お隣のランペルージさん
33
「とりあえず合格点ではないかな?」
彼の礼儀作法は、とオデュッセウスが微笑む。
その視線の先にはナナリーとけんかをしているスザクがいた。
「えぇ。ただ、今目を離したら元通りになるのではないかと不安で」
かといって、長期休暇にブリタニアに帰らないという選択肢はないし……とルルーシュはため息を付く。
「確かに難しい問題だね」
オデュッセウスもそう言って首をかしげる。
「お母様がこちらにいらっしゃればよろしいのに」
スザクはどうでもいいが、と不意にナナリーがつぶやく。
「あぁ、それはいい考えだね」
オデュッセウスはそう言って微笑む。
「あの方にこちらに来ていただければ、私が暫く向こうに戻っても大丈夫だ」
さらに彼は続ける。
「兄上?」
「陛下には一日か二日、こっそりときていただこう」
それで満足されるかどうかは別として、と彼は笑った。
「それならば他の兄上方にもこちらに来ていただくべきでしょうか」
「それは彼らが自分で考えるだろうね」
その程度の苦労はしてもらわないと、と付け加えられた言葉がオデュッセウスの本音だろう。
「わかりました。では、母さんをこちらに呼ぶと言うことで……温泉にでも行きましょう」
小さな宿を貸し切りにしてもいいかもしれない、とルルーシュはつぶやく。
「それはいいね」
私も参加したいくらいだ、とオデュッセウスは笑う。
「温泉ですか?」
「あぁ。神楽耶様に紹介していただけばいいだろう」
マリアンヌに会いたいのは事実だ。しかし、彼女を放置しておく訳にはいかない。
だからといって、ブリタニアに帰るのもあれこれと厄介だ。
それならばこちらに呼んで閉じ込めてしまえばいい。
彼女も楽しめるような場所なら文句は言われないに決まっている。
「いいですね」
そこならばスザクも連れて行けるだろう。あるいは、彼女が手出しをしてくるかもしれないが、悪い方向には行かないはずだ。
「ですが、本当に兄上はよろしいのですか?」
「少しは兄らしいことをさせてもらおうと思ってね」
「兄上は兄上ですよ」
いつでも、とルルーシュは口にする。
実際、オデュッセウスがいてくれたから無難に終わったことも多いのだ。それに、自分達の知らないところで彼が動いていたことも知っている。しかし、何をしていたかは自分が知らなくてもいいことだとルルーシュは考えている。
「兄上がおいでにならなければ、きっと、シュナイゼル兄上とギネヴィア姉上の仲は最悪だったと思います」
あの二人は本質的に水と油だ。だから、中和させるための存在が必要だろう。
「君にそう言ってもらえるとは思わなかったよ」
オデュッセウスは驚いたようにそう告げる。
「僕もナナリーも兄上は大好きですが?」
ルルーシュがそう続けたときだ。なぜか彼が顔を赤くする。
「兄上?」
どうかされましたか? とルルーシュは問いかけた。
「いや……君たちの気持ちは知っていたつもりだが……面と向かって言われるとね」
さすがに恥ずかしいものが、と彼はつぶやくように口にする。
「何時も言っているのに……」
「それでもだよ。こんなこと、陛下に知られたらどうなるか」
嫉妬で何をされるかわからない。そう彼はつぶやく。
「……母さんに丸投げでいいのでは?」
シャルルのことは、とルルーシュは言い切る。
「それが一番無難です」
自分達にできることはない。そう付け加えればオデュッセウスもうなずいてみせる。
「それならば余計にこちらに来てゆっくりとしていただかないと」
骨休めは必要だろう、とオデュッセウスは告げた。
「もっとも、ご本人のご意向を聞いてからでないとダメだろうが」
マリアンヌが『否』と言えばこの話はなかったことになる。だから彼女の意向を聞かなければいけない。そう続ける。
「母さんなら喜んでくると思いますが」
彼女であればシャルルを放置してでも来るだろう。
「それはそれで、後で厄介なことになるだろうね」
シャルルの機嫌という点で、と続けるオデュッセウスにルルーシュはうなずく。
「どうやってなだめるか。それを考えておかないと」
「……そうですね。僕の焼き菓子程度ではダメでしょうし」
「いや。十分かもしれないよ」
だが、次善策は考えておくべきだろうね。オデュッセウスはそう言うと微笑んだ。
19.09.10 up