お隣のランペルージさん
25
運動会からの帰り道のことだ。学校から家までそうたいした距離ではない、と言うことで皆で歩いて帰ることになった。
ただし、スザクは別行動だったが、今日のことを考えれば当然だろう。
「少しは反省すればいいのですわ」
ユーフェミアがそう言ってくる。
「ユフィ……」
それにマリーベルが何かを言いかけた。だが、すぐに周囲を見回す。
「……ルルーシュ」
「あぁ……わかっている」
誰かがこちらを伺っている気配がした。それも複数だ。そのどれもが好意的な視線を向けているとは言いがたい。
「お前が気づいたと言うことは、すでにナナリーとマリーも気づいていると言うことだ」
当然、咲世子さんも……とルルーシュは続ける。
「お前の護衛も当然気づいているはずだ」
その言葉にユーフェミアは小さくうなずく。
「だから、気づかなかったふりをしておけ」
「わかりました」
そう言いながら彼女は絡めている腕に力を込める。
「ユフィ?」
「役得ですわ」
ふふふ、と微笑みながらユフィはルルーシュの肩にほほをすり寄せた。
「ずるいです!」
それを見つけたのだろう。ナナリーがこう言いながら駆け寄ってくる。
「お兄様は私のお兄様です!」
ここで何時もの騒動はやめてほしい。ため息とともにルルーシュがそう考えたときである。
「皆、伏せなさい!」
オデュッセウスの指示が飛んできた。
異母兄の指示には従うこと。
そう言われてきたからか。ルルーシュは即座にしゃがむ。他の三人も同様だ。
そんな彼らの頭の上を何かが通り過ぎていく。
しばらくして、自分が狙われたのだと認識した。
「……誰だ?」
オデュッセウスならばともかく、自分が狙われるとは思ってもいなかった。
いや。あるいは狙われたのは自分ではなく妹たちかもしれない。
どちらにしろ、命を狙われたことは間違いなかった。オデュッセウスの指示がなければ無様な姿をさらしていただろう。
「咲世子さん」
そんなことを考えているルルーシュの耳にオデュッセウスの声が届く。
「あれらを確保できるかな?」
「私が動かなくとも、すでに皆様が動いております」
二人の会話にルルーシュだけではなくナナリー達も首をかしげた。
「ひょっとしてユフィの護衛の方が動いているのかな?」
「あるいは、わたくしの方かもしれません」
マリーベルがそう言う。
「どちらにしろ、犯人が勝てるわけはないと」
護衛に選ばれたのは、正式な訓練を受け、その上で皇族のお忍びにつきあえると認められるだけの実力をつけたものでなければいけないのだ。中途半端な技量では勝てるわけはない。
その上、もし彼らを出し抜けたとしても咲世子がいる。
相手が誰にしろ、自分達を殺すことは不可能だと言っていい。
問題は、いったい誰の手のものかと言うことだろう。
「できれば殺さないでほしいが……」
生きてさえいればいくらでも情報を引き出せるから、とルルーシュはつぶやく。
「あぁ、そうだね。誰の手のものか確認しなければ」
自分達の居場所をどうやってつかんだのかも確認しなければいけない。オデュッセウスはそう言ってうなずく。
「だが、もし狙いが《
私たち》でなかった場合、そうするか」
「……父上にばれた時点で同じ結果しかないと思いますが?」
そういえばオデュッセウスは酢でも飲み込んだような表情になる。
「確かに、陛下ならそうかもしれないね」
己の子供に手を出されたならぶち切れるだろう。オデュッセウスはそう続ける。
「どのみち、彼らに未来はなさそうだね」
「そうですね」
ため息交じりに二人はうなずき合う。
「でも、いいんじゃないですか? あの子達のことを考えれば」
「そう言えるところが君だね」
ルルーシュの言葉にオデュッセウスは微笑む。
「確かに、陛下の過保護なほどの御愛情は今の君たちにとっては必要だろうね……私くらいの年齢になると多少うっとうしいが」
「それでも分散されているだけマシでは?」
「あぁ、そうかもしれないね」
あれを一人で背負わなければいけないとなればどうなるか。考えたくもない。そう告げるオデュッセウスの背後で護衛のもの達が男どもを捕獲している。
「終わったようです、兄上」
ルルーシュの言葉にオデュッセウスは大きくうなずいて見せた。
19.05.20 up