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お隣のランペルージさん

27


「どうしよう……ルルーシュに嫌われた……」
 スザクはそうつぶやくとため息を付く。
「ちょっとしたお茶目のつもりだったのに」
 ルルーシュならば、あきれながらも許してくれるはず。そうなったらさらに近づけるはずだった。
 だが、現実は違った。
 ルルーシュとの仲を深めるどころか『二度と食べさせない』と言われてしまった。
 それだけではない。
 神楽耶の口からゲンブへと告げ口をされてしまったのだ。それでゲンブに久々に怒られた。
 しばらくは外出禁止のおまけ付きだ。
 仕方がなく、今は部屋の中でごろごろしている。
「おばさんも父さんに何かを言われたのか、抜け出せないようにしてくれているし……」
 だから、謝りにも行けない。
 謝りに行けないから許してもらえるはずがない。
 許してもらえないから、会いに行けない。
 それこそ堂々巡りだ。
「どうすればいいんだろう」
 今までそんなことを考えたことはない。
 自分のそばにいたもの達はゲンブの権力に興味があったのであって、自分にではない。だから、どんなことをしても気にすることはなかった。
 と言うより、気にする必要がなかったといった方が正しいのか。
 どんな傍若無人を繰り返しても相手が引き下がる。そんな生活だった。
 しかし、ルルーシュ達は違う。
 彼らはゲンブだけではなく桐原までもが気を遣わなければいけない存在だ。自分が傍若無人に振る舞えたのも、ルルーシュが許してくれていたからに過ぎない。
 実際、ナナリーとは仲が悪かった。
 二人の兄であるオデュッセウスは年齢が離れていたからよくわからない。しかし、ルルーシュを諫める様子がなかったと言うことは彼の意見を尊重していると言うことか。
「八方ふさがりだよ」
 そうつぶやくとスザクは頭を抱える。
 ちょっとしたお茶目だったのに……とそのまま付け加えた。
「おばさんにもちゃんと言っておいたのに」
 せめて彼女がルルーシュの所に事前に話を通しておいてくれたなら状況は変わっただろうか。
 どちらにしろ、神楽耶に知られた以上、桐原の耳に入るのは間違いない。後でどんなお仕置きが待っているか。それを考えると憂鬱になる。
「どうして今回だけこんな大事になったんだろう」
 もう一度こうつぶやく。
「どうしたら、許してもらえるんだろう」
 初めてのことにスザクは答えを出すことができなかった。

 玄関の鍵をかけるとルルーシュは振り向く。
「兄上。準備が終わりました」
 そう告げればオデュッセウスはうなずいて見せた。
「では、出かけようか」
 オデュッセウスはそう言って微笑む。
「お兄様……車はどこですの?」
 周囲を見回した後でユーフェミアが首をかしげた。どうやら彼女は目的地まで車で行くつもりだったらしい。
「車は来ないよ。公共交通機関で目的地まで行くのが目的だから」
 それにルルーシュはこう言い返す。
「確かに。経験は必要よね」
 マリーベルもこう言ってうなずく。
「それに、この先の駅でオズと待ち合わせているの。予定を変えたくないわ」
 昨日は遠慮してもらったのだけど、と彼女は続けた。
「気にせずに来ていただいてよかったのに」
 と言うより、ここに泊まってもらえばいいのに……とナナリーが首をかしげる。
「あれが邪魔しに来るのですもの。それよりもオズの方がいいですわ」
 どうやらスザクのことを言っているらしい。
「ナナリー。あれが普通の反応ですわ。オズにしてもダールトン家の皆さんにしても、騎士としての教育を受けていますもの。それに、オズは伯爵令嬢ですわ」
 名家の子供とは言え、今は民間人であるスザクと比べるのは間違っている。マリーベルはそう言いきった。
「それに、今頃泣いて反省しているでしょうし」
「確かに。もっとも、心の底から反省してもらわないとあいつのためにならない」
 夕べスザクの叔母からもらった連絡では、今しばらく無視していた方が良さそうだ。ルルーシュはそう考える。
「そういうことだからね、ユフィ。今日は皆でバスと電車で出かけよう。私ですら乗れるようになったんだ。君ならすぐに覚えるよ」
 そんなルルーシュを横目にオデュッセウスがにこやかな表情でユーフェミアに告げた。
「お兄様……」
「では出発しよう。護衛は心配いらないよ。ちゃんと付いてくるように言ってあるからね」
 ほら、と彼はある方向を指さす。確かにそこには護衛の者らしき人間が地元の人達に紛れられるような服装でいた。いや、そのほかに日本軍の軍人が見え隠れしているのは気のせいだろうか。
「はい、お兄様」
 まぁ、ユーフェミアが納得してくれたしかまわないだろう。そう考えるとルルーシュはナナリーにてを差し出す。
「ナナリー。迷子になると困るから手をつないでいこう」
「はい、お兄様」
 即座にナナリーがルルーシュの手を握り返してきた。
「ずるいですわ。わたくしもルルーシュと手をつなぎます!」
 ユーフェミアがそれをめざとく見つけて騒ぎ出す。そんな何時もの光景に、なぜかほっとするルルーシュだった。



19.06.10 up
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