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お隣のランペルージさん

17


 連休明けの学校はいろいろと騒がしい。だが、それ以外の理由もあるのではないか。
「……運動会が近いからね」
 意味がわからずに首をひねっていれば、カレンがそう教えてくれる。
「運動会?」
 その言葉の響きにいやな予感を覚えながらも聞き返す。
「アンタが苦手なあれよ」
 言われて納得をする。同時に思いきり渋面を作った。
「なんでそんなものを家族に見せなければいけないんだ……」
 そしてこう付け加える。
「得意な連中が悦に入るためよ」
 主にスザクとか、とカレンは言い切った。
「カレン……」
 身もふたもない、とルルーシュはため息をつく。
「ともかく、できることをやればいいのよ」
「……そうだな」
 ナナリーはともかく兄上には無様なところを見せたくないのだが、と彼は続ける。
「第一、貴方ね。顔もよくて勉強もできて家事もできる。その上運動もできたらイヤミになるわよ」
 だから、そのままでいいのだ。カレンにそう言われても納得できない。
「僕だって平均レベルには運動ができるつもりだけど」
 とりあえずそう主張しておく。
「……そうだった?」
 しばらく考えた後でカレンがこう言ってくる。その瞳はルルーシュの言葉を全く信用していない。
「ひどいな、カレン」
「だって、本当のことじゃない」
 嘘は言えないわ、と彼女は真顔で言ってくる。それでももう少しオブラートに包んでくれてもいいのではないか。ルルーシュがそう言い返すと、彼女は笑い声を返してきた。

 体育以外の授業で面白いと思えるのは国語と社会だろうか。
 国語は純粋に日本語を学習するのにちょうどいい。自分でもそこそこ読み書きできるし会話も問題ないとは思っていた。しかし、いろいろと新しい発見があるのだ。これに関しては、後でオデュッセウスに教えておこうと思う。
 社会は日本の地理や歴史を覚えることができるのが純粋に面白い。
 そんなことを考えながらノートをとる。日本語以外は無意識にブリタニア語で書いているが、そのあたりを突っ込んでくるものはいなかった。
 やはり書き慣れた文字の方が楽なのだろうと判断したのではないか。そう思いながらメモを付け加える。
「……なるほど」
 以前聞いたときにはわからなかったこともここで聞けば理解できるな。そうつぶやきながら教科書をめくった。
「勉強はかまわないんだ」
 新しいことを覚えられるから、とそうつぶやく。一度学んだことでも新たに教えられれば見えることもある。
 何よりも、努力すればするだけ身につくではないか。
 しかし、だ。
 運動は違う。
 あれは生来の才能に大きく左右される。もちろん、努力すればなんとかなる面もないわけではない。しかし、そうでない方が多いのだ。
 それなのに、と小さくため息をつく。
 よりにもよって学校に家族を呼んでその前で運動をするなど信じられない。
 一種目ならまだ我慢するが、数種目でなければいけないなど苦痛ではないか。
 それでも、学校行事である以上、出た方がいいのはわかっている。
 でも出たくないのだ。
 いっそけがでもすれば出なくていいのではないか。そんなことすら考えてしまう。
 同時に、どうして母さんは自分にナナリーの半分でもいいから運動神経をくれなかったのか。そうすればこんなことで悩まなくてすんだのに、と小さくため息をつく。
 そのときだ。
「ランペルージ」
 担任が自分の名を呼ぶ。
「はい」
 そう答えると立ち上がった。
「日本の貿易相手国で一番シェアが大きいのはブリタニアです」
 そして、こう答える。
「正解だ」
 満足そうに彼はうなずく。
「日本とブリタニアはそれぞれが相互の関係にある。特に工業ではブリタニアから原材料を、日本からはその加工品を輸出している。これを加工貿易という」
 淡々と彼は説明を続けた。
 それを聞きながらルルーシュはいすに腰を下ろす。
 正確には違うが、そこを指摘すれば面倒になる。だから、この説明なのかな……と心の中だけで付け加えた。
 同時に、当てられたのはあれこれと考え込んでいたからだろう。
 まぁ、いい。
 いざとなれば自分が笑われればいいだけのことだ。
 そう考えると、ルルーシュは勉強に集中することにした。



19.02.20 up
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