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お隣のランペルージさん

18


「お兄様。お兄様は何に出られますの?」
 運動会の競技は、とナナリーが問いかけてくる。
「……徒競走と玉入れ、それにダンスだな」
 小さなため息とともにルルーシュはそう言い返す。
「はっきり言えば、どれもやりたくない」
 玉入れはまだマシだが、徒競走はビリが確定しているし、ダンスはどうしてもテンポが合わない。そう言ってため息をつく。
 せめてダンスのテンポがもっとゆったりしたものならよかったのに。そうつぶやいた。
「……基本だけですわね」
 つまらなそうにナナリーがこう言ってくる。
「リレーに出るのはカレンを含めたメンバーだ」
 正確に言えば彼女を含めたスポーツが得意な人間だとルルーシュはまたため息をつく。そこに自分のような運動神経を母親の中に忘れてきたような人間が入れるわけがない。
 第一、そこまで体力も持たないし、とそう続ける。
 もっとも、それをナナリーに行っても仕方がない。
「ナナリーはリレーに出るのだろう?」
 だから、代わりにこう言った。
「はい。それと……スザクも」
 本気でいやそうにナナリーはそう付け加える。
「まぁ、二人なら当然だな」
 むしろ、二人よりも運動神経がいい人間はいないだろう。
「でも、放課後にリレーの練習があるのです」
 お兄様といっしょに帰れません、とナナリーがため息をつく。
「待っててあげるよそのくらい」
 だからいっしょに帰ろう? と言って微笑めばナナリーはうれしそうな表情を作る。
「お兄様、大好きです」
 そのまま彼女はこう言って抱きついてきた。それを柔らかく抱き返しながらルルーシュは微笑む。
「僕も大好きだよ、ナナリー」
 そしてこう言い返した。

 運動会のことは当然、オデュッセウスの耳にも入っていた。
 それだけならばよかった。
「なんでマリーとユフィの耳にも届いているんですか」
 ルルーシュはそう言って頭を抱える。
「それは私が教えたからだが」
 それがどうかしたのか、と問いかけてくるオデュッセウスをルルーシュは恨み混じりの視線でにらみつけた。
「そんなことをしたら当然押しかけてくるじゃないですか!」
 すでにこちらへの渡航手続きを終えたらしい。ルルーシュはそう続ける。
「おや? 早いね」
 さすがに君に会いたかったようだ、とオデュッセウスは微笑みながら付け加えた。
「兄上?」
「君に会えなくて落ち込んでいたようだからね。お節介かもしれないとは思ったけど、来てもかまわなそうなイベントを教えただけだよ」
 いけなかったかい? と問いかけてくる彼に悪気はない。むしろ好意1000%だ。
 しかし、それはありがた迷惑だと言える。
「だからといって、僕が苦手な運動系のイベントの時でなくても……」
 絶対に恥をかくに決まっている、と付け加えた。
「あの子達は気にしないと思うけどね」
 彼はそう言ってくれるけれど、それでもいやなものはいやなのだ。
「それに、そろそろ父上が『君が足りない』と叫んで大暴れしていそうだしね」
「何ですか、それは」
 あの父上が、とルルーシュは絶句する。
 確かに彼は自分たちに激甘で過保護だ。しかし、それ以外では立派にブリタニアを統率しているはず。だからそんなことはない、と思う。
「君たちは知らないだろうけどね。私たち年長者はそう言っている父上を目の当たりにしているからね」
 そのたびにマリアンヌ様に殴り倒されたあげく、襟首を捕まえられて引きずられていくが……と言うセリフにどのような表情をすればいいのかわからない。
「それに比べれば、君が運動が苦手なくらいどうと言うことはないよ。実際、私も運動系はダメでね」
 ギネヴィアやコーネリアがうらやましいと思ったことは一度や二度ではない。オデュッセウスはそう続ける。
「それでも、せめて妹たちの前では格好つけたいです」
 ナナリーにはばれているが、とルルーシュはため息をつく。
「まぁ、頑張りなさい」
 しかし、と彼は続ける。
「そのくらいのことで妹たちが君を嫌いになるわけがないよ」
 逆にうるさいくらいにくっつかれるだろうね、とオデュッセウスは微笑む。
「そうでしょうか」
「もちろんだとも」
 しっかりとうなずいてみせる彼に少しだけ肩から力を抜いた。



19.02.28 up
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