お隣のランペルージさん
14
「兄上。ご無事ですか?」
リビングに行って真っ先に確認したのはオデュッセウスの無事である。それは当然のことだろう。
「そんなに慌てなくても……私は無事だよ?」
だが、オデュッセウスにはそうではなかったらしい。苦笑を浮かべながらこう言い返してくる。
「とりあえず彼らは咲世子さんを突破できなかったからね」
だから心配するようなことはなかったよ。何時ものおっとりとした声音で彼は続けた。
「……あぁ……」
そのときの光景が目に浮かぶようだ。そう思いながらルルーシュはうなずく。
「そう言うことだからね。私は無事だよ」
「わかりました。咲世子さんが最強だと言うことは」
オデュッセウスの言葉にルルーシュはこう言い返す。
「確かに。彼女は最強だね」
そう言いながらオデュッセウスはカップを二つ取り上げる。そして、お茶の準備を始めた。
「兄上。自分の分は自分で……」
「最近、人に振る舞っても大丈夫だと咲世子さんからお墨付きをもらったからね。私にさせてくれないか?」
「……そう言うことなら……」
格上の人間にそんなことをさせていいものか、と言う気持ちがある。だが、彼が楽しそうだからかまわないか、とルルーシュは判断した。
ナナリーはと言えば、そう言うことを気にする様子もない。
「オデュッセウスお兄様、ありがとうございます」
こう言うとうれしそうに手をさしのべている。
「はい」
そんな彼女の手にオデュッセウスは今淹れたお茶を差し出す。
「ルルーシュ、君も」
オデュッセウスがこう言ってカップを差し出してくる。それにいろいろと言いたいことはあったが、ルルーシュは黙って受け取るだけにした。
それからしばらくして、咲世子さんが何事もなかったかのように戻ってきた。
「それで、どうなったの?」
放課後、カレンがそう問いかけてくる。
「大使館に送りつけて、とりあえずは終わりかな?」
もっとも、とルルーシュは続けた。
「連中はそうじゃないだろうけど」
きっと、大使館に着いてからあれこれと聞かれたはずだ。それも、嘘を許されない雰囲気で……とルルーシュは笑う。
「……どうしてそこまでしてもらえるの?」
何かを隠していないか、とカレンは目をすがめる。
「うちの母は軍人で、それなりの活躍をしているし……父は父で文官の上の方だからね。そんな良心に恩義を感じている人間とか、あれこれと取り入りたい人間が掃いて捨てるほどいるらしいよ」
自分は実際に知らないけど、とルルーシュは笑う。
「ブリタニアは実力社会だけど、その中には相手に取り入って上の地位を与えてもらう人間もいるってことだな」
当然、ここの大使館にもそういう人間がいる。そう続けた。
「あぁ……そう言うこと」
そこでカレンはあっさりとうなずく。
「あのバカにおもねる人間といっしょね」
彼女の言葉の裏に隠れている感情の激しさにルルーシュは一瞬目を瞠る。だが、すぐに平静さを取り戻した。
「なかなか楽しいことを話してくれている、と教えてくれたが」
雇い主の不利益になることとか、とルルーシュは付け加える。
「どちらにしろ、裁判でこちらの勝ちは決まっている。だから安心しろ」
「どうしてそう言いきれるの?」
ルルーシュの言葉にカレンはこう問いかけてきた。
「証拠がありすぎるのと、弁護士が伯爵家の後継だからだ」
買収などできるはずがない。ルルーシュはそれに言葉を返す。
「下手に買収しようとすれば、逆に怒りを買うだろうな」
自分よりも下の立場の者が上の者を買収しようとするのだから、と彼は続ける。
「それは楽しみね」
あれこれとやろうとして泥沼にはまればいいわ、とカレンは笑った。
「そうだな」
どのみち未来はないが、とルルーシュもうなずく。
「でも、とりあえず安心ね」
後は正式な書類が届けば終わるわ、と彼女は付け加える。
「そうしたら、皆で遊園地にでも行くか?」
うちの兄を保護者にすれば文句は言われないだろう。
「いいわね、それ」
ルルーシュの言葉に即座にうなずいてみせるカレンだった。
18.12.20 up