PREV | NEXT | INDEX

お隣のランペルージさん

29


 二人が本国に戻ったのはその翌日だった。
 ルルーシュとナナリーは学校を休んで彼女たちを見送った。だから、学校でどんな騒ぎが起きているのか知ったのは、その翌日のことだった。
「……何でこんなに見られているんだ?」
 意味がわからずにそうつぶやく。
「アンタがやらかしたからでしょ」
 カレンがそくざにこう突っ込んできた。
「やらかした?」
 自分は何をやらかしたというのか。ここ数日のことを思い返しても、別段、変わったことをした記憶はない。
 いや。
 運動会で運動神経の悪さを披露したな、とルルーシュはため息を付く。
「たぶん、アンタが考えているのは違うわよ」
 その表情から何を考えているのか推測したのか。カレンがため息交じりにこう言ってくる。
「僕の運動神経の無様さじゃないのか?」
 それ以外に考えられるものはないのだが、とルルーシュは言い返す。
「じゃなくて、アンタ、スザクを怒鳴りつけたでしょ?」
「あれはただのしつけだろう?」
 それがどうして騒ぎになるのか。そちらの方がわからない、とカレンに問いかけた。
「悪いことをしたらしかるのは当然じゃないか。それをしないで甘やかしていたらとんでもない人間にしかならないだろう?」
 こう告げたとき、ルルーシュの脳裏には箸にも棒にもかからない異母兄たちの顔が浮かんでいた。
 母君や祖父母に甘やかされたあげく、とんでもない性格に育った彼らは、今頃どんな目に遭っているのか。気にならないと言えば嘘になる。だが、彼らの場合、修正不可能だろう。
 だが、スザクはまだまだ修正が効くのではないか。
 もっとも、それは自分には関係のない話なのかもしれない。それでも、自分の目の前で好き勝手な行動をされるのは許せなかったのだ。
「神楽耶様も僕の行動をとがめなかったし」
 さらにそう続ける。
「アンタらしいわ」
 そう言うとカレンはまたため息を付く。
「あの光景を見ていた町の重鎮達が騒いでいるらしいけど……」
「大丈夫だろう。うちは皇とつきあいが長い」
 うちの母が皇の血筋らしいし、とルルーシュは言う。本家か分家かは知らないが、とそう続けた。
「……そうなの?」
「あぁ。だから、ここに留学しているわけだ」
 皇からの誘いもだったことだし、オデュッセウスが乗り気だったと言うこともある。だから、直接行ってくることはないはずだ。
「それに、僕たちがいる間ぐらい、あいつに礼儀作法をたたき込んでもいいんじゃないかな?」
 大人になってから困らないように、とルルーシュは首をかしげる。
「アンタって……根本がおかんなのね」
 しばらく考えた後でカレンはこう言いきった。
「どういう意味だ?」
「お母さんみたい、っていいたいの」
「……僕のどこが『お母さん』だ?」
 まだ『お兄さん』なら納得できるが、とルルーシュはカレンをにらみつける。
「その面倒見の良さよ!」
 何よりも、とカレンは続けた。
「アンタの小学生らしからぬ家事能力が原因でしょ」
 料理も洗濯も完璧だなんて、とカレンは叫ぶ。そうすれば、周囲のもの達も大きく首を縦に振っていた。
「そうしなければ死にはしないものの大けがの一つや二つ、していただろうからな」
 さすがにナナリーまで巻き込むのはまずいだろう。そう考えて必死に身につけただけだ。ルルーシュはそう言い返す。
「うちの両親は浮き世離れではすまない性格だったし、兄上もあぁだからな。僕がしっかりしなければいけなかっただけだ」
 それが何か、とカレンを見つめる。
「……ごめん。ちょっと言い過ぎたわ」
 自分の家事能力がそう言う経過で身についたとまでは知らなかった彼女は素直に謝ってきた。
 それを確認してからルルーシュは周囲を見回す。そうすればカレンの先ほどの発言に同意をしたもの達も気まずそうな表情を作っている。
「スザクのことだってそうだろう? ちょっときつめに注意しただけじゃないか」
 皆がなあなあにしてきたからスザクはそれが正しいと覚えてしまったのではないか。だから、いつまでもああいう態度をとっていたのだろう。
「お前達にとって《枢木》がどんな意味を持っているか、僕は知らない。だから、好きにさせてもらう」
 ルルーシュはそう言いきる。
「後で神楽耶様に連絡を取って許可をもらわないと」
 それで文句はないだろう、とつぶやくように告げた。
「やっぱりアンタ、おかんだわ」
 ため息交じりにカレンがそう言う。そう言う性格を《おかん》と言うのだ、と彼女は教えてくれた。
「僕はスザクの母親じゃないんだがな」
 ルルーシュはそう口にする。母親代わりはナナリーだけで十分だとも。それでもやめるつもりはない。
 残された時間でどれだけのことができるか。
 不安があるとすればそのことだけだった。



19.07.01 up
PREV | NEXT | INDEX