お隣のランペルージさん
20
今日が全体練習で、あさっては本番という日の帰り道だった。
「ルルーシュ! 俺のこと、見直した?」
スザクがこう問いかけてくる。それはきっと、徒競走やら何かのことだろう。
「あら。私の方が早かったですわよね、お兄様?」
即座にナナリーが腕に抱きつきながらスザクに張り合うように口にした。
「……二人とも俺は体育係だぞ」
自分にそんな暇があったと思うか? とルルーシュは静かに口にする。
「僕は手順を確認するだけで手一杯だったが?」
さらに付け加えれば、二人は驚いたというような表情を作った。
「……そんな……」
「嘘ですわよね?」
頑張ったのに、と二人は口をそろえて告げる。そんなこと炉がルルーシュに『実は仲がいいのではないか』と思わせる理由だ。
「本番なら、少しは余裕があるかな?」
ただ、あれこれと動き回っているからあくまでもタイミング次第だろうが。そう告げた。
「お兄様に私の活躍を見てもらえないなんて……」
「何でルルーシュがそんな役なんだよ」
二人はこんなセリフを口にしている。
「誰かがやらなければならないことだからな。それに、僕には競技に出るよりもこちらの方が性に合っている」
裏方の方が、と続けた。実際、あれこれと準備をしたり人を動かす方が楽なのだ。競技のことはあえて考えないようにしているし、とルルーシュは心の中でつぶやく。
「……そうですが……」
ナナリーは納得してくれない。
「でも、最後のリレーは特等席で見られるから」
なんと言ってもゴール係だ。だから、と付け加えれば二人は途端に笑みを浮かべる。
「なら、俺のかっこいいところを見てもらえるな!」
「何を言っています。お兄様が見たいのは私の活躍です!」
そんな会話を交わしながら家の前まで来たときだ。門の所に見覚えのある桃色が確認できる。
「……まさか……」
ルルーシュがそうつぶやいたときだ。
「ルルーシュ、久しぶりですわ!」
このセリフとともにその桃色が抱きついてくる。その後ろを緋色が追いかけてきた。
「申し訳ありません、お兄様。一応止めたのですが……」
「ユフィがその手をすり抜けてしまったんだろう?」
マリーと彼女の名を呼べば小さくうなずいてみせる。その間もユーフェミアは離れる様子はない。
「ユフィお姉様、お兄様は私のお兄様です!」
そう言ってナナリーが彼女を引き離そうとする。
「いいではありませんか! わたくし、ここしばらくルルーシュと触れあっておりません」
だから、ここにいる間ぐらい譲れ。ユーフェミアは笑顔でそう言いきった。もちろん、それにナナリーがうなずくわけがない。
「それは関係ありません。ただでさえお邪魔虫に邪魔されているのに!」
そう言ってスザクをにらむ。それだけでユーフェミアにもナナリーが何を言いたいのかわかったようだ。
「まぁ、そうですの?」
「えぇ。お兄様と私の間を邪魔するなんて許せないと思いません?」
「確かに」
そこは一致するんだ、とルルーシュは心の中でため息をつく。
「二人とも。そこまでにしておいてくれないか?」
スザクをあまりいじめるな。そう告げる。
「第一、ユフィとマリーは自己紹介も何もしていないぞ?」
初対面の人間の前でそれは失礼ではないのか、と続けた。
「そうですわね。確かに失礼でしたわ」
マリーベルだけがそう言うとスザクの前へと進み出る。
「初めまして。マリーベル・ジヴォンと言います。ルルーシュの従妹ですわ」
そう言うと彼女はきれいな礼をした。
「あ……えっと……枢木スザクです」
一瞬虚を突かれたような表情を作ったものの、さすがは枢木ゲンブの息子。いや、皇の縁者、京都六家の一員だ。すぐにこう言って頭を下げる。
何時もこうならばいいのだが。
そう思いつつもルルーシュは未だに自分に抱きついているユーフェミアへと視線を落とした。
「ユフィ。君は君の母君や姉君の教育がおかしいと言われたいのか?」
そして少し厳しい声音で問いかければ彼女は顔を上げる。ルルーシュが厳しい表情を崩さないところから渋々と彼から離れた。
「ユーフェミア・ダールトン。よろしくはしたくありません」
そして、こう告げると顔を背ける。
「ユフィ……」
どうしてこうなった。そう考えるとルルーシュは深いため息をつく。
「これからお姉様方とお話をするのです。貴方はお帰りください」
そんな彼の脇でナナリーがこう言うと思いきり舌を出した。
19.03.30 up