お隣のランペルージさん
32
スザクが最近おとなしい。
そんな噂が街中に広まるのは早かった。
「早速やっているのね」
理由を知っているカレンにしてみれば『もっとやれ』年か言い様がない。しかし、町の老人達が何も言わないのは不気味だ。そう思ってルルーシュに問いかけてみる。
「今はとりあえずの礼儀を教えているところだ。神楽耶様も『お好きなようにおやりください』とおっしゃってくださったからな」
ルルーシュはそれにこう言い返してきた。
「そうか。神楽耶様がバックに付いているのね」
なら大丈夫だわ、とカレンは笑う。
「あの方がそうおっしゃると言うことは桐原様も認めたと言うことだもん」
「あぁ。ご一緒にいらしたぞ」
「それならば絶対ね」
ゲンブだろうと誰だろうとルルーシュのやることに文句は言えない。枢木よりも上の二人が許可しているからだ。
「それにしてもどうやったのよ」
スザクをおとなしくさせるなんて、と興味津々と言った様子で問いかけてくる。
「飴と鞭だな」
「飴と鞭?」
「うまくできればデザート追加。そうでないときにはなしだ」
代わりにナナリーに二つ行く、とルルーシュは笑う。
「……それって絶対言うこと聞くに決まっているでしょ」
確かに飴と鞭だけど、とカレンは笑い声を押し殺せない。机に突っ伏して笑い転げている。
「あいつにはこれが一番効果があるんだがな」
そんなカレンを眺めながらルルーシュはこうつぶやく。
「物事の善悪が身についていないお子様にはぴったりだと思うが」
さらにそう続けたことがとどめになったのか。カレンが笑いすぎてけいれんをし始める。
「大丈夫か?」
死にはしないだろうが、このままでは呼吸困難になるのではないか。そう思って声をかける。
「だ、いじょうぶよ」
ただ、死にそうなくらいおかしいだけ……とカレンは息も絶え絶えに告げた。
「藤堂先生も喜んでいるし、多少のやり過ぎぐらいは気にしないんじゃない?」
おとなしくなっているんだから、と言うカレンにルルーシュは苦笑を返す。
「僕がいなくなる前に身についてくれればいいんだが」
いつまでもここにいられるわけではない。
と言うよりも、父の我慢が聞かないだろう。実際『そろそろ戻ってこい』とうるさいのだ。
もちろん、ルルーシュはまだまだ帰るつもりはない。せめて父が許可してくれた一年間はここに通うつもりだ。
と言っても、もうじき夏休みである。
一度はブリタニアに戻り父に顔を見せなければいけないだろう。もっとも、その後を考えればパスしたいというのがルルーシュの本音である。
「まぁ、最低限の礼儀だけはたたき込んでおくさ。神楽耶様も手伝ってくださるし、スザクに『いや』とは言わせない」
こうなれば最短でやるしかない、とルルーシュはつぶやく。
「協力するわ……できることだけど」
カレンもこう言ってくれる。
「あぁ。鍛錬中の礼儀については頼む」
自分はあれにはつきあえないから、とルルーシュはため息を付く。
「あれにつきあえるのは藤堂先生ぐらいなものよ」
朝比奈でも途中でへばる、とカレンは視線をそらす。
「一度藤堂さんと話し合った方が良さそうだな」
「そうね。話は通しておくわ」
カレンがそう言うと同時に教師が入ってきた。
藤堂との話は簡単に付いた。と言うより、事前に話を聞かされていたらしい。
「……神楽耶様か」
「あの方もスザク君の言動には頭を抱えておられたからな」
老人達の前では多少取り繕っていたようだがバレバレだった、と藤堂は続ける。
「普通はある一定の年齢になれば落ち着くはずなのだが……」
「スザクは落ち着かなかったと」
「あぁ」
自分の前ではおとなしくしているのに、と藤堂は付け加えた。
「相手を選んでいると言うことかな?」
まったく、とルルーシュはつぶやく。
「これでは僕たちがいなくなってからのことが心配だな」
また元に戻ってしまうかもしれない。それでは意味がないだろう、と付け加える。
「そうだな。君たちも国に帰らなければいけないのだし」
「父の機嫌一つでこちらへの留学期間が短くなる可能性もあります」
母がいるから当面は大丈夫だろうが、とルルーシュは苦笑を浮かべた。
「それは困るな」
今のスザクを放り出せば元の木阿弥だ、と藤堂はため息を付く。
「あいつの周囲の大人達をなんとかできればいいんだろうが」
周囲の大人達が注意をしなかった結果が今のスザクだ。桐原の言葉で今はおとなしいが、いずれまた甘やかすだろう。
それを拒否できるようにさせなければいけない。
「無理だろうな」
「だから、協力をお願いできれば、と考えています」
「もちろんだ」
ルルーシュの言葉に藤堂はしっかりとうなずいてくれた。
19.08.31 up