お隣のランペルージさん
26
ルルーシュ達の住む家。その近くにある小さな喫茶店が彼らの仕事場だ。正確に言えば、その地下にある一室がである。
「さて……誰の命か話してもらおうか」
にこやかな表情でジェレミアがそう問いかけた。
「ジェレミア卿……ほどほどに」
咲世子がそう釘を刺す。
それに襲撃者の瞳が輝く。救いの手が伸ばされたと思ったのだ。
「本国の方もお待ちですし」
しかし、それを咲世子はあっさりとたたき落とす。
「あぁ、そうだったな」
ジェレミアもそう言ってうなずく。
「大切な方々を襲撃されたのだ。そのくらいの報復は許されるだろう」
そして、命じた人間を罰することも……と彼は続ける。
「そういうことですから、あきらめてくださいね」
きれいな笑みを作りつつ咲世子がそう言う。その瞬間、襲撃者達はそろって表情をこわばらせた。
「……本当に、とんだ事件に巻き込まれましたわ」
ユーフェミアがため息とともにそう告げる。
「ユフィ。そう言うものではなくてよ」
「確かに。誰が狙われたか、まだわからないからね」
それに、オデュッセウスとマリーベルが注意を与えた。
「我々の命を奪いたいという人間は身内にもいるからね」
残念なことに、とオデュッセウスは続ける。
「そういう人間ほど無能なのだが」
言葉とともに彼はため息を付いた。
「それよりもお兄様。明日お出かけできますよね?」
その場の空気を変えるかのようにナナリーが問いかけてくる。
「咲世子さんが戻ってくれば大丈夫だと思うけど?」
ルルーシュはそう答える。
「よかった。私、東京に行きたいです。博物館で恐竜の骨がみたいです」
ぱっと表情を明るくするとナナリーはこうおねだりをしてきた。
「いやですわ!」
それにユーフェミアが反対の声を上げる。
「恐竜の骨なんて、どこでも見られますわ。本国にもあるではありませんか」
「ユフィお姉様はご存じないのですわ。この国にはここにしかないものがありますのよ」
それが見たいのだ、とナナリーは言い返す。
「ですが、ナナリーには別の機会もありますでしょう? ここはわたくしたちに譲ってくれてもいいのではないの?」
「そうはいきませんわ。今回限りの展示だと聞いていますもの」
今回を逃せば二度と見られないかもしれない。そうである以上、絶対に見たい。ナナリーはそう言いながらルルーシュを見上げる。
「かまいませんわよね、お兄様」
そして甘えるような口調で問いかけてきた。
「僕じゃなくて兄上にお聞きしてごらん」
ため息とともにルルーシュはそう告げる。
「三人で話し合って決められないなら、兄上に決めていただくのが一番だろう?」
さらにそう続ければ、ナナリーとユーフェミアはふてくされたような表情を作った。
「二人ともルルーシュお兄様に味方をしてほしかったのよ」
あきれたような表情でマリーベルがこう教えてくれる。
「……ナナリーと同じレベルで争うとは……」
それにルルーシュは絶句した。
「優秀すぎるのも困ったものだね」
苦笑交じりにオデュッセウスがこう言ってくる。
「とりあえず、そうだね……午前中に美術館に行って、午後、博物館でどうかな?」
さらに彼はこう続けた。
「それがいいと思うわよ」
マリーベルもオデュッセウスに味方をする。
「そうですね。確かにそれならば二人の希望が叶えられるでしょう」
ルルーシュもそう言ったところで、二人は渋々ながら首を縦に振って見せた。
ルルーシュ達がベッドに潜り込んだのを確認して、オデュッセウスは喫茶店へと向かう。そして、そのまま地下へと降りた。
「どこのものだったかな?」
そのまま彼はこう問いかける。
「例の子爵家の関係者ですね」
奥方の兄は伯爵家の人間だったらしい。取りつぶされたことの逆恨みでこちらを狙ったそうだ。
「そう。陛下には?」
「すでに連絡を入れてあります。明日の朝、この者達を本国へ移送して、改めて尋問をした上で取りつぶされるかと」
「そう。あの子達を危険にさらした責任はとってもらわないとね」
ほほえみとともにオデュッセウスはそう告げる。
「その後でこちらに合流してくれるかな?」
さらに彼はこう問いかけた。
「Yes,Your Highness」
文句などあるはずもないジェレミアは即座にこう答える。
「では、後は頼むよ」
そう告げると彼はきびすを返した。
19.05.31 up