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お隣のランペルージさん

30


「本当は我が家でやらなければいけないことですのに」
 神楽耶は電話口でそう謝罪をする。
『気にしなくていいよ。僕がやりたいからやるだけだから。ただ。周囲がうるさそうで』
 ルルーシュが肩をすくめながらそう言い返してきた。
「……そちらに関してはわたくしがなんとかします」
 即座に神楽耶はこう言いきる。
「お従兄様がまともになれるかどうかの瀬戸際ですから」
 さらにそう言えばルルーシュの目が丸くなった。だが、それはすぐに優しげに細められる。
『スザクより年下とは思えないね。礼儀作法は完璧だ』
 どこに出て行っても誰も何も言えないだろう。そう言われて神楽耶はふわりと微笑んだ。
「そう言っていただけるとうれしいですわ」
 自分の努力が正当に評価されてうれしくない人間などいないわけがない。
『でも、無理は禁物だよ? スザクは……もう少し無理してもいいけどね』
「そう言うルルーシュ様はいかがですの?」
『僕だって母さんの前とかでは気を抜くよ』
 何よりも神楽耶と同じ年齢の頃はそこまで礼儀作法が求められなかった。ルルーシュは苦笑とともにそう言い返してくる。
 だが、それを言葉通り受け止めるわけにはいかない。
「ルルーシュ様が気を抜かれたところを拝見したいですわ」
『機会があればアリエスの方においでください』
 こういうそつのないところはさすがだ。それに対し、うちの従兄は……とため息が出てくる。
「ルルーシュ様。いろいろとご迷惑をおかけするとは思いますが、お従兄様をよろしくお願いします」
 その気持ちを押し殺して神楽耶はこう口にした。
『一度面倒を見てしまった以上、最後まで責任を持つのは当然だろう?』
 それにルルーシュはこう言い返してくる。
『だから、スザクのことも日本にいる限りは責任を持ってしつけるつもりです』
 にっこりと笑うと彼はそう告げた。
 本当に彼を見習ってほしいものだ。神楽耶は本気でそう思う。
「お願いいたします」
 こちらは黙らせますから、と口にする。
『はい』
 その言葉を疑うことなくうなずいてくれる彼に神楽耶は感謝した。
「では、これで失礼いたします」
 受話器を置くと神楽耶は視線を斜め後ろに座っている人物へと移す。
「……おじいさま……」
「まったく困った奴らだ」
 そう言いながら桐原が神楽耶のそばに歩み寄ってくる。
「自分の手に負えぬから放置、まではまだ理解しよう。だが、しつけをしようとしてくれるものを排除するのはなぜか」
 せめて最低限のしつけさえ身につけさせておけば今回のことは避けられたのではないか。
 何よりも、と彼はさらに言葉を重ねる。
「一番の問題はゲンブよ。己のこの面倒を見られぬものが国政を回せるはずがなかろう」
 まったく、と桐原は怒りを隠せないようだ。
「後でしかっておくか……それともルルーシュ様の邪魔をさせぬよう言いつけるかだが……」
「邪魔をさせない方がよろしいかと」
 特に妹君に、と神楽耶は言う。
「あれか……確かにそうだの」
 一番の問題はスザクを放置している叔母ではないか。
 今は確かにスザクを叱り閉じ込めている。だが、それは神楽耶を不快にしたからではないか。
 いや、と思う。
「あの方はあの方なりのやり方で進めようとしていらっしゃるのかもしれません。でも、それではお従兄様は身につかないと」
 思い切って誰かに任せてみればいいのに、と神楽耶はため息を付く。
「彼女にもプライドがあるのだろうだろうが、肝心のスザクがあれではの」
 まったく身についていないどころか叔母をなめているのではないか。今回のこともゲンブに怒られたからおとなしくしているだけだろう。桐原もそう言ってうなずく。
「あちらには儂から伝えておこう。神楽耶は今は動くな」
 さらに彼はこう続けた。
「……ルルーシュ様とのお約束は?」
 神楽耶は反射的にこう問いかける。
「儂が動くことで納得していただけるだろう。おぬしは儂に頼んだということにすればよい」
 大人同士の話し合いでは自分が出て行くのが一番早い。桐原はそう言う。
「後はスザクだが……」
「お従兄様はわたくしが謝罪の場に連れて行きますわ」
「そうだの。あぁ、儂も同席しよう」
 できればスザクの叔母も連れて行きたいが、彼女は動くまい。その言葉に神楽耶はうなずく。
「まぁ、彼女に関しては後で儂がとことん話し合ってみるがな」
 まずはスザクに土下座させなければ。そうつぶやく桐原に神楽耶も同意した。



19.07.15 up
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