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お隣のランペルージさん

23


「それは災難だったわね」
 ダンスの前の時間、並びながらルルーシュはカレンとこんな会話を交わす。
「……いや、まだだ……」
「まだって?」
「今、家族席に従妹達が来ている。あの子らとナナリーがセットになったところでスザクが顔を見せればどうなるか……」
 人前だと言うことで多少はおとなしいかもしれない。だが、セリフはきついはずだ。
「救いは、あの二人は日本語がさほど得意ではないことか」
 もっとも、ブリタニア語でスザクの悪口で盛り上がっているに決まっている。ルルーシュはそう言うとため息をつく。
「でも、人様にばれないならいいよね」
 たぶん、と彼は首をかしげた。その様子がものすごく可愛らしい。
 だが、彼は男だ。
 たとえ少女にしか見えなかったとしても、間違いなく男の子だったりする。
「まったく……それを人前でやったら死人が出るわね」
 自分も女だからか。カレンがそう言っただけで済ませた。しかし、周囲にはそうはいかなかった人間が多々見られる。
「どういうこと?」
 意味がわからない、とルルーシュは首をかしげた。
「案が、いい加減に自分の顔がそこいらの女子よりかわいいって自覚しなさいよね」
 アンタの親戚の女の子達もかわいいけど、とカレンは付け加える。
「ユフィとマリーは確かにかわいいけどね。僕よりは女の子の方がかわいいだろう?」
 真顔でルルーシュは言い返す。
「……ほんっとうにアンタってば」
 それにカレンが反論をしようとしたときだ。
『次は六年生のダンスです』
 五年生によるこんなアナウンスが流れる。
「……恥をさらしに行こうかな」
 その瞬間、ルルーシュの顔に悲壮な決意が表れた。
「そこまでじゃないでしょう?」
 あきれたようにカレンが言葉を投げかける。
「カレン……君はできるからそう言えるんだよ」
 最初はいいのだ。最後の方になるとどうしてもワンテンポ以上遅れてしまう。そんな自分の苦労がわかるか、とルルーシュは彼女をにらみつける。
「そのくらいなら他にもいるから」
 言葉とともにカレンは立ち上がった。ルルーシュも他の皆といっしょに立ち上がる。
「本当……何でダンスなんてしなきゃ行けないんだろう」
 ぶつぶつとつぶやきながらルルーシュは流されるまま校庭へと出て行った。

 とりあえず、ダンスは無難に終わった。
 大失敗してくれた人間がいたおかげでルルーシュのテンポずれは目立たなかったのだ。
 そのことに胸をなで下ろしながらルルーシュは応援席へと向かう。
「お兄様、こちらですわ!」
 そんな彼を見つけたのだろう。ナナリーが大きく手を振っている。
「じゃ、ごゆっくり」
 カレンはそう言うとルルーシュから離れていく。が、途中で足を止めた。
「母さんが御礼に行くかもしれないから」
 それが何のことか確認しなくてもルルーシュには想像が付く。
「気にしなくていいのに」
「そう言うわけにはいかないでしょ」
 世話になったんだから、と彼女は付け加える。
「まぁ……様子を見てだけど」
「だよな」
 また後で、と告げるとルルーシュは彼女と別れた。そして、ナナリーが待っている場所へと向かう。
「ルルーシュ!」
 そのままオデュッセウスの隣に座ろうかと思ったところでユーフェミアが抱きついてきた。
「危ないだろう、ユフィ」
 あきれたようにルルーシュは彼女に声をかける。
「それよりも、あの女性は何者ですの?」
「何者って、クラスメートだよ。ブリタニアとのハーフだそうだ」
 最初から仲良くしてくれたんだ、とルルーシュは明るく言葉を返す。
「ひょっとして、この前の騒動の原因ですの?」
 こう問いかけてきたのはマリーベルだ。
「あぁ。長いこと放置しておいたのに奥方に子ができぬとわかった瞬間、手元に引き取ろうとした馬鹿者だね」
 それに言葉を返したのはルルーシュではない。オデュッセウスが静かにそう告げる。
「ユフィ。ルルーシュを放してあげなさい。そのままでは食事がとれないよ?」
 それでは午後からの作業に支障が出る、と彼は続けた。
「そうだね。ユフィ、放して」
 まずは食事にしよう。ルルーシュは微笑みながらそう告げる。その瞬間、周囲から悲鳴が上がったことはきれいに無視をしたが。



19.04.30 up
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