振り払わないのは、彼に何の下心もないとわかっているからだ。
「ナナリーの方がかわいいです。スザクも十分かわいいですし」
 プリンを出してやった時なんて目を輝かせていた、とルルーシュは笑う。
「ナナリーちゃんはともかく、スザクくんのことをそう言えるのは君だけだよ」
 あの悪ガキ、と続ける朝比奈がどのような状況にあったのかはあえて突っ込まない方がいいのではないか。
「でも、プリンはおいしそうだねぇ。今度、道場の炊事場で作ってよ。材料は用意するから」
「藤堂さんの許可がもらえるならいいですよ。でも、稽古の後ならプリンよりももう少しおなかにたまるものの方がいいのでは?」
「……いや、プリンの方がいい。あれならば個別に配れるでしょう?」
 そうでなければ争奪戦になる、と真顔で言い返された。
「……あぁ、延長戦が始まるとまずいですね」
 疲労している方々には勝ち目はない。そして、自分が作ったと言うだけでナナリーとスザクが暴走するに決まっている。
「そう。だから、一人一人に手渡しできる形のものの方が安全かな、と」
「納得しました」
 二人だけでも大変なのに、とルルーシュは苦笑を浮かべながらうなずく。
 実際、家で食べるときは大騒ぎなのだ。自分やオデュッセウスの分をわけても足りないらしく、最後の一個を巡る戦いが熾烈を極めている。
 最終的に咲世子に雷を落とされるのが最近の流れだ。
「……貴様達、人を無視するのもいい加減にしろ!」
 さすがに我慢できなくなったのか。シュタットフェルトがそう言ったときだ。
「貴殿こそ、そんな態度を改めた方が良いのでは? 貴殿のような人間がいるから『ブリタニア人は野蛮だ』と言われるのだよ」
 第四の声が周囲に響く。視線を向ければ顔見知りの相手がそこにはいた。
「ダールトン将軍?」
「久しぶりですな。姫様の命でこちらに来たのですが、ついでに君たちの様子を確認してきてほしいと母君に頼まれたのだよ」
 後でお邪魔する、と彼は言う。
「兄上は家にいらっしゃいますよ?」
「そうか。だが、その前にこの男に説教をせねばなりませんから」
 ダールトンガそう言いながら実にいい笑顔を浮かべる。
 これは相当絞られるのだろうな、とルルーシュは判断した。しかし、シュタットフェルトにはいい薬かもしれない。
「お願いします」
「任された」
 そう言うと彼はそのままシュタットフェルトを引きずるようにして歩いて行く。
「大丈夫なの?」
 その後ろ姿を見送りながら朝比奈が問いかけてきた。
「ダールトン将軍はコーネリア殿下の守り役ですから。それこそ高位貴族でなければ文句も言えません」
 自分が知らないと言うことはシュタットフェルトは貴族ではないのだろう。ならば、ダールトンをどうこうできるとは思えない。
「なるほど。皇族に近しい軍人と言うことか」
「コーネリア殿下の右腕いらっしゃいます」
 父や母の信頼も厚いし、と心の中でつぶやく。これでもう少し若ければラウンズに選ばれたのではないだろうか。
「なら、大丈夫か」
「えぇ」
 しかし、あんな人間がここに出没するとは、とルルーシュはため息をつく。対策をとっておくべきなのかもしれない。
 それについてはオデュッセウスも交えて相談した方がいいのではないか。
「それなら、僕たちも道場に行こうか……君が遅れたことで厄介な状況になっているかもしれないし」
「……そうですね」
 しかし、今優先すべきなのはこちらだ。
 道場が壊れてはいないだろうが、カレンが疲れまくっているだろうな、とルルーシュは考える。後で何か差し入れでも使用、と心の中でつぶやいていた。



18.09.30 up
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