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お隣のランペルージさん

34


 話を通せば、マリアンヌは喜んでくると言う。シャルルは仕事が立て込んでいて無理だから、自分だけで、と付け加えられた。
「だそうです、兄上」
「予想はしていたが……本気で陛下のご機嫌が斜めになるだろうね」
 二人は顔を見合わせるとため息を付く。
「とりあえず、お土産の焼き菓子は、父上の分を多めで作ります」
「すまないがお願いしていいかな?」
「もちろんです」
 シャルルが好きな焼き菓子を多めに作っておけばしばらくはごまかせるだろう。二人はそう考えたのだ。
「ナナリーにも手伝わせます」
 これならば文句は言えないだろう。ルルーシュはそう付け加える。
「確かに」
 オデュッセウスもうなずく。
「では、お互いに頑張ろうか」
「はい」
 言葉と共にルルーシュは立ち上がった。

 マリアンヌがやってきたのは夏休みに入る直前だった。
「お母様!」
 彼女の姿を見た瞬間、ナナリーが駆け寄っていく。
「ナナリー! 元気そうで何よりだわ」
 言葉と共に彼女はナナリーを抱きしめる。そしてぐるぐると回った。次の瞬間、彼女はナナリーから手を放す。
「ナナリー!」
 勢いよく吹き飛ばされた彼女はすたんと地面に降り立った。
「お母様のこれ、久々です」
 やはり楽しいです、とナナリーは微笑む。と言うことは、自分が知らないところでやっていたと言うことだろうか……とルルーシュは首をかしげる。
「ルルーシュは甘えに来てくれないのかなぁ?」
 その目の前にいきなりマリアンヌの顔が現れた。
「甘えるも何も……あれはできませんけど?」
「そんなの気にしなくていいのよ」
 とりあえずほっとしてマリアンヌに抱きつく。
「母さん、お久しぶりです」
 そしてこう告げる。
「いい子ね、ルルーシュ。ナナリーの面倒を見るだけでも大変でしょう?」
 さらに二人分とは、と彼女は笑った。
「それはないのではないですか?」
 ため息と共にオデュッセウスが口を挟んでくる。
「ナナリーはいい子ですよ?」
「そうね。あの子はあまりあなたに迷惑をかけることはないわね」
 そうでしょう、とナナリーへ視線を向けた。
「当たり前ですわ」
 お兄様に迷惑をかけるなんて、とナナリーは頬を膨らませる。
「相変わらずお兄ちゃん大好きね」
 じゃ、問題は預かっている子かしら? とマリアンヌは首をかしげた。
「あの子もいい子ですよ。ただ、かなり甘やかされてきただけで」
 周囲が悪かったのではないか。ルルーシュは母の腕の中からそう告げる。
「家にもそう言う人間がいるでしょう?」
 ただし、彼らはそれを修正しようがない。いや、周りがさせようとしないと言うべきか。
「そうなの?」
「実際、少しの注意で人並み程度になりましたから」
 多少晩ご飯でつったような気はするが、それがやる気に繋がっているならばいいだろう。マリアンヌも軍でよく使っていた方法だと聞いているし。
「あの子達よりは素直なのね。なら大丈夫でしょう」
 後は、と言いながら彼女は家の中へ入るよう促す。
「わたくしはどういう立ち位置なのかしら?」
 歩きながらマリアンヌはそう問いかけてくる。
「軍人です。それなりに偉い人ですね」
「お父様は文官と言うことになっています」
 ルルーシュの後に続けてナナリーがマリアンヌに説明をした。
「間違ってないわね、おおむね」
「だからごまかしやすいと思いました」
 オデュッセウスがそう告げる。
「下手に設定を作ると必ずどこかで破綻しますから」
「確かに。では、それで行きましょう」
 たいていのことは『機密だ』と言えばすむだろうし、とマリアンヌは笑う。
「ともかく、礼儀をたたき込めばいいのね。なら、鍛錬させればいいだけだわ」
 それなりにできる子でしょう? と彼女は問いかけてくる。
「私と同じくらいには動けますわ」
 ナナリーがそんな彼女に向かってこう告げた。その瞬間、マリアンヌの瞳が輝く。
「いいわね、それは。ならばちょっと稽古をつけてあげましょう」
 楽しみだわ、と微笑む彼女に、三人は微妙な表情を浮かべるしかできなかった。

 翌日、オデュッセウスはマリアンヌと入れ替わりに本国へ戻った。その手にはお土産が山ほどあったのは当然のことだろう。



19.09.20 up
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