お隣のランペルージさん
31
朝になると同時にスザクは神楽耶と桐原によって布団から引っ張り出された。
「何をするんだよ!」
「ルルーシュ様達の元に謝罪に向かうのですわ」
身支度をしっかりと調えた神楽耶がそう言いきる。
「学校もいつまでもお休みするわけにはいきませんのよ?」
男らしくない、と彼女は続けた。
「……男らしくなくたっていいんだ……」
どうせ俺なんて、と口にするとスザクは布団に潜り込もうとする。
「見苦しいぞ、スザク」
あきれたように桐原がこう言う。
「許してもらうためには謝らなければならぬ。そのくらいわからぬか」
こう言われてもスザクは動こうとしない。
「それで許してもらえなかったらどうするんだよ!」
「許してもらえるまで日参するに決まっておるわ!」
そう言うと桐原が業を煮やしたかのようにスザクの襟首をつかむ。そして強引にたたせた。
「さっさと着替えぬか!」
そして怒鳴りつけるように指示を出す。
「……どうしても行かなきゃないのか?」
ぐずぐずとパジャマのボタンを外しながらスザクは問いかける。
「当たり前です。今までのようになあなあにできる相手ではありませんもの」
むしろ今まで行かなかったという事実が怖い。神楽耶はそう言うとため息を付いた。
「お従兄様だけではなくおばさまもですが」
「あれらには儂から注意をしておく。まったく……子供一人まともに育てられぬとは」
ふがいない、と桐原は吐き出す。どうやらゲンブと叔母の二人ともが桐原からお目玉を食らうのは決まり切った未来らしい。
しかし、自分にしても似たようなものだ。
いや、より悪いかもしれない。
それでもこの二人がそろってしまった以上、逆らうという選択肢はスザクにはなかった。
「……行きたくねぇ」
息とともにこうつぶやく。だが、そう言って無駄なことはわかっている。だから、のろのろとでも着替えを進めていった。
「ごめんなさい。俺が悪かったです」
ルルーシュ達の家の応接間でスザクはそう言って頭を下げる。その先にいるのは当然ルルーシュだ。その隣にはオデュッセウスとナナリーもいる。
「……何が悪かったのか、説明できるか?」
ルルーシュがそう聞き返してきた。
「……運動会でルルーシュ達の邪魔をしたこと」
スザクはおずおずと言葉を口にする。その言葉にルルーシュはため息を一つ付く。
「それ以外もあるよな?」
そしてこう告げる。
「……あったっけ?」
記憶の中をひっくり返してもすぐに思い出せない。と言うことは重要なことではないのではないか。
「僕が繰り返し注意したことを覚えていないと言うことでいい?」
ルルーシュがこう問いかけてくる。
「……だって……」
「君のおばさんが『気にしなくていい』って言ったって?」
それを信じていたのか、と彼は続けた。
「お兄様。やっぱりそいつ、許さなくていいのではないでしょうか」
ナナリーがルルーシュに抱きつくようにしながらこう言っている。そんな彼女の態度にむかつきを覚えた。だが、必死に抑える。
「それを決めるのはルルーシュだよ、ナナリー」
ぎりぎりと拳を握りしめるスザクの耳にオデュッセウスがナナリーを諫める声が届いた。
「でも、オデュッセウスお兄様。スザクは何も学んでいませんわ。あれだけお兄様がいろいろと注意をしたのに」
その場だけの謝罪も反省もいらない、と言うセリフにスザクはずきりとした痛みを覚えた。
確かに、自分は怒られてもその場限りと考えていたのではないか。本当の意味で反省したことはないかもしれない。
いや、怒られたことすら忘れていたことの方が多いのではないか。例外と言えば、道場で藤堂に怒られたときだけだ。
ルルーシュのお小言もだから、適当に聞き流していたことの方が多い。それが何時ものことだったからだ。他の人間は何度同じことを繰り返してもため息だけで許してくれた。
だが、ルルーシュは違う。そして、自分の行動が彼を怒らせるとは思ってもいなかった。
その結果、自分はルルーシュに拒絶されるのかもしれない。
二人は『許してもらえるまで何度でも謝れ』と言う。だが、すでにスザクの心は折れかかっていた。
「ごめんなさい……」
再度同じ言葉を口にする。と言うよりも、それ以外に口に出す言葉を知らないのだ。
「そこからしつけないとダメか」
仕方がない、とルルーシュはため息を付く。だが、すぐにまっすぐにスザクを見つめてくる。
「スザク」
「……何?」
「僕の言うことをきちんと守れる? それならば、とりあえず許してあげるけど」
ルルーシュの言葉にスザクはぱっと顔を上げた。
「本当?」
「ただし、一度でも『いやだ』と言ったらそこで終わりだけどね。もちろん、納得できないときは聞いてもらっていいけど」
そう言うルルーシュの隣でナナリーが『甘いですわ』と頬を膨らませている。だが、本人は気にしていない。
「わかった。ちゃんと言うことを聞く」
後で公開するかもしれない。しかし、それよりも今はルルーシュに許してもらえるかどうかの方が重要だ。
「ダメです! お兄様、そいつ、まったく反省していません」
しかし、ナナリーは徹底抗戦をするつもりだ。すぐにこう言ってくる。
「ナナリー。最初から決めつけるのはダメだと母さんも言っているだろう?」
「それでもいやなものはいやなのです」
ルルーシュがなだめようとするが聞く耳を持たないようだ。その頑固さにルルーシュがどうすべきかと首をかしげる。
「それならば、しばらくお試しをしてごらん。どうしてもダメだったらそこまでと言うことでね」
ナナリーもそれで納得しなさい、と口にしたのはオデュッセウスだった。
「それで我慢してくれないかな?」
ナナリーと彼が口にすれば、ナナリーは頬を膨らませる。それでも小さくうなずいて見せた。
「そういうことだから、スザク。これからお前の何が悪かったのか、きっちりと話をさせてもらう」
ほっとしているスザクの耳にルルーシュの言葉が届く。
「いいですわね。わたくしも参加させていただきますわ」
神楽耶も待たそう言って微笑む。
「では、私たちは席を外そう」
オデュッセウスの言葉にナナリーと桐原も立ち上がる。そのまま彼らが部屋を出た瞬間、二人の口からものすごいだめ出しが飛び出す。
それでもルルーシュに嫌われるよりマシだ。そう考えてスザクは身を縮めながら黙って聞いていた。
19.08.20 up